126話
俺たちはルリーとミラノに案内され、七島の1つで議会のあるサミリラに来ていた。
港からルリーを先頭に道を歩けば、人がわらわらと光に集まる虫のごとく集まって来る。しかし、一定の距離から近づくことは無く、いつの間にか道はパレードの様相を呈していた。
「毎回こんな感じになるのか?」
「常闇で歩くとこうなりますね。普通に歩くと皆さん見向きもしません。むしろ視線を逸らします」
そりゃそうだろうな。ピンクのフリフリが堂々と道を歩いてりゃ誰だって視線を逸らしたくなる。
この世界じゃ、まだフリルのふんだんなゴスロリ系の衣装はあんまり無いみたいだし、変人扱いになるだろうし。
「もう少し派手な服は慎みなさいと言っているんですけどね」
「こればかりは譲れませんね。私の確固たる趣味ですから」
「あの衣装お前の趣味だったのか」
常闇との差別化を図るための衣装だと思ってた。
「薬とフリル。それが私の趣味ですから」
フフフと笑いながら、ルリーは俺達に到着を告げた。
「ここがカラン合島国中央議会ですよ」
そこには巨大な建物があった。広さ的には隣に見えている王宮となんら変わらない。しかし、実用性を重視されているのか、門から議会までの距離は近く、議会の形も三階建てまでと高さ的にはやや低い。
しかし、その分奥行があるようで、そこに大量の部屋が用意されているのだとか。
「まずは泊まっていただく場所に案内しますね。大本は締め上げましたが、下っ端がフィーナさんたちに手を出さないとは限りませんから」
偶然とはいえ俺たちは秘密の計画をカランに知らせてしまった。その報復が無いとは限らないからな。相手も国だし、迂闊に動くことは無いとは思うけど、念のために警備をしっかりしておいてもらえるのは嬉しい。
こっちには戦闘能力のないフランもいるからな。
案内された部屋は、宿とは比べ物にならないほど豪華だった。一応宿でも一番いい部屋に泊まっていたのだが、その部屋よりも広く、自由度が高い。
洗面所も風呂も完備しており、流し台も大きなものが備え付けてある。部屋は五部屋以上あり、プライベートもばっちりだ。まあ、そんなに部屋を使うことになるとは思わないけど。
「しばらくはこの部屋を自由に使っていただいて構いません。何か不自由なことがあったらあのベルを鳴らしていただければメイドが来ますので」
そう言ってルリーはドアの横に置いてあるハンドベルをとると、チリンと一回ならした。するとすぐにドアがノックされ、メイドが現れた。
「お呼びでしょうか?」
「お茶をお願いします」
「承りました」
メイドは静かに一礼すると、廊下を歩いて行ってしまう。
それを見送ってルリーは「ねっ」とほほ笑み部屋の奥へと入っていく。俺達はそれに付いてこれからしばらく世話になる部屋に入って行った。
荷物を置き、全員でソファーに腰掛け話しをする体勢をとる。
戻ってきたメイドさんにお茶を貰いながら、何から話すか考えていると、ルリーがメイドさんに新たな指示を出した。
「そろそろ容疑者の調書が取れると思いますので、持ってきてください。出すのを渋ったらこれを使って構いません」
ルリーがメイドに手渡したのは、俺がミラノからもらった物と同じようなプレートだ。
「なあ、そのプレートが証明になるのか?」
「はい、これは本人の依頼であることの証明や、プレートの持ち主を呼び出してもらうために使うものですから」
「だから隠密もプレートをよこせって言って来たのか」
「そうですね。このプレートがあれば信頼性はぐっと増します。プレートを他人に渡すことは滅多にありませんから、それだけ信頼されていると言うことにもなりますしね。恋人どうしで交換している人もいるんですよ」
「へぇ。そりゃ面白そうだな」
誰でも作れるならフィーナやフランとプレートを作って交換してもいいかもしれない。こっちの世界じゃ、ある意味これが指輪とかの代わりに出来るかもな。
「そう言えばトーカ様にお渡ししたプレートは戻ってきてしまっていましたね」
ミラノがそう言って自分のポケットからプレートを取り出しこちらによこしてくる。
「またそれはトーカ様が持っていてください。何かと面倒事に巻き込まれやすい体質のようですので」
「はは、貰って一日で使うぐらいには面倒事に巻き込まれやすいみたいだからな。ありがたく受け取っとく。今後は使う機会が無い事を祈るけどな」
「そうですね。それに越したことは無いです」
受け取ったプレートをポケットにしまう。それを見てルリーが口を開いた。
「それでは詳しく聞かせてもらってもよろしいですか? どこでどのようなことがあったのかを」
「ああ」
そして俺は、今朝からの出来事を詳しく話していった。
蘇生の魔法回路を騎士団に報告し、逃げ出した所まで説明した時、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します。資料をお持ちいたしました」
入って来たのはさっきのメイドさん。手には紐で纏められた紙が握られている。
「ありがとう。もう下がってくださって大丈夫です」
「では失礼いたします。御用の時はすぐにお呼びください」
メイドさんは綺麗に一礼すると、音も無く扉から出て行った。あれがプロのメイドと言うものなのだろう。デイゴの王宮にいた時も目にする機会は多かったが、やっぱり凄いな。
メイドさんの動きに見惚れていると、頬を抓られた。
「トーカ。今は話しの途中ですよ」
そちらに顔を向ければ、若干頬を膨らませるフィーナ。フランはそんなフィーナを不思議そうに見て、指で頬をつついていた。
「悪い悪い。それで騎士団から逃げ出して、鍛冶屋に篭ったんだよ。そこからは騎士団から報告が来てるだろ?」
「そうですね。事情はよく分かりました。ちょうど資料も来たことですし、この後のことについて考えましょうか」
ミラノが紐をほどき、纏められていた資料を開示していく。
「これはピクティムの島長と議員、他関係者からの聴取です。私が嘘を話せなくなる薬を使いましたので、書かれていることは全て事実になりますよ」
そう言いながら資料の一枚を渡してきた。それを受け取ると、ルリー自身も自分の手元に資料を寄せ、真剣な表情で読み始める。
そして俺も貰った資料に目を通し始めた。
そこに書かれていたのは、まずどれほどの関係者が今回の計画に関わっていたのかと言うものだ。
まず筆頭にピクティムの島長と議員、そしてナサトと言う七島の1つの島長も関わっているらしい。その上、2つの島の騎士団や、周辺の盗賊にまで根回しが完了しているそうだ。これは想像以上に問題がデカくなっている。
計画の立案はやはりギンバイ帝国。1年ほど前から今の皇帝が計画を始動させ、こっそりと進めて来たそうだ。
その中に気になる一文を見つけた。
・各地にギンバイ帝国から盗賊を派遣し、蘇生回路の条件に適した場所を探させる。その際、各国での盗賊行為に対し、ギンバイ帝国は干渉せず、問題にもしない。
派遣地域には国境地帯のみならず、国の中枢付近にも及び、かなりの被害者が出ている模様。
その一文を見た瞬間、俺はこの世界に初めて来たときのことを思い出した。
大量の盗賊に追われて逃げてきたフィーナ。デイゴとユズリハを繋ぐ大動脈は警備が厳重なのにもかかわらずそれだけの規模を維持できた盗賊たち。
何より、フィーナの言った、こんなところに盗賊が現れるはずがないと言う言葉。
「やっぱり……」
その言葉に俺はハッと声のした方を見る。
そこには涙を流すフィーナがいた。
「まま、どうしたの?」
資料を読んでいないフランは、状況がつかめずおどおどしている。そしてフィーナの顔に手を伸ばし、流れる涙をぬぐっていた。
「どこかいたいの?」
「いいえ、大丈夫です。ちょっと懐かしい事を思い出しただけですよ」
フィーナは自分の目元を拭と、そう言ってフランに笑顔を見せ、頭を撫でた。その言葉に安心したフランは、嬉しそうに眼を閉じて撫でられている。
「あの、フィーナさんはもしかして?」
フィーナの様子に気づいたルリーが、俺に小さく問いかける。
俺はそれに頷き答えた。
「フィーナは親父さんを盗賊に殺されている。しかも、場所がデイゴとユズリハを繋ぐ道だ。普通盗賊なんて現れないし、現れても小規模な奴らしかいない。けど、フィーナの話だと盗賊の数は50近くいた。つまりはそう言うことだ」
「そうでしたか……」
時間が経っているとはいえ、フィーナの傷はまだ完全には癒えていないのだろう。それは俺やフランが代わりになってやることが出来ない存在だ。
寂しさを埋めてやることならできる。紛らわしてやることも出来る。でも、根本的な部分の傷をいやすことが出来るのは、きっとフィーナ自身しかいない。
俺たちは、フィーナが傷を癒せるように、場を整えてやることしかできない。そんなもどかしさを感じつつも、俺はフィーナが傷を癒し、乗り越えてくれると信じていた。
それは、今まで一緒に旅をしてきてフィーナを見てきたからだ。
フィーナは着実に強くなっている。それは技量の面も、精神の面も。特にフランを一緒に連れて歩くようになってからは、精神面の成長が目覚ましい気がする。その分俺がないがしろにされている気もするが、そこは俺がフランの父としてグッと堪えることろだろう。
色々な町で、色々な人と会い、経験を得て、子供を守る強さを得た。だからこそ、フィーナなら自分の傷を治せる強さを持っていると信じている。
「フィーナ、大丈夫か?」
「すみません、ちょっと取り乱しました。もう大丈夫です」
フィーナは少しだけ赤くなった目元を擦り、再び資料を読み始める。それを見て、俺も再び資料に目を戻す。今回の件はもっと詳しく知る必要があるようだ。フィーナのためにも、フィーナを守った親父さんのためにも。
資料の次に書かれてていたのは、この計画の目的。
それは、過去の偉人を復活させて、帝国に仕えさせることらしい。
確かに偉人ならば、戦力としては申し分ない。しかし、蘇生させられた者が素直に帝国に従うだろうか? それは多少疑問に思う。
禁忌とされている魔法で蘇生させられたのなら、この世界に生きている人間ならば間違いなく怒るはずだ。そしてそんなことをした帝国を許すことは無いだろう。
それなら、帝国に仕えさせることなど無理なはずだ。
そこで、次に書かれていたもので、その理由が理解できた。
帝国はどうやら人を操る魔法を開発しているらしい。それを使い蘇生させた者を帝国の傀儡にするように計画を進めているようだ。
その魔法がどのような物かはさすがに書かれていない。他国のただの協力者程度には教えられないだろうし、当然だろう。
「ルリー、この操る魔法。どう思う?」
「考えられるのは一つです。魂に干渉する魔法。禁忌の部類に入る魔法でしょうね。いったい帝国は何を考えているのか。こんなことをすれば、周辺諸国が全て敵になると言うのに」
「それでも蘇生したい奴がいるってことだろ」
そして資料の最後の部分。蘇生対象が誰かという所だ。
そこに書かれていたのはたった一言だけ。
・極星の勇者
帝国が禁忌を犯してまで傀儡にしようとしている対象。それはおとぎ話にも登場する最強の存在、極星の勇者だった。
「蘇生魔法ってのは、誰でも簡単に使えるもんなのか?」
「条件さえ揃えば誰でも使うことが出来ます」
俺の質問にミラノが答える。
「条件?」
「一つは星の加護を持っていること。これは魔法を発動させる時点で必要になるものです。もう一つは、蘇生させる対象と、自分の加護が同じ属性を持っていること。そして最後にこの魔法が禁忌とされる理由の、生け贄を用意することです」
「生け贄や星の加護は分かるけど、同じ属性ってどういうことだ?」
魔法自体の発動は無属性で発動できるのだし、同属性を持たなければならない理由が分からない。
「それは私たちにも分かっていません。もともと禁忌のため研究することも出来ませんから。しかし、この条件を持っているのにもかかわらず、帝国は極星の勇者を蘇生させようとしている」
そこは、大きな謎だ。
極星の勇者は全属性を使える。つまり、蘇生魔法を使う者も全属性を持っていなければならないはずなのだ。しかし、そんな人物がいれば、名前ぐらいは世界中に知れているだろう。こっちに来て半年の俺でさえ、A+になって有名になっているのだ。子供のころから真っ当に育っていれば、隠しきることは難しいはずである。
ならば、他に補う方法があるのだろうか?
その疑問に答えたのは、ルリーだった。
「トーカさんは先ほど、数名が魔法陣を囲んで魔法を発動させようとしていたと言っていましたよね?」
「ああ」
「では、その数名が全員違う属性と言うことは考えられませんか? 一人一人が一つの属性を担当して、全ての属性を集めるのです。だからこそ、集団で発動できる魔力回路型の魔法が必要だったのでは?」
「そう考えるのが妥当か……」
俺のように全属性を使える奴が実はいましたと言う考えよりかは現実的だ。
「つまり、帝国は蘇生魔法の下準備は全部出来てるってことになるな」
「蘇生まではそれこそ秒読み段階でしょうね」
ルリーのその言葉は、俺達全員の体を強張らせた。




