120話
フィーナから予め聞いていたギルドの場所へと急ぐ。
ギルドはカランの本部らしく豪華で巨大な屋敷が使われていた。
まるでどこかの宮殿のように入口には石柱が立ち、純白の石が荘厳さを誇示している。
しかしそこは冒険者ギルド。その荘厳さとは裏腹に、そこに出入りする人たちの恰好は、冒険者風の皮や鉄の鎧をまとった人が多い。中には普通の服を着ている人もいるが、たぶん事務員だろう。
ギルドの中は、他のギルドとあまり変わりなく、正面に受付、左に掲示板、右に喫茶店という形になっていた。
俺はまず掲示板の元へと向かう。そこにフィーナ達がいるかもしれないからだ。
フィーナ達が見ているとすれば、低級ランクのモノのはずだ。一応フィーナがB-ランクのため、受けられる最低ランクはC+のはずだ。だから俺はC+ランクの依頼が張ってある場所へと向かう。
そこにはやはりフィーナとフランがいた。フィーナは掲示板を見ながら何やら真剣に悩んでいる。逆にフランはどこか暇そうに周りを見回していた。
そしてフランと目があう。
するとフランはフィーナの手を離してこっちに駆け寄ってきた。突然手を離されたフィーナは驚いてこちらを見る。そして理由が分かりホッとした様子でこちらに近づいてきた。
先に飛び込んできたフランを持ち上げて抱っこする。
「お待たせ。どれ受けるか決まったか?」
「まだきまってないの。ママがずっとなやんでる」
「良さそうなのは何個かあったんですけどね、それも森の中だったので」
なるほど、なるべく周囲を警戒しやすい草原辺りの採取依頼を受けたかったわけか。
「確かに森だと警戒は難しいかもな。けど俺たちは魔力探査もあるし問題ないんじゃないか?」
「確かにそうですけど、私の探査範囲ってそれほど大きくないですよ?」
「500ぐらいだっけ?」
「そんなところです」
500もあれば迎撃の体勢はとれると思うけどな。
「フランちゃんも一緒なので、少し離れたりした場合が心配なんですよね。薬草の採取だと、足元に目線が集中しちゃいがちですし」
「ああ、気付いたら離れてたってのは確かに危険かもな」
しかし、掲示板に草原系の採取依頼は張り出されていない。そもそもカラン自体島国のため草原が殆ど無いのだから当然だろう。
どうしても島は木で覆われがちになり、木のない部分は村が出来ていると言った状況になってしまう。
そうなると自然と採取系の依頼は森の中に固定されてしまうわけだ。
ならいっそのこと護衛を増やしてみるのはどうだろうか?
「なあ、護衛増やしたら問題ないんじゃないか? 1人にフランに着きっきりになってもらってさ」
「そんなことしたら護衛代金だけで依頼料が吹っ飛んじゃいますよ」
「いやいや、何も雇う必要はないさ。俺達には最高の護衛がいるじゃないか」
『?』
俺の言っている意味が分からず、フィーナもフランも首を傾げる。
フフ、フランにとっては最高の護衛であり、最強のペットにもなる存在を忘れてもらっては困るのだよ。
そろそろ呼んでやらないと、また勝手にこっちに来かねないしな。
と、言うことで、テレパシーの魔法を発動させる。もちろんつなぐのは氷海龍だ。
(あー、もしもし、聞こえる?)
(む、この感覚、トーカか?)
(そうそう、元気?)
(ああ、私も我が子も元気だよ。最近我が子が泳ぎを覚えてな。海の中を泳ぎまわっている)
(順調に育ってるみたいだな。んでさ、今子供借りれる? こっちも娘みたいなのが出来たから紹介ついでに遊ばせたいんだけど)
(ほう、それは良いな。人とのふれあいも良い経験になるだろう。分かった、我が子をそちらに送ろう)
(さんきゅー)
(かまわない。我が子もお前たちと遊びたがっていた)
そして魔法を解く。
するとすぐにフィーナの服が膨れ上がった。
「ふわ!?」
『きゅー』
「あれ? クーちゃん? あ! この子を護衛に?」
「邪神級だぜ。最強だろ?」
「確かにそうですけど」
若干呆れた表情でフィーナはうなずく。フランは突然出てきた氷の龍に目を丸くしていた。
「とりあえずクーには服の中に隠れておいてもらって、依頼受けようぜ」
「分かりました。フランちゃん、後でこの子の事紹介しますね」
「うん!」
『きゅー!』
フランの声に合わせて、クーも一鳴きした。
フィーナ達が依頼を受けている間に、俺も自分の受ける依頼を探す。
とりあえず最上級の依頼から探してみたが、今の所ここにある依頼で最高難易度の物はA-ランク依頼みたいだ。
A+ランクの俺では通常受けることが出来ないランクの依頼だが、適正ランクの依頼が出されていない場合のみ、1つ下のランクの依頼を受けることが可能になる。まあ、つねにAランク以上の依頼があるなんてことは滅多にないし、そうじゃないと俺達A+ランクやAランクの冒険者は稼げなくなるからな。
そして今出されているA-ランクの依頼は2等星級の魔物の討伐。場所は森の中で、相手の魔物は四足歩行の獣型みたいだ。ある意味森の長ってやつだな。
俺はその依頼書を手に取り受付へ向かう。
窓口の受付嬢は、多少受付が板についてきたような風格を持つ、眼帯をした細目の女性だった。何か怪我でもしているのだろうか? てか眼帯が無い方の目も開いてるかすら分からないんですが……
「この依頼受けたいんだけど」
「A-ランクの依頼ですね。ギルドカードを確認します」
そう言われ、自分のギルドカードを提出する。すると、なんかデジャビュのように受付が慌てだした。
「あ! トーカ様!? し、失礼しました。すぐに別室で――」
慌てて場所を変えようとする受付に、俺は待ったをかける。
「良いよ、このままで。さすがに依頼受けるたびに別室に移動してたら面倒でしょうがない。それより、この依頼受けても良いのか?」
「あ、はい。それは大丈夫なんですが――」
そこで受付嬢は口ごもる。
「どうかしたの?」
「できれば受けていただきたい依頼があるんです。ギルド長から実力のある冒険者に直接頼んでほしいと言われてまして」
実力のある奴に直接依頼を出したいか。つまりそれだけ難しいものってことだよな。それはそれで楽しそうだ。少し内容を聞いてみたい。
「どんな内容?」
「ゴブリンの討伐です」
「ゴブリン!?」
ゴブリンってあれか? 子鬼みたいなやつで、集団で群れて巣を作ってる奴か? ちょっと18禁なもんだと性欲の塊みたいな存在になってるあいつか?
「はい。もともと巣の殲滅も含めてBランクの依頼だったのですが、失敗が続いてまして、気付けばAランクの依頼に……」
それはカランの冒険者の実力が存外に低いと言っているようなものだ。そのせいで、国に助けを求めることも出来なかったらしい。まあ、そりゃそうだよな、ゴブリンの巣を殲滅するだけで国に助けを求めてたら、冒険者ギルドなんて存在意義が疑われかねないし。
しかしそうなると拍子抜けだな。たかがゴブリンなら、俺が出る幕でもない気がするし、行っても熱いバトルができそうもない。
俺が悩んでいると、受付嬢が必死になってこの依頼の難しさをアピールしてくる。
「今までにA-ランクのパーティーが受けたりもしたのですが、皆ゴブリンの巣に張り巡らされている罠にかかってしまって、全く奥に進めなかったそうなんです。どれもかなり危険な罠らしくて。幸い死人は出ていませんが、いつ出てもおかしくない状況だと言っていました。それに、ゴブリンは余り放っておくと別の島に別の巣を作ってしまうので、なるべく早い討伐が必要なんです! お願いできませんでしょうか? その分、ギルドから報酬に上乗せもしますので」
「うーん」
罠の張り巡らされた巣か。俺はあんまりそう言うの経験したことないんだよな。暴れる魔物を叩き潰したりはしたけど、自分から魔物の巣を潰しに行ったことは、まだ氷海龍の時しか無いし。それに、あの時は氷海龍が別の魔物放って攻撃してきたから、罠ってのは無かったしな。ちょうどいい機会かもしれない。巣の中なら輪廻剣も使えそうだし。
「分かった。その依頼受けるわ。詳しい情報教えて」
「ありがとうございます! では先に受付処理をしちゃいますね」
「了解」
その後、受付を完了し、ゴブリンの巣がある島の場所と名前を聞いて、俺は待っているフィーナ達の元へ戻った。
「ずいぶん時間がかかってましたね」
「ああ、なんか特別な依頼を任されてな。ゴブリンの巣を潰せだって」
「巣ですか。トーカに回るような仕事なんですか?」
「なんか失敗が続いているらしい。それよりそっちはどうなった?」
「順調に依頼は受けられましたよ」
「んじゃどこか人気のないところで自己紹介と行きますかね」
フィーナの胸元から顔を出すクーを見ながら、俺はそう言ってギルドを後にした。
適当に人気のない広場を探し、そこでクーを外に出す。
クーは嬉しそうにフィーナや俺の周りをぐるぐると飛び回り、フランの目がそれを必死に追っていた。
俺は飛び回るクーに腕を差し出し、そこに停まらせる。そしてフランの目の前に持ってきた。
「ほら、こいつがクーだ。こう見えても邪神級の魔物の子供だぞ」
「魔物!?」
フランがその言葉に驚いてサッと飛び退きフィーナの後ろに隠れる。それを見て、俺もフィーナも笑った。
「フランちゃん、大丈夫ですよ。クーちゃんは安全な子ですから」
「大丈夫なの?」
「おう、俺達を親と思ってるみたいだしな。要はフランのお姉さんか?」
年齢的にはフランがお姉さんになるのだろうが、俺達の子供になったのはクーの方が早い。そう考えるとお姉さんと言えなくもない。まあ、見た目的には完璧にペットだけどな。けど育てば人間の言葉も話せるようになるみたいだし、そうなればペットより家族といった感覚の方が強くなるだろう。
そうなるなら、最初から家族として教えておいた方が良いだろうな。
「お姉さんなの?」
『きゅー?』
フランが恐る恐るクーに尋ねて首を傾げる。するとクーも同じように首を傾げた。
その動作が可愛かったのか、フランがゆっくりとクーに向けて手を伸ばす。俺とフィーナは黙ってそれを見ていた。
そしてついにクーの頭にフランの小さな手が触れる。
「つめたい」
「氷海龍の子ですからね。体は溶けない氷みたいなものですよ」
「おお!」
『きゅっ!』
フランがクーの頭を撫でたとたん、クーは俺の腕から離れ、フランの腕に巻きついた。フランは驚いて腕を振り、クーを離そうとするが、クーはしっかりとフランの腕に巻き付いて離れない。むしろ、激しく上下する視界に楽しんでいる節すらある。
それを見た俺とフィーナは笑い声を押さえきれなかった。
「ハハ、大丈夫だぞフラン。クーはじゃれついてるだけだ」
「そうですよ、ほらよく見てください」
フランは俺達に言われた通り、腕を振るのを止め、恐る恐るクーを見る。魔物の表情こそ分からないが、クーは小さい手をバタバタさせ、明らかに楽しんでいた。その鳴き声にも、楽しそうな感情がふんだんに込められている
「そうでしょ?」
「クーもまだ子供だからな。フランと遊びたいんだろ」
『きゅ!』
クーがフランの顔に自分の顔を近づけると、舌で頬をチロッとなめた。
「お、おお?」
その動作になにか感じる物があったのだろう。フランも次第にクーへの恐怖心が薄れ、空いている左手でクーの頭や体を撫で始める。
クーの体は氷の鱗が敷き詰められており、撫でるとつるつるしていて非常に気持ちいいのだ。
「クー、お前が今巻き付いているのがフランで、俺達の娘だ。仲良くしてくれよ」
『きゅ?』
クーはその場で俺を見て首を傾げる。よく分かってないみたいだな。さて、どう説明したもんか。
「えっとな、お前の妹ってことになるのか?」
『きゅー?』
やはり分かってない。まあ、魔物だし当然っちゃ当然かもな。もう少しすれば、意味も理解できるようになるんだろうけど、今は理解させるのは難しそうだ。まあ、今は楽しく遊んでもらえればいいか。
「とにかく、家族ってことだな」
『きゅっ!』
家族という意味は分かるらしい。たぶん親から習ったのだろう。俺やフィーナみたいな人間の親が出来たことで、必要になったのかもしれない。
とにかく、家族という説明で納得してくれたようなので、この話は置いておくことにしよう。
「んじゃ、そろそろ依頼に向かいますか。あんまり遅くなってもいかんしな」
時間が遅くなれば、薬草を採取する時間も、ゴブリンを討伐する時間も短くなってしまう。それで思ったような成果が上げられなかったのでは、意味が無い。
「そうですね。それじゃあ自由船乗り場に行きましょうか。トーカは場所どこなんです?」
「割と距離があるみたい。まあ、自由船で行ける距離だから、そこまでは一緒だな。フラン、肩車するか?」
「うん!」
フランを肩車すると、氷海龍はフランの首にマフラーのように巻きつき、頭を上に自分の頭をちょこんと乗せる。どうやら、その形が一番好きらしい。
と、いう訳で、俺達はそれぞれの依頼を進行するために、自由船乗り場へと向かって行った。




