第二話 『無償の罪に、この手は穢れ』 その百九十七
欲しいのは、リヒトホーフェンの目的についてだ。力を求めているのは理解しているが、具体的に何を求めているのかまでは読めん。
そもそもだが……。
「……貴様は、何も知らないのか?リヒトホーフェンの野心について」
軽んじてみる。安っぽくて、感情を狙うための挑発のつもりだ。それでも、突き刺さるだろうよ。劣等感を狙った言葉というものは、有効なことも多いものだからね。
こいつにとって、知識の探求者にとって、『無知である』と指摘されることほど、腹立たしいことはないんじゃないか?戦士が、『弱い』と侮辱されたことに等しいだろうからな。
口もとが、歪む。奥歯が鳴らされた。みじめな歯ぎしりをしているようだ。良い傾向だった。さてと、教えてくれるかな、賢いマルド・メロよ。
『リヒトホーフェンの狙いか。良いだろう。教えてやる。彼は、『蟲の教団』が行っていた儀式を再現したがっているんだよ』
「聖餐をか!?」
ルチアが黙っていられなくなったらしい。『蟲の教団』について、部族の罪だという認識をしているようだからな。
『エルフか……お前は、この地域のエルフ……?』
「その通りだ。貴様らが侵略を企てている土地の戦士!我々の、古き時代の遺物を、好きなようにはさせん……ッ!!」
『とっくの昔に、手垢まみれになるほど、『蟲の教団』の叡智は研究されているよ』
「く……ッ!!」
「どういうことだ?」
『……何がだね?』
「それほど昔ではなかろう。リヒトホーフェンが、『オルテガ』を掌握したのは、それほど昔じゃない。研究期間は、いつからだ?……とっくの昔に、というのは、いつのことからなんだ?」
沈黙する。考えているわけではなく、判断しているようだ。嘘をつかれてはたまらんから、問いかけて追い詰めてやることにしよう。
「『ゴルゴホ』は、かつてから『蟲の教団』のことを研究していたとでも言うのか?」
「え……?」
「似ているからな。気配を完全なまでに消し去る薬も……ギー・ウェルガーが使っていた、『ゴルゴホの蟲』と、この連中が使っている『寄生虫』は、類似した特徴がある。無関係なのか?それとも、手垢まみれになるほど、研究し尽くしているのか?……知っているだろう。教えやがれ」
『……詳しいな。ギー・ウェルガーと知り合いならば、彼から聞いたのか?』
「いいや。あいつはぶっ殺してやっただけだ。話しをした時間など、戦闘のついでに過ぎん」
『……あれを、倒したと。まったく、ムチャクチャな男だな』
「それで。質問に答えるつもりはないのか?答えられないのか?……隠したいとするのならば、オレの指摘は正しいことになる」
『論理の飛躍だろう……』
「貴様は間違いを指摘しなかったからな。肌で感じる傾向も、『ゴルゴホの蟲』と『蟲の教団』の『寄生虫』に似ている点を感じている。『ゴルゴホ』からの離脱者を、リヒトホーフェンが研究者として採用したことも、裏付けになりそうだ」
『知的な考察かな?』
「感覚的な洞察かもしれんな。だが、当たっているだろう。無関係とは、思えん」
『……ああ。答えてやろう。教えてあげるよ、ソルジェ・ストラウス。『ゴルゴホ』は、いくつかの古く知的な集団が融合することで発足した組織だ。医学を研究する目的のために、特殊な知識を持った者たちが、かつて集まった。そのなかの一つが……他ならない『蟲の教団』だったわけだよ』
「……『ゴルゴホ』の、ご先祖様は、『蟲の教団』だったの?」
ミアの問いに、マルド・メロは肩をすくめた。
『あくまでも、ご先祖様の一人といったところだけどね。『ゴルゴホ』は、宗教団体でもない。『ゴルゴホ』は、研究集団なんだよ、ケットシーの少女』
「ふーん……」
「私たちの先祖の一部が、部族から離れて、おかしな宗教を作って……敗北して弾圧されたら、ヘンテコな集団に逃げ込んだって?」
『その通りさ。彼らは、『ゴルゴホの蟲』を作るキッカケを与えてくれたようだ。『ゴルゴホ』は、それを独自に研究した。より医療目的に沿うような研究と、『寄生虫』に選別を与えていき……『ゴルゴホの蟲』と呼ばれる発明を完成させた』
「なるほどな。想像通りというわけか」
『野生の獣のように、勘が優れていると褒めておこう。いや、『ゴルゴホの蟲使い』と遭遇する稀有なチャンスがあったおかげで、気づけただけか。これは、経験。珍しい人生を歩んでいる』
「まあな。ギー・ウェルガーと戦っていなければ、『ゴルゴホ』なんていう集団が、実在しているとも信じなかったかもしれん」
『秘密主義だからね。そうでなければ、世の中から抹殺されかねない。あいつらは、容赦なく邪悪なこともする……私たちのように』
「『ゴルゴホ』流か」
『そんなところだ。私も兄も、容赦のない研究者だ。知識のためにならば、敵とさえも交渉している』
「で。リヒトホーフェンの野心について、教えてくれるか?ヤツは……『聖餐』を、『ギルガレア』に新しい罰の力を……つまり、新しい『掟』を作る儀式を、したがっているのか?」
『『聖餐』には、その側面もある。だが、『ギルガレア』の振るう権能は、罪と罰という破壊の力だけではない。クリエイトする力こそが、興味深い。創り出す力だ。新規の法則に従う、強靭な神の獣を創る……あるいは、罰に応じた罪深い姿へと変える行いでもいい。どちらにせよ、『それまでになかった新たな存在を生み出す』……とても、魅力的だろう?』




