視えた
『まずは、とある昔の友人の話をしよう。彼が死神などではなく、天性の調律師と呼ばれていた頃の話だ』
曜玄は、暗闇の中にいた。
『彼は、小さい頃から調律の運命を歩まされていた。そしていつしか、その能力を使って人のために尽くそう、という思いが強くなっていった』
世界が明るくなり、壊れた街が見えてきた。空から見た世界は紅く、とても生命が存続できそうな状態ではない。私は……浮いている?
『彼は人のことを思い、いろいろなことを成していった。破壊の限りを尽くしていた傲慢の口を封じ、歌姫の命を救い……さらには、第3次残響侵攻も終結させた』
………本当か?それほどのことをしているのならなぜ、1人残らず人々の記憶から抹消されているんだ…?
『だが、調律の力はそのような事には使ってはいけないものだった。何かを成すには必ず、代償がいる…彼はそれを、身をもって体感した。家族、友人、仲間が、日を経るごとに減っていく…』
目の前には、病院のベッドにしがみつき、泣き崩れる男の姿があった。どことなく、見覚えのある姿だ…
『普通の人間に、耐えられるはずがなかった。彼は己の浅はかな志のせいで、周囲の人たちが消えてゆくのを目の当たりにする。そして…』
曜玄の周囲が急に暗くなった。空を見上げると、ある衛星がこの星に近づいてきている…影が、星を覆っていた。
衛星の後ろには、星を見下ろす彼の姿があった。
『ついに、自身と全く関係のない者も死ぬようになった。近くにいたから、少し会話したから…いろいろなこじつけで、来る日も来る日も人が殺されていく。いつしか人々は彼の功績を忘れ去り、代わりに彼を死神と呼び、恐れ嫌がった』
『だが、1番辛いのは……紛れもなく彼だった。彼はこう思うようになった。「この世界のせいだ。この星の神のせいだ…!」と』
『彼を飲み込んだものはなんだ?底無しの欲望…あるいは、神を超える傲慢か?だんだんと……いや、その時に完全に壊れていたのかもしれない。結果、彼の体はエラーを起こした。右腕が無くなり、痛覚が消え、喜びを感じなくなり、最後には両眼も失った』
もしもこの男が動かなければ、残響の侵食は止まらずに宇宙は破滅を迎えていた。だが、この男が動いたせいで街からは死人が続出し始める…
なんという悲惨な運命なのだろうか?
『数年後、彼は神に挑んだ。だが、持ち前の身体的能力、調律、模倣…何を使っても神には勝てなかった。ついに彼は神によって殺された最初の、そして唯一の人類となり、この物語は幕を閉じる……』
世界が真っ暗になった。
しかし、再び空が明るくなる…そこには、1番初めに見た紅く染まった街と空があった。
『閉じるはずだった。彼は咄嗟に死ぬ前に、自身の模倣品を大量にばら撒いた。それは宇宙の至る所、数多の星、ブラックホール、恒星、惑星…全ての星へ向けて、自分の、神を殺すという思いと願いを込めて…』
「これが、私が千秋籌策で見た世界…第4次残響侵攻だ。この装置は、その時々で1番重要なことを伝えてくれる。この物語が、私たちにどんな意味を与えるのか…厄介ごとが、一つ増えたみたいだね」




