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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第三話    『愛する者に不滅の薔薇を』    その八


 何はともあれ。今はこの頼れる建築家から、より多くの有益な情報を得たいところだったよ。彼は、疲労している顔になっているが……こちらが心配していることを察知してのだろう。背筋を伸ばして、弱々しくも微笑んだ。夕焼けに合う表情だった。


「次の質問をしていいかな」


「ええ、もちろん。戦士として働きには行けません。その代わりに、せめて、知的な貢献をしておきたいんです」


「分かった。辛くなったら、言ってくれ」


 どうせ。辛くなったところで働き続けようとするのだろうがな。職人という生き方をする者は、おおよそ辛抱強くて、命を削りながらでも仕事をしてしまうものだ。


 それでも。こちらにも情報は必要だった。全ての戦いに勝利しなければならない。最小の犠牲で、最大の勝利を手にする。働かせねばならん。


「城塞の『弱点』を教えてくれるか?……君には、それが、見えているだろうか」


「ええ。死んでしまった友人から、聞かされていましたからね」


「友人が、城塞の建築に関わっていたと?」


「そうです。『研究施設』の……『オルテガ』の地下を拡張する作業や、人体実験の実験台とされる日々の始まる前から、『オルテガ』で哀れにも奴隷として帝国軍にこき使われていた男がいたのです。ドワーフで、器用で、とても寡黙で……尊敬できる職人でした」


「有能な男だったようだ。君のような建築家に評価されるのだから」


「はい。『プレイレス』式の、古い建築様式にまで見識があった男だったのに……『大学半島』で、レフォード大学の修繕にも参加したことがある、経験深い男でした……最高の職人ですよ」


「あの見事な建築は、忘れられん。壮大で、機能性も高い。風の駆け抜ける、夏でも若者たちが過ごしやすい建築だった」


「……ええ。それを、維持するために汗をかいた男の一人です。城塞や、石壁の修繕の名手でもあった。私は、設計の方が得意ですが、彼は、現場で創り出す力に長けた本物の職人です。もっと……多くを教わりたかったのに……」


「殺されたか」


「年齢が、それなりにいっていましたから。作業で疲弊したあとに、『寄生虫』を体内に埋め込まれて……血を吐いて死にました」


「痛ましいハナシだ」


「本当に……思えば、開発段階の、初期というか……あのころの『寄生虫』は、よく我々を殺していたように思いますので。きっと、完成度が低かった……『寄生虫』の行動が、変わった……蟲を、操っている……?」


「呪術が完成したのかもしれんが、メロどもが『ゴルゴホ』の知識で、『寄生虫』どもを変えたのかもしれん。徐々に、能力を向上させようという努力をしていたのは確かだな」


「……彼は、もっと遅くに虜囚の身となれば……いや、でも、けっきょくは、死んだのかもしれません。年を取った者は、ハリートビー廃鉱で……ほとんど全滅しましたから。彼は、助からない運命を与えられていたのでしょう……」


「おい。嘆くべきときか?」


 リハビリに汗を流すドワーフが疑問を口にしていた。建築家は、うなずく。


「そうだった。故人の思い出話をしているときではないね。彼は……『研究施設』が開かれる前より、奴隷として『オルテガ』の城塞を修理していたんです」


「帝国の侵略後の修繕にも、従事していたと」


「ええ。彼は、鋼とだけでなく、石材とも語り合えた。具体的に、どう帝国軍が城塞を突破したのかも、見えていたようです。作業現場への行き帰りは、帝国軍に警戒されていたのでしょうね、目隠しと、ときには耳栓まで使われたそうですが……彼は、多くを感じ取っていたんですよ……ここを、見てください」


 地図に走る無数の線……重層で堅固な城塞の一部に、建築家の指が触れる。手癖なのか、トントンと指腹で叩き続けていた。怒りは、感じない。むしろ、さっきとは真逆で、喜んでいるようだな。


 夕日に焼かれる目は、深く据わっていたが。


「ここです。ここが、『弱点』ですよ、ストラウス卿。彼や、彼と共に作業していた、亜人種の奴隷たちの、復讐の種が、撒かれていたところです」


「復讐の種?」


「設計そのものは、帝国人の建築家がしたんです。破壊した城塞の修復だけでなく、より頑丈な建築にしたいと、帝国人の建築家は野心を抱いた」


「迷宮都市『オルテガ』に、自分の建築を継ぎ足すことは、建築家にとっては名誉なことなのか」


「そうです!まさに、そう。あははは!……だから、帝国人の建築家は、出身地の東方海岸風の様式を持ち込もうとした。歴史的な建築に、自分の色を遺して、永遠の名誉でも得たかったのでしょうね。愚かな侵略者だ」


「奴隷たちは、その指示に逆らっていたわけだ」


「ええ。その帝国人の建築家は、未熟だった。彼にも、多く質問をしたり、古い時代の城塞を調べたりすることに夢中でした。自分の設計技術よりも優れたものが、目の前にはいくらでもあったせいで、自分の仕事を確認する回数が落ちた。見比べると自信を失くす。劣等感というものは、危険だ。あはは!」


「……ストラウス卿、こいつ、ちょっと疲れ過ぎているようだぜ。ドワーフの男が、こういう笑い方するときは、ダメなんだ」


「休ませるさ。必要なことを、聞いたらな」


「まあ、そいつも死んだ連中も、役に立てれば本望か」


「城塞の弱点について教えてくれ」


「ここです。北西の城塞は、新しく増築されているのですが……脆く作られてしまっています。内部に詰めるべき建材を、彼と仲間たちは、帝国人の建築家が目を離した隙を突いて、抜き取っていたんです。ここは、空虚な壁ですよ」




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