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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第二話    『無償の罪に、この手は穢れ』    その二百九


 楽しくなる。


 突撃していき、あのゼベダイ・ジスとやらの実力を、余すところまで試してみてやりたいとさえ願望していた。アーレスも、竜太刀の『牙』をギチギチと鳴らしていれば、ゼファーも敵を見つめている。


 ストラウスの剣鬼の血を満たす、良い戦いとなるはずだが……自重しようじゃないか。ミアが、注意するようにお兄ちゃんのことを見上げていたからね。


「分かってる」


「ん。それなら、いいの」


「そろそろ潮時だ。これ以上、敵を妨害することは難しいだろう。指揮官の首から血潮が吹いても、進軍を続けているような者たちが、多少の妨害工作で止まることはない。オレたちも、疲弊しているしな」


「ゼベダイ・ジスを、無理してでも討ち取るべきじゃない?」


「私はお兄ちゃんに賛成だよ。猟兵だからじゃなくて。あのゼベダイ・ジスは、命令に従ってはいるんだろうけど、やっぱり、リヒトホーフェンの手下だもん。『オルテガ』を攻めた方が有効だと思う。戻ろうとするはずだよ」


「リヒトホーフェンの忠臣だからな。命令を実行することに集中してはいるが……内心では、『オルテガ』とリヒトホーフェンを守ろうとする。表面上、どれだけポーカーフェイスを貫こうとも、本心は必ず行動に反映されるものだ」


 とくに。


 部下である帝国兵に尊敬されているというのであれば、ゼベダイ・ジスの本質は、かなり真っ当の軍人だろう。


「家を追い詰めれば、忠犬のように戻る。リヒトホーフェンの悲鳴一つで、こいつら全員が『オルテガ』に全力で走ることになるだろうさ」


「……軍隊って、大変なんだ。自分の意志よりも、命令に殉じないといけない?」


「その点に関して言えば、帝国軍という組織は、よく出来ている。悪い面も、あるが、強いのも事実だ。さてと、ドワーフの馬車隊のところに戻るぞ」


『……たのしみは、『つぎ』に、とっておく……』


「『ドージェ』もだ。リヒトホーフェンも、ゼベダイ・ジスも、どちらも仕留めるぞ」


 あの背中は、オレの獲物だと決めた。


 ……こうして、オレたちはドワーフの馬車隊を追いかけて、北北東へと飛ぶ。西の空に浮かぶ太陽は、さらに傾きを増していた。暑さのピークはとっくに過ぎて、山間を走る風には涼やかさも見つけられる。


 ドワーフを乗せた馬車を引く馬たちも、汗をかいてはいたが、十分な速度を保っていた。しんがりを守るレイチェルとジャンと合流するために、地上へと降りたよ。


『ちゃーくち!』


『お、お帰りなさい、だ、団長!みんな!』


「リングマスター、偵察はどうでしたか?」


「多少は足止めをやれたし、情報収集もしたぞ」


「敵の傾向とか、指揮官の……おかしな点とかが判明したんだ」


「それは聞いておきたいところですわね。お話を聞かせていただけますか?」


「ああ。だが、その前に……ゼファーに乗ってくれ」


「うふふ。ええ。ジャンの背中も座り心地が良かったのですが。ゼファーのうろこも好きですよ」


『うん!ぼくのせなかのほうが、ぜったいにきもちいいとおもうの!ぼく、しょうしゃだ!』


 自慢げにしっぽを高く上げるゼファーを見ていると、愛らしくて微笑んでしまう。


『そ、そういう勝負を、しているわけじゃないと思うけど……と、とにかく。の、乗りましょう、レイチェルさん』


「ええ。ジャンも休んでおくべきです。かなり走りましたし、また、次の戦場では、私の足代わりになってもらわなくてはなりません」


『え、ええ。は、はい。よ、より良い足になれるよう、が、がんばらせていただきます』


「努力なさいな」


 明確な序列というか、女王様と下僕みたいな人間関係を垣間見たような気がするが、おそらくオレの誤解だろうよ。たんに、レイチェルは楽しんでいるだけなのさ。


 ゼファーに二人を乗せると、空に戻る。ゆったりとした旋回で、馬車隊の周囲を護衛しつつも北上は続いた。情報の交換も完了したぞ。1000人の敵兵の装備の質についてと、想定される戦術……ゼベダイ・ジスについても。


「興味深い戦士ですわね。リヒトホーフェンは、最大の臣下をも、『変異』させてしまう男なようです」


「ぶ、部下とは言っても、腹心なんですよね?……そ、そんな相手にまで、『寄生虫』を仕込むなんて……」


「あら。ゼベダイ・ジスが自ら受け入れたのかもしれませんよ」


「え、ええ!?……そ、それは……そんなことって、ありえるんでしょうか?」


「忠誠心を示したかったのかもしれません。そのために、死をも受け入れてしまう者たちは、世の中にいます」


「り、リヒトホーフェンに、そんなことをしたくなる魅力って、あるんでしょうか?」


「愛しているのかもしれません」


「え、ええ!?だ、男性同士ですけど……!?」


「いいえ。リヒトホーフェンの死んだ娘と、ゼベダイ・ジスは恋仲だった。リヒトホーフェンに仕えることで、失った愛の苦しみを誤魔化せるのかもしれません」


「……どうあれ。難敵ではある。ルチア、暗号文は書けたか?」


「ストラウス卿たちの『フクロウ』で届けてもらうわ。どうせ、どんなに危険でも、避難したがらない長老もいるでしょうけれど、戦い方のアドバイスくらい耳を貸して欲しいところだ。ムダに槍で突っ込もうとするなって……はあ、全員、逃げてくれたら、気が楽なのに」


「死の恐怖や苦しみが、人物や場所への愛を完全に抑止することはありません。どうあれ、届けましょう。リングマスターたちの偵察の結果を」




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