第三話 『愛する者に不滅の薔薇を』 その十二
誰にも頼らない。それは、『自由』である。その正義も正しいものだが、庇護者がいない状況というものもリスクになった。
それでも、『オルテガ』はしぶとく再建され続けている。歴史上、支配者が変わる度に破壊されながらも、すみやかに修復を行い続けることで、完全な荒廃に呑まれることはなかったのだ。
この土地は、それだけ豊かな『商業の道』だということだな。存在するほど、金を稼ぎ続けられる道なのだよ。大陸の南部にある国々と……南の果ての海を通り、西へとも迎える。商いの中継地点でもあり、物資の重要な輸送路であり続けた。
何と言うか。
勉強になるぜ。
……王様用の社会勉強といえば正しいのか。ガルーナ王国の再建に、このしぶとい都市国家から教訓が得られるのではないかと探している面もある。
だが。今は、これ以上の考察をしている場合じゃないな。オレは、残念ながら山猿程度の知性しか持たんアホ族なのだからね。脳みその回転を、分散して使っている場合ではない。偵察に対して、注ぎ込むべき時間だよ。
荒野に呑まれた古い建築物から目を逸らして、地平を這わせるように視線を使う。
探しているのは、風車だ。
ガルーナのような風に愛された、山深い土地にはよくあったよ。硬いガルーナ小麦の製粉には、あれを使いたいところだからな……。
荒野だ。海は近くて湿度は十分あるのだが、雲を作るための山脈が『オルテガ』の近くにはない。『プレイレス』地方ほど豊かな土地でもなく、平坦な荒野には川も少ないな。『オルテガ・ガラス』という名産品のために、薪を多く使用したのか森も少ないと来ている。
それでも、農業をしなければならない。畑を探した。収穫の終わった夏の小麦畑をね。見つけたよ。迷宮都市『オルテガ』の胃袋を支える小麦畑……刈り取られて、今は黄金の穂が揺れているわけではないが……広さは、十分だ。
「広い畑には……養うための水源が要る」
「す、水源……川は、ありませんよね……っ?」
「『オルテガ』も『ルファード』も、地下構造を作ることが得意らしいからな」
「井戸が、あるのかな?」
「あるぞ。ああ、小さいのは、あちこちにあるが……あそこは興味深い」
『ふうしゃだー!』
風車が並んで建てられている場所があった。緩やかな丘の上で、海から荒野に向けて南に駆け抜ける風を捕まえようという考えだ。風を追って、探してみるものだよ。
「ゼファー、あの風車に向かってくれ」
『うん!』
「せ、製粉用の、風車ですかね……」
「二種類あるよ」
『ちょっと、せがたかいのとー、ちょっと、ひくいの!』
「背が高い方は、風車の根本に馬車を収納するタイプだな。その設備の上に、風車を載せるような形で建てている。なかなか、賢いデザインだ」
「そ、そうか。せ、製粉した小麦粉を、下に収納した馬車に……の、載せやすいですもんね」
「上の階で小麦粉を作って、そのまま下で待ってる馬車の荷台に落とすんだね。作業が楽になる!」
「そうだ。『オルテガ』の人々は、効率化を好むらしいな」
「で、でも。もう一つの方は……?」
「水を組み上げているのだろう。畑の中心に設置するように作っているしな」
「み、水を……っ?そ、そうか……あ、あっちの風車は、下に、深く掘られた井戸があるんだ。た、たしかに、水のにおいがします」
「良い建築をする人々だよ。風車の使い方も、上手と来ている」
「賢いね!」
『かしこいね!』
「ああ。『オルテガ』の人々の知恵は、いつも彼らを助けた。今夜も、助けることになるだろう。さすがに、馬を放置してはいないが……荷車は数多く置きっぱなしになっているな。それに、風車の数もある……理想的だ」
「ど、どういうことでしょうか?」
「破城槌を作るんだよ」
「は、破城槌を、作る、ですか?」
「風車を壊して、回っている柱を抜くとしよう。そいつを、荷車に乗せて固定すれば完成だ」
「な、なるほど!!」
「普通じゃ無理な作業ではあるが、うちにはゼファーもいるし、ジャンもいる」
『ぶっこわせるよ!かんたん、かんたん!』
「で、ですよね。あ、あれくらいの柱なら……も、持ち上げるのも簡単ですし?」
戦士として、あいかわらず嫉妬しちまいそうなほどに羨ましい発言だったぜ。村の男を総動員してやるような作業を、我らがジャン・レッドウッドは『簡単』にやってのけられる筋力がある。
猟兵団長としては、そんな猟兵を抱えていることが鼻高々になるから、差し引けば、ニヤリと笑顔になった。
「敵も、『ルファード』軍の動きを偵察していただろうし、進軍速度から考えれば破城槌を引きずって『オルテガ』まで来るとは思わんはずだ」
「それが、闇夜に隠れて現れるんだね!」
「ああ。密集した戦士で隠すこともやれそうだな。即席の破城槌だが、脆く作られた城塞を穿てるだろう」
ゼファーの『火球』で破壊することは、『ルファード』で使っている。ジャンの姿も敵に見られている。敵にとって既知の選択肢は、もはや警戒されているわけだ。よほどの無能でない限り、敵が見せつけた脅威には対策を考える。
だからこそ、『囮』として使えば有効となった。
本命の破城槌をより隠せて、敵兵の意識を二人に集められるわけだ。敵戦力を分散して攻め入るための作戦であるがゆえ、そういったデザインをしなくてはならない。




