119話
??編です。ネタバレ防止のためにこうしてますけど、みんな分かっちゃってますよね……
ルリーとの戦いのせいでサイディッシュがダメになってしまった。
斧側は爪が割れたように大きく抉れているし、チェーンソー側も刃が毒に触れたために溶けてしまっている。
今サイディッシュを無理に回転させれば、魔力回路自体がダメになりかねない。
「と、いう訳で鍛冶屋に行こうと思う」
「まあそれしか無いでしょうね」
「かじやさん?」
「トーカの武器や私の武器を作ってくれる人の所ですよ」
「おー」
フランのいた島には鍛冶屋は無かったらしい。まあ小さな村だったしな。
「では今日は依頼を受けないんですか?」
「うんにゃ、普通に依頼は受けるぜ。別にサイディッシュが無いと受けられない訳でもないし、むしろサイディッシュを使わない場面って結構多いしな」
「分かりました、じゃあとりあえず鍛冶屋さんを探しましょうか」
と言うことで、俺たちは今第6島ピクティムに来ていた。フィーナの話ではここにはカランの冒険者ギルド本部があるらしく、依頼の量も種類も豊富なのだとか。
俺ならどんな依頼でも問題ない気もするが、今回はフィーナもフランを連れて簡単な依頼を受けると言うことで、なるべく数があり選べる場所を選択した。
町を巡回してきた騎士に鍛冶屋の場所を聞き、そこに向かう。
道には相変わらず露店が多く並び、良い匂いがいたるところから漂ってくる。その誘惑に耐えながら鍛冶屋に到着した。
そこは、一軒家の小さな家のようだった。入口の扉は取り外され、中からカンカンと鉄を打つ音が聞こえてくるから間違いないだろう。
しかし、修理を受けてもらえそうな鍛冶屋を頼んだら、ここを紹介されたってことは、結構イロモノの可能性があるんだよな。
なんつったって、最初騎士にサイディッシュ見せた時も、十分変な顔されたし。
量販系の店なんかいったら、間違いなく修理拒否されるだろうしな。
「すみません!」『おじゃまします』
店の中に入り、3人で声を掛ける。
「あいよ!」
奥からすぐに返事が返ってきた。しかしカンカンと鳴る音は止まないことから、何人か鍛冶師がいるのだろうか。それとも受付で専門でも雇ってるのか? あんまり人を雇えるほど余裕がある店には見えないけど。
そして出てきたのは、小さな寸胴体型のおっさんだった。
「どうした坊主」
「武器の修理を頼みたい。騎士の人に聞いたらここなら大丈夫って言われたんだけど」
「ってことはイロモノ武器か?」
「まあそんなところかね。こいつなんだけど」
そう言って俺は背負っていたサイディッシュをおっさんに渡す。
それを見ておっさんは目を輝かせた!
「こ! これは俺の見たことも無い武器だ! そこに置いてくれ! 詳しく調べたい!」
「お、おう」
興奮するおっさんに若干引きながら、俺は指示された通り作業台のような場所にサイディッシュを置く。
すぐにおっさんが駆け寄り、斧やチェーンソー、柄の部分を細かく調べ始めた。
「柄は普通の柄だが強化鉄が使われてるのか、斧も一般的なものだな。だが気になるのはこの細かい刃が取り付けられた側だ。これはどうなっている?」
「魔力を流すと刃が回転するんだ」
「なるほど、摩擦か」
おっさんはすぐにチェーンソーの原理を理解した。
「そうなると今使うのは危険そうだな。刃が一部中に溶けてる。一体何をやったらこんな風になるんだ?」
「ルリーと試合したんだよ。あいつ、毒の剣で武器まで溶かしやがった」
「ルリー? まさか常闇のルリ-か!?」
「おう、ちょっと機会があってな。まあそんな訳でこの武器の修理を頼みたいんだけど、できるか?」
「斧側と、傷ついた柄の部分は俺で問題ない。だがこの特殊な機構の部分は正直難しいな……中には魔力回路が描かれているようだし、それにも溶けた鉄が一部付着している。これを取り除かないと完全に直したとは言えないだろう。しかし俺には魔力回路の知識など無い……いや、ちょっと待て、確かアイツの嫁が」
おっさんは何かに気づき、奥に引っ込んだ。
そして奥で会話が聞こえる。誰かと話しているようだ。
「おい、お前の嫁確か魔法道具屋やってたんだよな? ってことは魔力回路も作れるか?」
「え? あ、はい。作れますよ」
「なんですか師匠。いきなりですね」
「今来た客の武器が少し特殊でな。魔力回路で刃を回転させる機構を持ってる。俺じゃ完全に直すことが出来ないんだ」
「魔力回路で刃を?」
「それってもしかして!」
どたどたと言う足音と共に、奥から2人の人物が飛び出してきた。
そして作業台に置いてあるサイディッシュを見て、驚きの声を上げる。
「やっぱりサイディッシュだ!」
「だいぶ壊れちゃってるけど、これ私たちの作った武器だよ!」
「これがここにあるってことは!」
そして俺達の方を見る2人組。それは間違いなくバスカールとカラリスだった。
「お前ら、こんなとこでなにしてんの?」
驚いたのは、あいつらだけではない。こっちも素で驚いているのだ。なんて言ったってユズリハにいるはずの2人組が当たり前のようにカランにいるとか、誰が予想するんだよ。
「あ、僕たち結婚することにしたんですよ。それで今は新婚旅行中です」
「結婚!?」
「あら、おめでとうございます」
その単語に俺が驚き、フィーナがぱちぱちと手を叩く。フランもフィーナのマネをして拍手していた。
「ありがとうございます。フィーナさんもお久しぶりですね。剣の使い心地はどうですか?」
「とってもいい感じです」
「それはよかった。ところでその子は?」
「娘です」
『娘!?』
今度はバスカールとカラリスが驚く。まあ当然っちゃ当然だよな。ユズリハにいた時は、ただの相棒って感じだったし、数か月で娘が出来てれば誰だって驚くか。
「まあ養子だけどな。けどこっちも正式に付き合うことになったんだ」
「そうだったんだ! おめでとう!」
「ありがとうございます」
フィーナとカラリスはお互いに手を繋ぎ合ってぶんぶんと振る。
それを見ながら俺はバスカールに尋ねた。
「なんでカランに新婚旅行なんだ?」
「この店が僕の師匠のお店なんですよ。なので結婚報告も兼ねてこっちに来たんです。それにトーカたちの噂がカランに向かってたのもありますね。もしかしたら会えるかもって」
「そうだったのか。完璧なタイミングだったな」
「まったくだね。それでこのサイディッシュだけど」
「おう、お前らがいるなら直してもらえるか? 新婚旅行中で悪いけど」
「もちろん直させてもらうよ。これの完全メンテは僕たちじゃないとできないからね。見たところ斧と柄はすぐにでも直せるけど、チェーンソー側は少し時間がかかりそうだね。それにこの刃の溶け方、今までの疲労もあっての溶け方みたいだし」
サイディッシュを少し調べてバスカールはそう言った。
なんでも、今までのサイディッシュは内部機構こそ魔物の部位を使って熱対策していたが、刃自体はある程度殺傷能力を維持するために強化鉄を使用していた。
そのため伝わってきた熱で少しずつ弱くなってきていたらしい。それがルリーとの戦いで完全に溶けてしまい、内部の魔力回路を少し削ってしまったのだとか。
そこで、今回の修繕で刃を一新する必要があると。
「また強化鉄にするのか?」
「できることなら魔物の部位とか使ってこっちも強化しちゃいたいけど、いいものが無くてね」
「どんな部位なら使えるんだ?」
もしかしたら、今まで狩って来た高ランクの魔物の部位が使えるかもしれない。迂闊に売る訳には行かないような奴も何個かあったから鞄に入ったままなんだよな。
「刃にするならやっぱり鱗とか歯かな? 細く削れば鋭利になるし、硬度も十分だから」
「鱗か歯か」
少し考え、そして鞄の中を探る。そして俺は1枚の鱗を取り出した。
「これ使えるか?」
俺が取り出したのは、氷海龍との戦いのときに敵になったウロスルナの鱗だ。
サイディッシュの攻撃にも耐えたし、魔法にも耐えてたからかなり頑丈なはずだ。
それをバスカールに渡せば、バスカールは真剣な表情で鱗を調べる。
「これ、もしかして1等星級の魔物の?」
「おう、ウロスルナって言うやつらしい。長い蛇みたいなやつだな」
「この鱗、後どれぐらいある?」
「10枚はあるぜ」
と、言うか10枚しかないんだけどな。あの時は小さな鞄しか持ってなかったから、あんまり大量に持ち運べなかったし。
「これが10枚。1枚からだいたい2つから3つ取れるし、何とかなるかも」
「じゃあ全部渡しとく」
「了解。カラリスちょっといい?」
「なに?」
バスカールがカラリスを呼び、内部機構を調べさせる。カラリスもサイディッシュの魔力回路を見た瞬間に、真剣な表情になりその1つ1つを丁寧に調べていく。
そこはさすが職人と言った感じだ。
「魔力回路は少し手直しが必要ですね。溶けた鉄が付着して、一部回路が隠れちゃってますから、それを取って回路を書き直さないと危ないと思います」
「全部の修理でどれぐらいかかりそう?」
「私は今日中で問題ないですよ」
「僕も物はあるから今日中にはできると思う。作るのは刃だけだしね。工房もここを貸してもらえると思う」
そう言ってバスカールが振り返れば、そこにはさっきのおっさん。ついうっかり置いてきぼりにしてしまったが、会話はしっかり聞いていてくれたようだ。
「もちろん構わんぞ。弟子がこんな面白い武器を作っとったとは思わんかったがな。わしも修理するところは見てみたい」
「ってことだから、今日中には作っちゃうよ。明日取りに来てもらえればサイディッシュは生まれ変わってるから」
「了解。じゃあ何か代わりになる剣が欲しいんだけど」
この後は普通に依頼を受けるつもりだし、素手で言ってもいいんだけど、切ることが必要になった時の為に剣ぐらいは持っておきたい。ナイフはあるけど、あれで大きいの斬るとか面倒くさいしな。
そう言うとカラリスが何かを思い出したようにポンと手を打つ。
「じゃあ使ってみて欲しい武器があるんですけど良いですか?」
「新しい武器?」
「新しいって訳では無いんですけどね。ちょっと待ってください」
バスカールはカラリスの言葉で何を渡すのか分かったようでにやにやしている。
俺とフィーナ、フランは訳が分からずただ待つことにした。
そしてカラリスが戻ってきたときに持っていたのは1本の鞘に入った剣。だが剣にしてはやけに横幅が広く、分厚い気がする。
「これを使ってみて欲しいんです」
「こいつは?」
剣を受け取り鞘から抜いてみる。そこにはチェーンソーがあった。
「サイディッシュのチェーンソーを小型化した物です。そこにランプの魔法回路を利用して火を出せるようにしてみました。魔力を流すと、今まで通りチェーンソーが回転するのと同時に、ランプの魔力回路で生成された火の明かりが周りを覆うようになっています。火の粉より恐怖心は煽れると思いますよ」
「ほう、ちょっと試してみたいんだけど」
ランプの明かりとはいいえ、さすがに火がでるのはここで使うのは不味いだろ。かといって道の真ん中でぶん回す訳にも行かないし。
「そう言うことなら地下室を使え。そこなら火程度は問題ない。バスカール案内してやれ」
「了解、師匠」
そうして、俺とバスカールカラリスの3人は、地下に行くことにした。そこにフィーナから声が掛かる。
「少し時間がかかりそうなので、私とフランちゃんは先にギルドに行ってますね。何か良い物が無いか探しておきます」
「了解。俺もこれ試したらすぐに行くから、ギルドで落ち合おう」
「パパまたね」
「おう、また後でな」
フランに手を振って、俺は地下室に入って行った。
地下室は石作りになっており、窓は地上に出ている小さな鉄格子が1つあるだけだ。
灯りは魔力回路のランプが灯され、温かみのある空間に仕上がっている。つっても牢屋みたいだけどな。
「じゃあいくぜ」
そこで俺はチェーンソーを鞘から引き抜き、正面に向ける。
壁際にはバスカール、カラリス、おっさんの3人が並んでいた。
チェーンソーに魔力を流す。すると、サイディッシュと同じようにチェーンソーが回転し始めた。そしてそれと同時に刃に炎のような灯りが灯る。
それはゆらゆらと陽炎のように揺れ、まるで本物の炎のようだ。しかしただの明かりであるため熱は無い。
だが相手から見たらそうは見えないだろうな。
まるで回転する刃が真っ赤に燃えているように見えるのだ。正直これで斬られるとか想像したくない。
「いい感じですね」
「ああ、サイディッシュよりも魔力を使わないんだな」
ランプの魔力回路を使っている分、多く魔力を消費するかと思ったが、実際はサイディッシュよりもはるかに少ない魔力量で回転している。
「当然です。サイディッシュはあの広い面積に魔力回路を均等に張り巡らせて、刃を回転させていましたからね。回転する距離も大きさもこちらの方がはるかに小さいので、使用する魔力はずっと少なくなってます。まあ、今回の改良で、サイディッシュの消費魔力もこれと同じぐらいになるはずですよ」
「そりゃいいな」
今の状態でも特に影響が出ないとはいえ、魔力の消費を抑えられるに越したことは無い。
「じゃあしばらくこいつは借りるぜ」
「それはトーカさんが持って行ってください。もともとトーカさん用に作ったものですから」
「そうなのか?」
俺の問いにバスカールが答えた。
「もともとサイディッシュは威嚇用としてかなり巨大に作っちゃったからね。洞窟とか部屋の中みたいに限られた空間だとどうしても意味がなくなっちゃうから。だから僕とカラリスで考えたんだ。その結果がその武器だからね。名前は輪廻剣だ」
「輪廻剣か。良いね!」
俺は刃の回転を止め、鞘に輪廻剣を戻す。そしてその鞘を腰のベルトに差し込んだ。
「じゃあ頑張ってね。戻ってきたときにそれの感想聞かせてよ」
「期待してますよ!」
「おう、任せとけ。じゃあサイディッシュは任せたぜ」
あとを頼み、俺はフィーナ達を待たせているギルドへと向かった。




