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おふろ

14、おふろ


 島の生活も慣れてしまえば、これが当たり前と思うようになった。以前のコンピューターやテレビ、携帯電話もアマゾンも宅配ピザも遠い話。

 なければないでなんとかなるし、するけれど、ひとつこれはと思うものがある。ピでお湯が出る給湯システム。あれは他のものに埋もれちゃってるけど本当に便利だあ。


 そう思ったきっかけはタイの一言。

「風呂につかりてえ」

 確かにゆっくりお湯に入るのは気持ちよかろう。


 家の中に巧みに張り巡らせて、キッチンで洗面所でお風呂で、ピでお湯が出るなんて夢のような話だね。

 そうして考えたのは、1.5人分の労働力ででいかに楽をして湯船につかるか。

 まず考えたのは湯船。私には湯船と言えばバスタブしか思いつかなかったけど、タイは日本で育ってるから、いろんな温泉のことを知っていた。そこでタイが思い出したのが、海の温泉。

 日本には、海岸を掘ると温泉がわいてくる砂浜があるらしい。

 ここでは温泉は湧いてはいないけど、浜で深く砂を掘れば海水があがってくる。もちろん冷たいし、砂はすぐ崩れるからそんなに深くはできないけど。

 その間に私が焚き火をどんどんおこして、石を焼く。

 その石を入れれば海水が沸く。


 はじめてみる石焼風呂に感動して、タイってすごいってはじめて言った。はにかんだ笑顔で照れ隠しみたいに、

「さっさと入らないとすぐにぬるくなっちゃうから」

って無理やり押し込まれたけど熱いって!

 でも横になって背中をお湯につけると、背中の痛みがすうっと引くの。痛みの残る左足も、力の入ってた肩も緩んでほんとに気持ちいい!

 あったまったところで交代して、タイがつかる。

 難点は翌日になると、満ち潮で掘った穴が消えてるところ。また掘りなおしだもの。


 でも、考えればできるもんで、石焼風呂バージョン2を作った。作ったのは飲料に使っている泉のそば。

 泉からあふれた水は自然に流れて周りの砂地に吸い込まれていた。ということはその近くに穴を掘ってまわりを岩や木で崩れないように囲って、泉から樋をひいて水が流れ込むようにしておけば、ある程度はたまるんじゃないかしら?

 私は考えるだけで、実際に大変なのはタイなんだけど。タイは囲いにする岩をたくさん拾ってきた。それと流木とか風で倒れた木。私はその間、浜に落ちてた大きな貝殻を使って膝立ちの姿勢で砂を掘る。

 穴を掘るって大変なのね。最初はすぐに掘れると思ってたけど、30cmくらい掘ると、その先は掘っても掘っても進んでないように見える。だからバトンタッチ。


 大汗をかいて自分で作った木製シャベルをざっくざっくと砂にめり込ませるタイの背中は、最近ついた筋肉が動くのが見えてドキドキする。トレーニングとかでつけた見せるための筋肉じゃなくて、必要でついた筋肉って美しいのね。

 そうして少し掘っては石を積み、地道に掘り進めて言った。私は樋を作って、そのうちやることがなくなってもう一つ必要なものを作り始めた。これは難しい物だった。

 私の体の一部になるもの、義足1号。硬めの木片をおおざっぱに削っていく。先端は丸くしてこれはかかとの部分に当たる。やわらかくて強い素材であればつま先をつけられるけど、そうではないからね。

 もっと難しかったのは、私のすねに直接触れる部分。きれいに縫ってあったらいいんだけど、焼灼しただけでかさぶたになっちゃってるから、大体の形を合わせただけなんだけど。こっちの勉強はあまりしなかったからなあ。試しに足に固定して立ってみたけど痛くてダメだ。とてもこれで歩くなんてできない。

 頭を下げて前屈するように左足のまわりをよく観察した。やはりぴったりとフィットしてないから、触れてる部分が痛くなるのかな。かさぶたが取れたらもう一度作ってみよう。胸元からぶら下がる指輪が鼻に当たる。


 そう言えば、足を切って昏睡している間に、見たと思ったタイの指にはまった指輪が、いつの間にか私の首にかかっていた。聞いてみたけどはめてないって言うし、夢だったのかもと思ったりする。


 タカシと日本でするはずだった結婚式。白無垢を着て、角隠しをかぶって神式でやるはずだった。久しぶりの帰国を楽しみにしていた母も、着物を着るんだと張り切っていた。

 その後は、そのまま日本で新婚旅行をするはずだったんだ。

 そうすれば、アメリカにいてもルーツを知らない根なし草のような感じは消えると思ったし、おばあちゃんのお墓詣りに行って、親戚に会って、私はここから始まったんだと知るのを楽しみにしてたのにな。


 こんなことになってしまったからには、結婚式も取りやめだ。おかあさん、楽しみにしてたのにごめんね。まあ、立ち直りは早い人だから大丈夫とは思うけど。


 ナイフのような石と荒彫りの木片を手に座って、ぼんやりと思いだしていた。私の前では汗を飛ばしながらシャベルを振るうタイが労働している。


「タイ、富士山て登ったことある?」

「ない」

「へえ、日本に住んでたんでしょ?じゃあ、見たことある?」

「ある」

「もっと教えて」

「夜にな」


 つれない返事をされた。夜って言っててもすぐ寝ちゃうと思うけど。


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