第二話 『無償の罪に、この手は穢れ』 その百九十八
マスク越しでも、マルド・メロの興奮が伝わって来やがったよ。
夢を語る野心的な者は、いつだって夢に酔っていて、夢に問われることを好むものだった。こいつは、心の底から夢中となっている。
「一つ、理解してやれることはあるな」
『……何を、だい?』
「貴様らは邪悪な殺戮者ではある。それは、変えることの不可能な絶対の真実ではあるが……」
『手厳しい評価だね。たんに、どんな道においても進むためには犠牲が必要だということだよ』
「それは、世迷いごとでもあるが……破壊のための力ではなく、何か得体の知れないモノを創り出す力を、求めているわけだ」
『ああ。死人を出すのは、あくまでも副産物であってね。徹頭徹尾、私たち兄弟が求めていたものは……『創り出す力』だ』
「……おぞましいモノを、創り出してはいるがな」
『この巨蠅のことかい?それとも、『巣箱』のことかな?……美的なセンスや、価値観というのはそれぞれだ。私からすれば、ヒトがここまで形を変えられたということは、一種の異形だと思う。見た前よ、空まで自在に飛んでいるんだ』
「『パンジャール猟兵団』にも、飛行機械を作りたいと言っている男がいるがね、クソデカい死体で編まれた蠅になったら飛べるぞと言っても、爆笑はしても同意することは絶対にないぜ」
『価値観は、それぞれだ。客観的に認めたまえよ。戦闘能力も強くなり、死ぬはずだった状況からも生還させている……この戦闘的な姿であることは、不必要ではあるが……圧倒的な健康性を手にしていると評価できるはずだ。少なくとも、『寄生虫』を身に宿し、『変異』していない私に比べて、やれることがずいぶんと増えた』
「……狂気を感じるわ。そんな行いに、『ギルガレア』の力を、使うな……っ」
『君らは『蟲の教団』を追放しただけにしていたから、盗まれるんだよ』
「……く!?」
『この世の中はね、やっぱり取り合いだ。奪い合うことで、誰かが誰かより多くを手に入れていくものだ。そういうヒトの世の摂理において、『蟲の教団』という叡智の宝庫を、追放するだけに終わらせていたから、『ゴルゴホ』に盗まれ、私たちやリヒトホーフェンにも奪われた』
「根絶やしにしていれば、良かったとでも言うの?」
『私的な見解を、述べているだけだよ。君が、もしも、その場に手紙を送れるとしたら、どんなアドバイスを千年前のエルフに与えたいと願うだろうね』
「虐殺者になりたいわけじゃない。より、的確に封じる」
『なるほど。それが君か。甘いんだね』
「うるさい!!」
「……それでさ、おっちゃん」
『なんだい、チビッ子ちゃん』
「リヒトホーフェンは、『それまでになかった新しい何か』?……って、いうのを創り出したいんだよね?」
『まあ、そういうことだ。ただし、彼は帝国貴族だからね。私たちよりも軍事的な力に対しては、思うこともあるだろうし、欲してもいるのかもしれないが……我々、三人が一致している目的は、『それまでになかった新しい存在』を、この世に産み落とす技術を確立することだよ!!』
ミアはアタマをぶんぶん横に振った。
「難しい。分かるように言って!」
『……例えば。『ゴルゴホの蟲』には、欠損した肉体を補完する能力を持つ種もいる。死ぬはずの重傷を負っても、蟲が肉体や臓腑を補うことで、生きられるんだ。便利だろう?』
「ん。まあ、ね。キモチワルイけど」
『それでも、死なずに済むなら、選択する者も多いだろう』
それにはうなずけたな。ジーロウ・カーンで、試したことがある。
『命を救える『ゴルゴホの蟲』を、『ギルガレア』の『聖餐』が与える力で、別の形質を与える……ああ、そんな間抜けな表情をするなよ、ケットシーの少女。つまり、『ゴルゴホの蟲』の治癒や治療の能力を、強化する……という方法を、求めているんだ』
「なるほど。おっちゃんたちは、それを、したかったんだね」
『……まあ、ね』
「目的は、悪くなかったのかもしれないね。でも、しちゃいけないことをたくさんした」
『犠牲はつきものだよ』
「犠牲になったヒトたちは、おっちゃんを許さない。戦士の影には、そういう魂たちが宿るよ」
『戦士の価値観や伝統は、知らないね。だが、気持ちは理解している。誰もが、納得はしないさ。それでもね。犠牲が増えるほど。実験台が増えるほど。後には引き返せなくなるものだ』
「おっちゃんたちみたいな悪人、よくいる。追求し過ぎて、周りが見えなくなって、被害を増やしちゃうんだ。ブレーキが壊れちゃってるんだね」
『壊しているんだよ。必死にね。そうじゃないと、ここまでの願いは実現することは不可能だ』
「でも、猟兵の職業倫理は、許さない」
『……許されなくても、してしまうのが、我々だ。それでも、聞いておくといい、ケットシーの少女。『それまでになかった新しい存在』に、全ての人々を変えれば。健康で、幸福で、満たされた人生を……全ての人々が歩めるかもしれないだろう?誰もが、病に屈しない。苦しみも痛みもなく、ただ人生を楽しみ尽くす……そんな生物に、ヒトを『変異』させられたら、とても幸せなことじゃないか?』
「私は、自分でいたいと思う」
『……自分でいたくない者だって、いくらでもいるんだよ。さて……ソルジェ・ストラウス。私は、話したぞ。君の『時間稼ぎ』に乗ってやった。義務を、果たせ。ギブアンドテイクだ』




