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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第二話    『無償の罪に、この手は穢れ』    その百七十六


「はあ、はあ……っ。はあ、はあ!……マジか……っ。ここまで、差が……っ」


 百人近くの敵の死体のなかで、ルチアは槍を地面に突き立てていた。悔しがっている。猟兵との実力差を垣間見たからだろう。


「いい仕事だったぞ」


「……うん。知ってる。それだけに、また、違いが……見えちゃった」


 槍で地面を突き、しなやかに身を起こす。汗ばむ顔はあきらめてはいない。当然だな。力の道を放棄するには、まだまだ若すぎたぜ。


「昨日よりも強くなった気はする」


「ああ。その通りだ。どんどん強くなってくれ」


「うん。待っていて。いつか、猟兵の領域に追いついてみせる」


「ククク!……楽しみにしている」


「……ええ……そうね……これは、きっと…………憧れなのか」


「そういう表情を選べるようになったのならば、また一つ、強くなれますよ」


「……そうなのかしら?それは、貴方の体験談なの、レイチェル・ミルラ?」


「秘密です」


「ずるい」


「大人のレディーは、少しはずるくなくては魅力が足りませんので」


「あはは。そうなんだ。そうかも、ね。私は、まだまだってことだ」


 女子たちが何らかの友情を築くなか、オレとミアは死者の群れのなかを歩いた。探しているのさ。死人じゃないヤツを。


 戦場という場所は、演技上手を生むものだ。暴力という圧倒的な序列の世界だからかな。演技というものは、役の序列に合わせるものだろう。『ツェベナ』のアーティストたちから学んだ感覚と、戦場での体験談によれば、おそらくそうだった。


「…………」


 やはり、この傭兵どもの群れのなかにもいやがったぜ。『死んだフリ』をするのが異常なまでに上手いヤツがな。そいつは身を固め、息を殺し、心臓の動きまで弱めていた。


「圧倒的な弱者に徹するという演技をすることで、ここまでやれるか」


「詩人さんも、そんなこと言っていたね」


「ならば、覚えておくべき価値がある教訓だろう」


「うん。覚えておくよ。さあ、傭兵のお兄さん。死んだフリはお終いだよ。見逃してあげるつもりはないから、起きてね」


「…………っ」


 それでも気配を殺す。微動だにしない。


「良い技巧だな。情報次第では、殺さずにいてやろう。ほら、起きろ。態度で恭順を示さないのであれば、竜太刀の切れ味を、貴様の体で試してみることになるぞ」


 竜太刀を振り回す。空を裂く音は、耳心地が良くてね。どれだけ斬れるかを証明したくなる。敵を殺すことも、嫌いじゃない。『仲間』を守ることに直結する行いだからな。


 だが。


 殺されるよりも先に、演技の魔法は解かれてしまう。


 一秒前まで死体同然に活動を停止していた男は、ビクリと身を跳ねさせて、その場に起き上がっていた。土下座する傭兵がいたな。だが、油断することはない。ミアが、そいつの右手首を踏みつけてへし折っていた。


「ぎゃああああ!?い、痛いいい……ッ」


「ナイフを隠したからね。そういう態度は、あまり好ましくないよ」


 ミアは残虐なわけじゃない。この器用な演技者は、土下座を作った腕と胴体に隠してナイフを準備していた。もしも、オレたちが一人であれば、こいつは話術を使いながら隙を狙い、暗殺を仕掛けていただろう。


 技巧と性格というものは、何とも職歴を反映するものでもあった。


「盗賊か暗殺者の技巧を、訓練しているな。傭兵になる前は、悪党だったか」


「う、うう……っ」


「コミュニケーションを取らないのなら、用済みだよね」


 ミアの脅しに、土下座野郎はその身を跳ね上げた。へし折られたばかりの手首を抱えたまま、脂汗の落ちる顔面をぶるぶると震わせる。


「話しますってば!!ど、どうせ……うちの分隊は、全滅しちまったんだ」


「そうだな。ジャン!」


『は、はい!い、生き残りは、いません……!!』


「うおお。なんだあれ?……デケー狼が、しゃべってるんだが……ッ。竜だけじゃないのか、アンタの使い魔は」


「使い魔じゃないぜ。竜はパートナー、ジャンは大切な『仲間』だ」


『……っ!!』


 ジャンがとても嬉しそうな顔をしていたな。照れたように、顔を地面に向けている。


「二人はお兄ちゃんの大切な家族の一員だよ。理解したかな?」


「お、おう。わ、分かりました……っ。暴言を、お、お詫びして訂正いたします……」


「丁寧なお兄さんだね」


「……そ、そうだよ。丁寧で、素直で、アンタたちの下僕だ。殺すな。もう戦いは終わり……ほ、ほら、剣も……捨てるから……」


「もう一本のナイフもね」


「見抜き過ぎだろう!?……どんな人生送っていれば、そんなガキが出来るんだ」


「お兄ちゃんとおじいちゃんに鍛えられただけだよ」


「……そ、そうかい。と、とにかく。ほんと、今度こそはマジで武装解除したんだ。全裸になれというのなら、なるが……」


「そこまでは必要じゃない。たんに、情報を得たいだけだからな」


「は、話すよ。オレは、こいつらと長くつるんでいたわけじゃないからね。義理もない。それに、死人よりも生きている自分に尽くすべきだろう?」


「大義を持たない男は嫌いだが、今は許してやる。貴様の所属を言え」


「オレは、『黒羊の旅団』の一員だ。い、今まではな!今は、もう違う。貴方さまがたの敵になることは、二度とねえ。ただの一般人の負傷者だ」




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