第9話 思わぬ合流
この星の最高権力者、曜玄将軍。
彼は、たゆまぬ努力と家族、仲間、友人の死を見届けた結果、この地位にたどり着いた。
「将軍。囚人の千秋籌策の結果が出ました。こちらへどうぞ」
「ん…ああ。少し待ってくれ」
曜玄は、手に持っていた書類がどれだけ重要なものかを知っていた。だが、彼はそれを置いて結果を見に、席を立つ。
星都の星枢府のその地下には、一般市民に見せられないような事がなされている。千秋籌策も、それの一つだ。
曜玄は、階段を降りながら真依の訪問の報告を受けていた。なぜ、真依殿が…?
あれだけ政治を嫌い、一時期は確実に星の王になれたところを断ってまで避けた彼女が、なぜ…?
曜玄は気になり、引き返そうかとも思った。だが、1度ここに入ると数時間は出られない。なぜなら…
「こんにちは。ここでの暮らしはどうだい?」
「へっ…『暮らし』か…居心地は最悪、飯は極悪。おまけに身動き取れないってもんだ…俺が評価をつけるなら星ゼロ…いや、マイナスだな」
「驚いた。数ヵ月間ここにいさせられてなお、冗談を言えるほどの精神が残っていたとは…君には心底、残念だ。君がこちら側についてくれれば、その筆舌に尽くしがたい才能を存分に使えたのだが」
曜玄は壁のスイッチを入る。途端に、囚人の顔からは余裕が消えていった。
「入るときに…言っただろう…?俺は何にも、屈しない…」
「いい加減諦めたらどうだい?君の友人、仲間、部下はもうとっくに全員殺されている。そしてその全員が、自白しているんだ。犯人は、歳星…あの星の将軍だと」
「嘘だ…!それだけは嘘だ!俺たちが、そんなことを…歳星様が、黒幕?舐めんじゃねえ…!」
曜玄は、怒り始めたその囚人には目もくれずに、隣に設置してある椅子に座った。
「………宗騰、頼んだよ」
「承知しました。千秋籌策を起動します。将軍、ご準備はよろしいでしょうか」
「ああ、構わない。やってくれ」
たとえ今回、この鏡で星の命運が視えたとしても……曜玄は自らの手を見て、握る。その手には、指の付け根に一筋の傷跡が残っていた。
それは今から千年前、この宇宙を混沌と狂気と災厄と破滅に陥れた忌々しい戦争で出来た、彼唯一の傷跡だった。
「はあ。どれだけ待たせるのかしら、あのおじいさんは」
真依が星都に着いた頃には、曜玄は紫幸の間にいなかった。彼女は独断で、長机の1番奥に座る。
…………暇だ。背もたれによりかかって天井を見上げると、そこには巨大なホログラムが絶えず形を変えて動いていた。
あるときには星系の模型に、あるときには大きな鯨に、またあるときには……残響の侵食の元凶:混迷歪皇の3Dに変わっていく。
「侵入者がいると聞きましたが……またあなたですか。ご用件をお伺いします」
「毎度無断で侵入していると、こんな良い利点があるのね。話が早くて助かるわ。っとその前に…曜玄は今どこへ?」
「曜玄将軍は、今現在外出中です。御用があるようでしたら、私が伝言役を承ります」
真依は、ためらった。この件は漏れてはいけない。勢力バランス…ひいては宇宙の均衡に関わる。
そんな超重要な場面ではできるだけリスクを軽減したいと思うのが、通常の人間だろう。
「コード6。曜玄に、そう伝えてくれない?あと、外出の際にはくれぐれも気をつけるようにと」
「承りました。では、お帰りください。あくまでもあなたは不法侵入した身。逮捕されないだけでも好待遇ですよ」
「毎度毎度、ごめんね。それじゃあまた!」
「………次こそは、しっかりと正門からお越しください」
宗騰が言い終わる前に、真依は紫幸の間の窓から飛び降りた。落下中に彼女は杖を取り出し、そのまま宙を貫く…
たちまち、黒い霧と共に亜空間が開かれた。吸い込まれるように入っていくと次の瞬間、何事もなかったかのようにいつもの街の上空へと辿り着く。
…………カズは、上手くやれているかしら?
「美味しそ〜……」
「食べてみるか?今なら片付けていないし、材料があればもう数個は作れるぞ」
「いいの?!ありがとう…!それじゃあ、お言葉に甘えて!」
邦子は、大きく口を開けると一口で俺特製マカロンを4つも食べた。
流石に一気に食べ過ぎ…と注意しようとしたが、口に入れた後の笑顔を見ると、なんだかその気もなくなってくる。
「どうだ?久しぶりに作ってみたんだが」
「うーん……その前のやつがわからないからなんとも言えないけど…少なくとも、そこら辺の家で出てくるレベルのものじゃないっていうのはわかったよ。つまり……とっても美味しい!」
「よかった…産廃でも作ったのかと思ったよ」
「なんでこんなに美味しく作れるの?秘訣でもあるのかな?」
「秘訣…しいて言えば、料理を続けることかな。やっぱり、『継続は力なり!』だよ」
風月の言葉を聞いた邦子は、少し顔を暗くして俯いた。しかし、すぐにまた前を向いて明るく顔を上げる。
「継続…かぁ。私には縁のない話だねぇ。」
邦子は小さく笑って、そう言った。
その笑顔は少し寂しげで、さっきまでマカロンを頰張っていたときとは明らかに雰囲気が違ったのがわかった気がした。
「まあ、俺だって逃げ出したこともある。この店で使っている能力だって、小さいことは散々逃げていたからね…でもいつからか、これを使えるのが当たり前になっていた」
「ふふっ……面白い話だね。私とおんなじだ」
俺はふと、その言葉を聞いて立ち上がる。そういえば、名簿を回収していなかったな…明日に回すのも面倒くさいし、今のうちにやっておくか。
「ちょっと、外に行ってくる。外に置いておいた紙に書いてあるお客さんの家に行くんだけど…ここに居たかったら居ていいよ。それとも、一緒に来る?」
「うーん…私も行く!」
藤原は嬉しそうに頷いて、俺の後ろについてきた。
俺が早速仕事を始めようと店のドアを開け、表通りに一歩踏み出した瞬間。頭上から、強い風が吹き下ろしてきた…
違和感を感じて見上げると、黒い人影がちょうど俺に向かって落ちてくる…慌てて俺は手を差し出し、その人影をキャッチした。
「……姉さん?」
着地の衝撃で軽く埃が舞う。受け止めたのは、俺がよく知る姉…真依だった。姉さんは杖を軽く地面に突き回収してから、こちらを見て小さく息を吐いた。
「カズ、藤原さん。ちょうどよかった。少し個別に、相談しておきたいことがあるの…付き合ってもらってもいい?」
ああ、俺はいいぞ。そう答えようとした瞬間に、姉さんの隣に青白い光が灯った。
そのまばゆい光は形を成していき、見覚えのあるあの顔が浮かび上がる……曜玄将軍だ。星系の権力者が、街中でこうもあっさり出会うとは…
「おや。2人とも勢ぞろいとは…タイミングが良いようだ」
「曜玄!貴方、私をどれだけ待たせたと思って……!まぁいいわ。カズ、個別の相談は後でにしましょう。それで曜玄、用件は何?」
藤原は一瞬息を飲んだような反応を見せたが、すぐに表情を整えて将軍の方を向いた真依は腕を組んだまま、将軍のホログラムを睨むように見つめている。
「急用だ。話がある。場所を変えよう。風月も一緒に来てくれ」
将軍の声には、いつもの穏やかさの中にどこか重みがあった。俺は思わず、隣に立つ2人の顔を横目に見る。
藤原は無言で、将軍のホログラムをじっと見つめていた。




