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異世界は赤い星と共に  作者: 凜乃 初
カラン合島国・極星編
126/151

125話

「フハハ! 甘い! 甘すぎるぞ、お前たち! それでもカランの名誉ある騎士か!」


 俺はノリノリだった。

 鍛冶屋の屋根の上に立ち、ウィンドカッターの応用、ウィンドキューブで鍛冶屋を囲むように防壁を張り、騎士達を近づけないようにしている。

 騎士たちは手も足も出せない状況に歯噛みし、俺はそれを屋根の上から見下ろして挑発していた。


「高々冒険者1人の魔法に手も足も出せない。まんまと詰所から逃走を許し、その上鍛冶屋に立てこもられるなどとは、なんとも情けない事だな! それで本当に民を守れているのかね!」

「貴様! いい加減その口を閉じろ! 我々への侮辱は国家への侮辱となるぞ!」

「ならば国家を侮辱してやろうか? ん!? 俺にしてみれば、お前たち程度の手綱すら握れない国家も、なかなか酷いものだと思うけどな! フハハハハハハ!」


 高笑いをしながら、俺はウィンドキューブの隙間を抜けてきた矢を掴みとる。


「この程度の攻撃、俺には蚊が飛んでいるのと同然だな! お返しだ」


 掴んだ矢を、放った騎士の足もとへと投げ返せば、その矢はまっすぐに地面へと突き刺さり、砂埃を巻き上げた。

 その光景に、矢を放った騎士は腰を抜かしその場にへたり込んでしまう。すると、その騎士を別の騎士がすぐに物陰に避難させた。


「無駄無駄無駄! 俺とまともに戦いたければ、せめてルリーぐらいの奴を連れて来るんだな! だが今回は手加減はしないぞ! ぶち殺す気で行くからな! 覚悟しておけ!」


 それだけ言い放ち、俺は屋根から降りると、鍛冶屋の中へと戻る。そこには優雅にお茶をすするおっさんとカラリス、フランは鍛冶屋に飾ってある木剣を振り回して遊んでおり、フィーナはそれに付き添っていた。そして奥からはバスカールの鉄を打つ音が聞こえてくる。こいつらは、騎士に囲まれていることなど一切気にせず平常運転だ。


「俺が言うのもなんだけどさ、もう少し緊張感持ったら?」

「今更何言ってるんですか。この程度じゃ緊張できませんよ」


 俺の言葉に真っ先に反してきたのはフィーナだ。まあ、フィーナは色々俺が巻き込んだから、慣れてきても仕方がないのかもしれない。けど、カラリスやおっさんは別だろ?


「私は良く爆発を起こして王都の騎士の方から怒られていましたからね。騎士さんの怒りにはなれているんですよ。5人の屈強な騎士さんたちに囲まれて、正座させられて説教くらう時に比べれば、ここは騎士さんの姿も見えませんしね」


 確かにそれに比べれば、今の状態はなんてことはないかもしれない。


「儂も昔はブイブイ言わせとったからの。騎士程度を怖がることなどありゃせんわい」

「そうなのか?」

「師匠は昔、遺跡荒らしとかやってたからね」


 そこに奥から戻ってきたバスカールが話しかけてくる。


「遺跡荒らし?」

「調度品なんかを探して、遺跡を勝手に散策するのさ。それでいいものがあったら持って帰ってきちゃう。師匠は骨董系の武器も大好きでね、その趣味が高じて鍛冶屋もやってるぐらいだから」

「だからこの店、古そうな武器が沢山飾ってあるのか」


 売り物では無い、額に飾られた武器。そのどれもが刃こぼれを起こしていたり、一部破損していたりするものばかりだ。これらが遺跡から持ってきたものと言うことなのだろう。


「それでバスカールは平気なのか?」

「ほんとのことを言うと結構怖いよ。けど、鍛冶をしている時はそれに集中できるからね。あ、そうだ、サイディッシュの取り付けが終わったから、少し振ってみて。違和感あれば、それを直すから」

「お、了解」


 そして俺はバスカールと共に、地下に降りてサイディッシュの最終点検をし始めた。


 ミラノがその鍛冶屋に到着した時、鍛冶屋は風の刃のような物で囲われており、誰も近づけない状態になっていた。

 周りに集まっているピクティムの騎士達も、誰もがその風の刃を見ながら、立ち往生している。

 鍛冶屋の周りはすでに警戒線が張られ、民間人が近づけないようになっているため、ここにいるのはピクティムの騎士だけになる。

 ミラノが周囲を見回せば、ミラノの存在に気付いた詰所の隊長が松葉づえを付いて近寄ってきた。


「ミラノ殿、応援お疲れ様です」

「ご苦労様です。状況は?」

「現在冒険者はこの鍛冶屋の中に潜伏しております。先ほどから何度も投降を呼びかけてはいるのですが、一向に聞く耳を持たず、逆にこちらの騎士を煽ってくる始末でして手が付けられません。あの風の隙間を縫って矢を放っても見ましたが、当然のように受け止められて投げ返されました」

「本当に人間なんですかね……」


 放たれた矢を受け止め、投げ返すなど、人間業では無い。そしてその投げ返された矢を場所を見て見れば、そこには突き刺さったボロボロの矢と小さなくぼみ。刺さった衝撃で出来た物だと言うのは明白だった。


「ところでルリー様は? 応援に来ていただけると聞いていたのですが?」


 隊長がミラノの機嫌を伺うように聞いてくる。


「ルリーは所用で少し遅れます。そのために私が先行してきました。一応は私も彼と知り合いですので、話し合いにはなると思います」

「分かりました。では風属性の者をミラノ様に付けますので、拡声器としてお使いください」

「ありがとうございます。隊長はゆっくり休んでいてください」


 なるべく平静を装い、隊長にこちらが何も知っていないと思わせる。

 そうしなければ、こちらが危ない可能性もあるからだ。詰所の騎士達の大半が、今回の計画に加担しているのなら、下手をすれば、そのままピクティムごと造反と言うこともあり得る。捕まえるのならば、逃げ道をなくして、一気に捕まえなければならない。それができるのはルリーだけだろう。

 ミラノは、そばに寄って来た風属性使いの騎士に声を届けさせる魔法を使わせ、店の中にいるであろうトーカに向かって声を掛ける。


「トーカ様! ミラノです! 出てきていただけますか!」


 しばしの沈黙、そしてその後に店から出てきたのは、トーカでは無かった。

 その姿は女性。手に真っ赤な髪の子供を連れた、10代半ばの少女。フィーナだ。


「フィーナさん?」

「すみません、今トーカは地下にいるので、代わりに私が来ました。お話しなら私が聞きますよ?」

「ああ、そう言うことですか」

「貴様! なめているのか!」


 代理の者、しかも子供を連れた少女が出てきたとことで、隊長が激昂する。

 しかし、それをフィーナは何事も無く受け流し、会話を続ける。

 その事に、ミラノは内心驚いていた。普通10代半ばの少女であれば、こわもてのおじさんが顔を真っ赤にしながら怒鳴り声を上げていれば少なからず動揺する物だ。しかし、その様子がフィーナには全く見られない。さすがに手を繋いでいる子供は怖がっている様子で、フィーナの足にギュッと体を寄せていた。

 フィーナはその子供の頭を優しく撫でながら笑顔を浮かべている。

 トーカが後ろに控えているから落ち着いていられるのか、それともこのような状況に慣れているのか、ミラノにはそれは分からなかったが、少女もただ、トーカの仲間であるというわけでは無いと、認識を改めておくことにする。


「ミラノさんが来たと言うことは、情報は伝わったんでしょうか?」

「ええ、ルリーもすでに動いています。もうしばらく待っていただくことになると思いますが、しばらくすれば状況が動くでしょう」

「分かりました。こちらはまだ食糧も余裕もありますので、ゆっくりでいいですよ」

「ありがとうございます」

「ミラノ様! なぜあのような者に敬語を使うのですか! 奴は犯罪者の仲間ですよ!」

「トーカ様の仲間だからです。迂闊に彼を刺激すれば、それこそピクティムが無くなりかねませんよ。それを理解しているのですか? それともその責任を取る準備があるとでも?」


 先ほどから怒りに飲まれ、怒鳴り声を撒きちらすことしかしていない隊長に多少睨みを利かせる。するとすぐに隊長はおとなしくなった。


「もう少し状況をしっかりと理解してください。私たちが相手をしているのは、ただの少年でも冒険者でも無く、世界に4人しかいないA+ランクの冒険者なのです」

「し、失礼しました」

「私は現状を議会に報告します。あなたはこのまま鍛冶屋を監視、包囲を続けてください」

「了解しました」


 敬礼を1つ、ミラノはその場を後にする。

 隊長はその後ろ姿を、イライラとした視線を混ぜながら見送った。


 調整を済ませたサイディッシュを背負い、俺が地下室から出て来ると、フィーナが話しかけてきた。


「トーカ。上の人たちに情報はちゃんと伝わったそうですよ。さっきミラノさんが来て、ルリーさんが動いてくれていると言っていました」

「おう、了解。ならすぐに解決できそうだな。なら俺はもう少しあいつらをいじってくるか」


 結構面白いんだよな。あいつら煽れば煽るだけ顔が真っ赤になってくから、見てて楽しい。


「あんまりいじめちゃだめですよ?」

「分かってるって」


 変に突撃されて、ウィンドキューブでズタズタになっても気分悪いしな。

 フィーナ達に軽く手を振りながら、俺は再び屋根の上に上がった。


 ミラノの到着から1時間ほど。依然現場は膠着状態だった。しかし主犯であるトーカが再び屋根の上に現れたことで、騎士達の顔に緊張が走る。


「戻って来たぞ、お前ら! 何もできずにただボーっとしてるだけで金がもらえるなんて、騎士は便利な職業だな! 俺も冒険者辞めて騎士になれば一生ボーっとして過ごせるのかね!」


 開口一番、盛大に煽っていくスタイル。

 しかし、今までとは違い騎士たちはなぜかその挑発に乗ってこなかった。これは何か状況が変わったな。友軍でも来たか?


「良い気になるのもそこまでだ。貴様を今から地面に引きずりおろしてくれる! 魔法隊、エアショット構え!」


 騎士の指示に従い、一列に整列していたローブのようなマントの付いた騎士甲冑を着た面々が手を俺に向けて構えてくる。


「放て!」

『星の加護よ、気弾を放て。エアショット!』


 数人の魔法使いが一斉に放ったエアショットは、俺のウィンドキューブに当たり砕け散る。しかし、さすがに数人の攻撃を一度に受けたのはきつかったのか、少しウィンドキューブにひずみが出来た。

 それを見て、騎士は畳みかけるように指示を飛ばす。


「あの根本を狙え! 一斉に攻撃してあの魔法を一部だけでも破壊するのだ!」


 なるほど、集中攻撃で俺の魔法を破るつもりか。お手並み拝見と行こうかね。


『星の加護よ、炎弾を放て。ファイアボール!』


 今度は火と炎属性の一斉射撃。さすがにその熱量は膨大で、空気で出来ているウィンドキューブが大きくゆがんだ。


「今だ! 突撃ぃ!」


 歪んで一部が大きく開いたウィンドキューブ。その隙間から大量の兵士が中になだれ込んできた。その光景を騎士の隊長が嬉しそうに見ている。

 そこで俺は大げさに首を振りながら、声を上げる。


「愚か! 実に愚か! この程度でどうにかなるなら、A+冒険者などできんわ! 星誘いて、隆起を起こす。グラウンドアップ!」


 俺の魔法によって、騎士達の足もとが突然大きく浮き上がる。

 あまりに突然の出来事に、突撃してきた騎士達はなすすべも無くその場に尻もちを着いた。そして、地面の波によって、もんどりうちながらウィンドキューブの外まで押し出されていく。

 滑稽な様子を俺は屋根の上から眺めて、盛大に笑い声をあげた。


「ハッハッハッハッハ! 騎士とは芸人の集まりだったのだな!」


 もう少し煽りを入れようと思ったところで、俺は騎士達の後ろから来た人物の姿に目を留める。そしてこれまでかと、煽るのを中止した。


「そろそろ悪ふざけも終わりにしてあげてください。この人たちにはきっちりと訓練(地獄)を与えておきますので」

「んじゃそろそろ終わるか。そっちは片付いたのか?」


 現れたのは漆黒のドレスを纏った女性。常闇のルリ-だ。

 ルリーが現れたことで、現場が一様に沸き立ったが、ルリーが俺と普通に会話し出したことで、すぐに沸き立った感情は混乱へと変化するのが分かった。


「ええ、大方は。大本は締め上げましたので、もう大丈夫だと思いますよ」

「了解」


 その言葉を聞いて、俺はウィンドキューブを消す。それを見た騎士達が突撃をかけようとしたが、それをルリーとミラノが止めた。


「やめなさい! これ以上この方への攻撃は、民間人への攻撃として犯罪とみなしますよ!」

「まあ、実力でどうにもならないのを、今だ理解できない人には難しい判断かもしれませんがね」


 ミラノの言葉と、ルリーの辛辣な言葉に、騎士達の足が止まる。


「ど、どういうことですか! 奴は犯罪者ですよ!」

「すでに議会は彼が犯罪者だとは考えていません。むしろ我々の事に巻き込まれた被害者です。ルリー」


 詰め寄って来た隊長に、ミラノは冷たい視線を向け、ルリーに行動を促す。それを見て、ルリーは一つ頷くと、魔法を発動させた。


「星の加護にて、停滞の毒を撒け。パラライズミスト」


 一瞬にして、ルリーの周りから霧が吹きだし、集まっていた騎士達をまとめて包み込んでいく。


「な、なにを……」

「ピクティムの全騎士に、禁忌ほう助の疑いが掛かっています。なので纏めて連行させていただきますね。あ、ミラノはこの薬を飲んどいてください」


 パラライズミストの効果によって、騎士達がその場に膝を付き動けなくなる。その中で、ルリーと薬を飲んだミラノだけが立っていた。


「全員連行とか大変だな」

「これもお仕事ですからね。それでトーカさん、良ければ私と一緒に来ていただけませんか? 死者蘇生のことについて、色々とお聞きしたいのですが」

「密偵から聞いてるんじゃないのか?」

「直接見た人とお話ししたいんです」


 その顔には、明らかにそれ以外の感情が浮かんでいた。そう、例えばこの事件を1人で解決するのは面倒くさいから俺にも押し付けようとしている奴のような表情が。


「できれば断りたいんだけど……」

「ダメですか?」

「う、うぅん……」

「行ってもいいんじゃないですか?」


 俺が悩んでいると、下から声がした。フィーナが外の様子を見に来たのだ。


「いいのか?」

「だって、面倒事に巻き込まれたのに、何も報復しないのはつまらないじゃないですか」

「ふむ、それもそうか」


 何度も帝国の連中には巻き込まれたからな。ここらでビシッと打撃を与えとくのも手かもしれない。けど、フィーナがそんなことを言うのは意外だったな。

 俺が視線を送ると、フィーナは僅かに微笑んで「後で」と口元を動かした。

 それに1つ頷いて、俺は返答を待っているルリーに言葉を返す。


「分かった。案内してくれ」

「その答えを待っていましたよ」


 ルリーは嬉しそうにポンと手を叩いた。


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