第二話 『無償の罪に、この手は穢れ』 その百七十七
お調子者がいつもいつも愛されるとは限らない。オレは、この必死な傭兵について多少の愛着を持てたりもするのだが、ルチアは違ったようだな。
「こういう身勝手な男は嫌いだ」
「あら。奇遇ですわね。私も、それほど好きではありません」
「す、好き嫌いでヒトの命を生かしたり殺したり……そういうのは、しちゃいけないって思いませんかね!?まるで悪神みたいじゃないか!?あなたたち美しい乙女には、そういった行為は似合わないよ!!」
よく口が動く男だった。おしゃべりタイプなオレよりも、よほど自己弁護に長けていそうだな。ルチアは肩をすくめて、オレを見た。
「ストラウス卿にお任せしたいかな。そいつを見ていると、イライラする」
「まあ、任せろ。こいつらの所属先とは、少しばかり因縁もあるからな」
「因縁?」
「『黒羊の旅団』ですわね。大手の傭兵団ですが……」
「『メルカ』で遭遇した。まあ、本隊ではなかったが」
「オレはね、旦那。下っ端ですから、他の『黒羊の旅団』の連中とは関わりなんてものはないからね!だって、こいつらとつるんで日が浅い……スカウトされたんだ」
「有能なんだね」
「ち、ちが!!無能です!!」
生きるために必死過ぎる男がいたな。ミアに折られた腕を、オレに見せつけてきやがる。
「有能な傭兵だったら!ケットシーのお嬢ちゃんに、バキって腕を折られたりしないと思うんだよね!!だよね!?そんなカッコ悪い一流の傭兵なんてこの世に存在しちゃいないよね!?」
「まあ、いないだろうな」
「そう。オレは、とても無能だ。『黒羊の旅団』は、アレだよ。けっきょく、規模を拡大したがっていただけだ。だから、オレみたいな腕でも、雇ってもらえたわけだよ」
「戦士を集めていたか」
「仕事が増えているんだろう。最近、『蛮族連合』どもの調子も良いと来ているからね」
「お兄さん、『自由同盟』」
「は、はい!!聖なる『自由同盟』さまたちです!!」
「うんうん。それでいい」
ミアが……悪女みたいな振る舞いを覚えている。ちょっと、ワクワクしてしまうのは、お兄ちゃんがシスコンだからだろうか?ともかく、情報収集をしてやろう。この男は生き残るためなら、人生最悪の恥だって素直に口にしてくれそうだ。
「『黒羊の旅団』に所属して、貴様らは何をしていた?」
「帝国軍の下請けさ。魔物退治に、物資の運搬、あとは……その……」
「素直にね」
「あ、亜人種さまたちの村を、焼くこともありましたです!!オレとしては、不本意なことなんですが、あいつらに命令されて仕方がなく!!」
「はあ。殺してやった方がいい男かも?」
「後生な!!オレは、ほんと、根はいい男なんだよ!!あいつらが、ムチャな連中だって!!オレたち下っ端は、分け前も少ないのに残虐行為をさせられただけです!!」
折れた腕を差し向けた方に、炎で焼け死んだ男がいる。黒焦げになってはいるが、身なりは他の死体に比べて、ずっと良いものだったな。
「分隊長か」
「え、ええ。オレたち百人隊の、隊長でした。オレとは、もう関わりがありませんが」
「軽薄すぎる態度は、笑えんぞ」
「も、申し訳ございません!!」
腕の折れた男の前を通り過ぎて、『火薬樽』の被害に遭って死んだ傭兵隊長のもとへと向かう。顔は火傷のせいでよく分からないが、おそらく見たことはないだろうな。
「帝国軍と契約を交わしたはずだ。つまり、命令書を持っている」
『し、調べてみる価値がありそうですね!』
「ああ。さっそく、死体漁りと行こう」
ナイフを抜いて、傭兵隊長であったという男の腰に巻かれた革の袋を裂いていた。銀貨と宝石が転がり落ちる。宝石については、略奪品なのかもしれん。持ち主に返してやりたくもなるが、手段がないか……いや、よく動く口がいた。
「宝石をどこから盗んだ?」
「し、知らない。でも、おそらく、その……」
「亜人種の村か」
「……だ、だと思います。そいつ、残酷だったんですよ。罰当たって、自慢の剣も振れないうちに、すぐ死んじゃいましたよねー……」
「どこの村か、ルチアに教えてやれ」
「ああ、そうね。もしかしたら、知り合いの村かもしれない」
「ど、ドワーフの村ですので!?エルフの方とはお知り合いではないかもです!!」
「ドワーフか……貴様ら、ドワーフを集めて、廃鉱に送っていたか?」
「え、ええと……」
「ミアが折った腕を、今度は私が切り落としてもいいけれど?」
「エルフさまあああ!!素直に話します!!お許しください!!ど、ドワーフたちを、今から行く予定だった廃鉱に、お、送り込んでいましたあ!!」
「ということよ。こいつら、リヒトホーフェンの悪事に深くかかわっていたみたい。極悪人だ」
「だとしても、もう改心しましたから!?ぐふう!?」
軽口を槍の柄でぶん殴られる男がいた。死にはしないから、別に気にしない。それよりも、死者の持ち物から、目当てのものを見つけたことの方が重要だからな。
「命令書だ。隊長が持っていたというのであれば、最も重要な指示が書かれてある」
「で、ですとも……っ。その鬼畜野郎は、ほんと……秘密主義でして。『黒羊の旅団』の本隊にいたこともあるからってだけで……え、エリート風をふかしてまして……」
「飛ばされた男か」
「み、みたいですね。だって、乱暴な仕事は、得意でしたが……い、戦のイロハなんてものは、てんで知らない男でしたからねえ」
「スカウトされた貴様の方が、よほど有能か」
「い、いいえ!?オレなんぞ、ただのおしゃべりなだけのクズですから!!小人物なんで、ぜひとも見逃してください、英雄ソルジェ・ストラウスさまああ!!」




