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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その十三


「さっそく、下準備をしておこう」


『らじゃー!ぶっこわそう!』


「まあ、待て、ゼファー。乱暴なことをすれば、壊し過ぎてしまうぞ」


『あ。そーだね。あんなの、ぼくのぜんりょくを、うけとめられないよね……っ!』


「そういうことだ。連携して、作業するとしよう。適切な部位だけ、破壊する。『オルテガ』市民も許してはくれるだろうが、農民に過剰な負担を与えることはない」


「そうだね。美味しいパンが作れなくなったら、キュレネイも悲しむもん!」


 何とも想像しやすい言葉だったよ。キュレネイ・ザトーが食料を生産してくれるあらゆるものの破壊を悲しむのは、至極当然のことであった。『パンジャール猟兵団』の『番犬』は、とんでもなく大食いだからね。


「ということで、まずは着陸してくれ、ゼファー。狙うのは、あの丘の上にある製粉用の風車だ。大きさもあり、それなりに新しい。破城槌の本体に使うには、良さそうな柱だ!」


『うん!おーりーるー!』


 大きな旋回で夜空に弧を描き、ゼファーは地上へと降りた。


 すぐさま、お仕事スタートとなったよ。ミアは、大きな風車さんの内部が気になるのだろう、風より速いダッシュを使って、馬車を収納するために開いた風車の入り口へと飛び込んで行った。


「大きい!広い!!あと、小麦粉のにおいだー!!」


「製粉するには、少し早い気もするが……戦が迫ったからかもしれんな」


 戦というものは農業に与える影響も大きいし、逆に、農業から与えられる影響も大きい。戦争という行為の目的は、権力を確保するためか利益を確保するため、この二つ以外で生じた戦争など、歴史上存在していない。


 利益のためにやるわけだが、農作物の奪い合いというのも、この利益の範疇となる。食料は無ければ死ぬからな。絶対に売れる金のようなものだった。


 農繁期は平和という傾向も、歴史が示していたし、傭兵稼業での実体験で学んでいる。徴兵をかける者の大半は、農夫だからな。畑を耕す者がいなくなれば、戦の目的である食料も消える。


 勝者にとって、無益な戦はないのだ。敗者になる対象は、奪われるに相応する何かしらを持っていなくてはらん。


 『オルテガ』にいる帝国軍は、オレたちに略奪されるぐらいならば製粉してため込むことを選んだのかもしれない。


「確たる証拠とまでは言えないが、やはり、籠城戦を本格的にやりたがっていそうだ」


「な、なるほど。小麦粉を、『オルテガ』に運んだわけですね。す、数か月単位の、籠城を本気でやりたがっている……って、ことでしょうか?」


「ククク!」


「え、ええ!?そ、その、ボク、お、おかしなコトを言ってしまったのでしょうか!?」


「いいや。違うさ。賢い考え方を、してくれるようになった」


「……っ!!」


「ジャンよ、お前の戦士としての成長が嬉しいだけだ」


「あ、ありがとうございますっ!!ご、ご期待に応えられるよう、が、がんばりますっ!!」


 猟兵の成長を目の当たりにするのは、団長として大きな幸せだった。ジャンの、『狼男』としての嗅覚や身体能力に、猟兵としての知識や判断力が加わったら、どこまで伸びるのか……。


 純粋な戦闘能力だけではなく、作戦そのものを遂行する能力が、大きく向上することとなるわけだ。それは、想像するだけで心を弾ませるよ。


 いつの日か。


 単独で圧倒的な破壊工作で敵地を混乱の底に突き落とす、最高の戦場の申し子となれるかもしれん。


「楽しみだ」


 夜風を狂暴な貌で嗅ぎながら、牙を剥いた。『未来』が持っている可能性というものは、本当にワクワクを与えてくれるものだぜ。


「探検たーいむ!」


 ミアの元気な声が、大型風車のなかから響いた。オレとジャンも、馬車を引き入れるために用意された空間へと入る。粉っぽかったな。鮮度も感じさせる、小麦の香りだ。


 『狼男』ほどの嗅覚がなくとも、おそらく、オレの想像が正しかったことが分かるよ。足元の石床にも、掃除し切れなかった小麦粉やら穂の残骸が残されている。


 壁にかかった農具は、どれも整頓が利いているからな、この雑な仕事は、ここを使う農夫のスタイルに反して言える。たんに急がされただけだ。


「帝国兵どもに急かされたようだな。この、床石の擦れたところを見ろ」


「……け、削れて、いますね。新しい傷跡です」


「帝国兵の軍靴の底に点けられた鋲が、削った」


「……っ!!ほ、本当です。すごい、団長、さすがですっ。わ、わずかですけれど、帝国兵の使う鉄のにおいが、の、残っていますから、正解ですよっ!」


 その『答え合わせ』をやれてしまう能力が、うらやましくもある。知識と経験と、最後は勘に頼らなくてはならん推理ではなく、事実そのものを知覚できるのだからな。


「お兄ちゃん。二階も、三階もある……四階建てだよー!!」


 冒険心に弾む声を、ストラウス家の赤毛に浴びた。ニンマリしてしまう。妹がくれる愛らしさには、どうしたって、お兄ちゃんは勝てるはずもなかった。


「おう。待ってろ、ミア!オレたちもすぐに行く!……ミアに続くぞ、ジャン」


「は、はいっ!!」


 楽しい探検タイムといこう。


 戦場であっても、仕事中であっても。


 楽しむことは、大切だからね。


 


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