第8話 新人
気がついた頃には、俺は店を開いていた。思い出そうとしても、星都から出たあとの記憶がない…あれ?俺はどうやって、ここまで帰ってきたんだっけ?
しかも、意識していないうちに自ら店まで開いてる…怖。
俺は一抹の恐怖を感じて、急いで店を閉めてから昨夜のことを聞くべく、姉さんの部屋へと向かった。だがまあおそらく、今の時間帯にはきっと…
思った通り、姉さんは外出していた。星都から帰った後、俺は何か事故にでもあってその後の記憶が消えたのだろうか…?そう思って体を見回して見たが、どこにもそれらしい傷はない。
「まぁ、今から考えても意味ないか…」
俺は机の上に置いてある袋から、昨日もらった将軍との契約書を取り出した。おそらくこれをなくすととんでもないことになるだろう…俺は例の袋を取り出して、その中に慎重にしまっていった。
その後、日々の日課である基本魔術の状態確認と調律の調子を屋上でした後、俺は街の中を歩き始めた。
今日は一旦店を閉じよう。昨日起こった出来事を整理する時間が必要だ…今日来る予定だったお客さんには申し訳ないけど、後日予約をしてもらおう。
俺はまずやはり、昨日の事の発端である残響の様子を見に行った。俺の存在は下のほうの警備員でも知っているようで、顔を見せただけで中に入るのを許可される。
残響は、昨日見たよりも確実に小さく、しかしいまだにその姿形を街に残していた。これが、この星系の星の半数を消し去った災害か…
「そういえば、ここの他に残響が見つかったところはないのか?」
俺はそれが一番気になっていたから、近くにいる警備員に質問してみる。
「僕は知らないですが…隊長に聞けばわかると思います。ほら、隊長ならあそこにいますよ」
「そうか…ありがとう」
俺は少し不安になりながらも、彼が指差した方向へ向かっていった。他にも、残響の侵食が起こっているところがあったら…あの一撃をもう一度放たなければならない。
「もしかしたら、次で死ぬことになるかもしれない。もしかしたら、前回以上の暴走が起こるかもしれない…」
「ああ、その通りだ。やっぱり契約したとは言え、少し怖いな…」
ん?なんで、俺の気持ちを知っているんだ?慌てて振り向くと、後ろには見たこともない、知らない女性が1人いた。
「!誰……?!」
「違うんです。決してあなたを傷つけようなどという意思はなくてですね…!」
見ると、いかにも戦闘経験がなさそうな女性だった。その首飾り、見覚えがある…
「そうか!なんだか見覚えがあると思ったらその首飾り、歳星将軍のあのホログラムに似ているな…!
「あ、忘れてた……コホン、その通り!うちは将軍直々の命を受けて、風月様の援護と手助けに参った身!名を…」
「将軍って、どっちの?」
「それはもちろん歳星将軍に決まっている!将軍と言ったら歳星様。歳星様といったら将軍!」
「…………」
なんだか、、、すごいな。これは慕われているというのか、洗脳されているというのか…
「あら?カズが女の子を連れているなんて珍しいね。彼女でもできたの?」
気がつくと、姉さんまでも俺の後ろにいた。やばいな、俺。これから色々なことに巻き込まれていくだろうし、背後を取られないように鍛えてもいいかもしれない。
「つい直前に知り合った人だよ、別に彼女じゃない。それより、なんで姉さんがここに…?仕事はもう終わったの?」
「仕事?仕事なんてないよ。今は長期休暇中だもん、少し出かけていただけ。それはそうと、カズ。あんた朝、いくら起こしても起きなかったわよ」
……だから、家に誰もいなかったわけだ。姉さんは起こすのは諦めて、どこかに出掛けに行っただけだったのか。
「ごめん……多分昨日、相当疲れてたんだと思う。そういえば昨日の、星都から出た後の記憶がないんだけど…何か知らない?」
「知らない…記憶がまるまる、抜け落ちている感じ?」
「うん、そうなんだよね…今までは姉さんも知ってる通り、断片的だったんだけど」
「うーん…そこまで行けば、全く違う症状ね。安心して、これ以上悪化しないようにあとで調べておくわ。そして、今は……」
姉さんの視線が、俺の隣にいる藤原に向けられた。藤原は一瞬で表情を変え、俺の後ろに回り込むようにして姉さんから隠れた。
「あなた、誰?」
「あ、はい。藤原邦子と申します。将軍より、風月様の支援をしろと……」
「曜玄から?あいつがそんなことするわけ…」
「さっき藤原から聞いたんだけど、将軍は将軍でも歳星将軍から命を受けたみたい。この短期間で他の星から来れるの、結構すごいな」
それと、お姉さんが現れてからの対応が変わりすぎだ…あの、厨二病のような発言はどこへ行ったのやら。
姉さんはしばらく藤原を観察するように見つめていたが、やがて何か勘づいた様子を見せて後ずさる。
「わかったわ。藤原さん、一瞬だけ席を外すわね。カズは付いてきて」
「了解しました!私はここで待っています!」
俺は言われた通りに姉さんの後をついて行った。角を曲がった辺りで、姉さんは俺と向きあう。
「おそらく彼女は、あの歳星が送り込んできた…いわばスパイよ。もし違ったとしても、少なくともただの護衛じゃないわ。歳星も、あなたの能力に興味を持ち始めたのかもしれない」
「………一応、曜玄将軍に相談してみる?これ、俺の問題じゃなくなってきているよな?」
「ええ、そうしたほうがいいかもしれない…カズはさっきみたいに、彼女と過ごしておいて。腹を探ることになったとしたら、絆ほど使えるものはないから…私は少し飛ばして、星枢府へ行ってくる」
「あ…うん、わかった。」
なんだかこういう時に限って、姉さんがとても怖くなる。俺はとりあえず、言われた通りに動いてみることにした。




