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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第二話    『無償の罪に、この手は穢れ』    その二百


『くる!!』


「飛べ!!」


 鉄靴の内側を使って、反応を伝える。翼が空を叩きつけて、天高くへとゼファーを上昇させた。『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』の巨体が肉薄する。羽音をうならせながら、ゼファーの飛翔が残した影を貫いていたな。


「朝の個体よりも、速いと来ている」


「マルド・メロが、融合しているからかな?」


「そうかもしれん」


 ブブブブブブ、とやかましい羽音が夏の空を旋回していた。飛び方が、ゼファーとは大きく異なる。翼と羽、形も動かしかたも違うが……朝に見た『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』の動きとも、かなり異なっているようだ。


 左に右に、傾き方を変えながら天に大きく弧を描く。


「……狙い、にくい!!」


 ルチアが舌打ちした。あの細かく震えるような飛び方は、たしかに狙いを外す効果が高いな。左右に振れるだけではなく、その度に上下の変動も加えている。


「距離感を惑わしにかかっているな。体を入れ替えずとも、同じ姿勢のままで飛翔の方向を変えていやがるぞ」


『きよう。でも、いやみなとびかた』


「ああ。飛び方にも、性格が現れるものだ」


 ねじれている。そして、知識を頼る飛び方だった。繰り返すような反復で、こちらをそれほど見ちゃいない。


「地上にいる弓隊との戦い方を、想定しての動きに過ぎん。『ゴルゴホ』は、護身術以上を教えているのか!!」


『その通りだよ!!『ゴルゴホ』という組織は、帝国軍の一部とも組んでいるからね!!』


「『帝国軍のスパイ』……ッ!!」


『それを、どういう名前で呼ぶのか、正体までは私には教えてもらえなかったし、そもそも興味もなかったが……『ゴルゴホの蟲使い』たちは、戦術的なアドバイスや、訓練を、彼らから教わることもあった!!』


「敵の根は、どこでもつながっているということ!?……ほんと、ムカつく!!」


 ルチアが矢を放った。三本の矢を同時にな。『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』の揺らぐ飛び方に対しての彼女なりの答えというわけだよ。手数で、精度を補うという方法だ。


『広い空で、この動きに、その程度の対処で当たるはずもないだろう!!』


「くそ!!かすりもしない!!」


「……こっちの予測の、完全に裏を取ったね。賢い飛び方というか、頭でっかちの飛び方をしてる。それに……羽に、頼り過ぎているところは、つまんないかも」


 竜騎士らしい感覚を、ミアが述べてくれた。


「まったくだな!!」


『つまんない、とびかた!!』


『楽しむために、飛んでいるわけではない。幻惑し、そちらの集中力を奪いにかかっているんだよ!そして、低くから、高くから、右から左から!!こうして、『棘』の雨を撃ち放つぞ!!』


 作戦を高らかに叫びながら、『棘』の乱射を我々にぶつけて来やがったよ。『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』の体表に並ぶ骸骨どもの口が開き、その奥底から太さと鋭さを持った長い『棘』が撃ち放たれる。


 前進しながらも撃ち、後退しながらも撃つ。距離感を測りにくい撃ち方ではあった。『ゴルゴホの蟲使い』に対しての訓練は、かなりの真剣な考慮の末に練られたものだったというわけだ。


 『帝国軍のスパイ』どもも、『ゴルゴホ』の力を頼ろうと必死だったらしい。どちらの組織も、おかしな能力者の集まりとも言える。帝国内に、居場所があるような集団ではないか。


 鉄靴を使い、ゼファーに命じる。『棘』の乱射を回避するためにな。選んだ道は、シンプルなものだ。高く、高く。天高くに上昇することで、『棘』の射線から逃れていった。


『上に逃げるか!!太陽にでも、隠れようとしたのかな!!だが、もう、日はそれなりに傾いてしまっているぞ!!』


「それは、貴様が教えてもらった戦術での言葉に過ぎん。竜と、虫けらが、同じ哲学で飛ぶとは思わんことだ!!」


『ほざけ!!逃げているくせに、追い詰められているんだぞ、お前たちこそが!!』


 『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』は『棘』を放った。高さを維持したまま、弧を描くように旋回しながら。多くの角度を作って、こちらを狙っていたが……いずれも命中することはない。


 速さがあるからでもある。そして、マルド・メロが気づいていない弱点が、『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』にはあるからな。


『あ、当たらん!?』


『あたりまえだよ。おまえ、とぶのに、むいてない』


『何を、言っているんだ、羽トカゲえええええええええええええ!!』


 挑発されて腹を立てたのか、『骸群の巨蠅/ベルゼブブ』がようやく上昇を始める。感情的になり、無数の『棘』を放ちはするが、当たらない。こちらは速く、高く……『棘』は遅く、精度も低くなっている。


『こ、これだけ撃っているのに、かすりもしないだと!?』


「弱点があるからだよ、蠅のおっちゃん」


 ニヤリと唇を歪めてしまう。ちゃんと、ミアも気づいてくれていたことが嬉しいぜ。


『弱点など……っ!!空中からの攻撃は、訓練でも教わっている……それに、『蟲の教団』の聖典にも、巨蠅の使徒は圧倒的な力を持っていたと……』


「『誰』に対して?」


 ミアの言葉に、賢さが刺激されていた。巨大な蠅の頭部から生えた、黒いマスクの奥底で、見開かれた瞳があったよ。


『……地上部隊に……対して……ッ』


「その蠅の撃つ『棘』は、大きくて、重すぎるの。細かくブレるように飛ぶから、風に乗せて撃つんじゃなくて、力尽くで風を貫いて撃つだけの重たい弾なんだ。高みにいる竜を狙うには、まったくもって向いてないんだよ」




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