第6話 情報量が多い
将軍のいる星都へと向かう高速艦内は、予想以上に静かだった。
窓の外に広がる街の様子を眺めながら、俺は姉さんと並んで座っていた。
拘束から解放されてまだ数時間しか経っていないというのに、俺たちはもう首都の中心に連れてこられようとしている…話が飛躍しすぎていて、よくわからない。
「国は…急に態度を変えすぎじゃないかな…」
俺が呟くと、姉さんは腕を組んだまま小さくため息をついた。
「ええ、私もそう思う。さっきまでは研究施設に閉じ込めようとしてたくせに、今は突然『保護』扱い……。何か、私たちの知らないもっと大きな動きがあったはず」
「俺が消そうとした残響のせいかな?」
「それだけじゃないでしょうね。あの衝撃波の規模を考えれば、確かに注目はされるけど……ここまで上層部が直接動くとは考えずらい」
姉さんの表情は硬いままだった。姉さんでさえ、完全に状況を把握できていない。それが逆に、俺の不安を煽っていった。
艦が星都の港に着陸したのは、それから数十分ほど後のことだった。降り立った瞬間、冷たい風が頰を叩く。
整然と並ぶ白い建造物に、空を覆う巨大な防衛網。すべてが俺の知っているものとは明らかに違うスケール感の街が、そこにはあった。これが、星都…
導かれるままに、とても大きな建物へ行くと、俺たちのことを待っていたらしい案内人が無表情に頭を下げてきた。
「眞衣様、風月様。お疲れ様です。面談の準備が整うまで、こちらの待機室でお待ちいただけますか」
「面談…?俺たちは、面談のために呼ばれたのか?」
「はい。詳しい事柄はその都度お伝えしますので、今はこちらへとお進みください」
連れてこられたのは、先ほどまで拘束されていた人向けとは思えないほどの豪華な部屋だった。
ここの建物の外観といい規模といい、やっぱり何かおかしい…
「なんか……俺たち、変なことでもしたかな?」
「あなたの力は、星を動かすほどのものだったのかもね。だとしたらすごいことだけど、でも……」
姉さんは言葉を詰まらせて、壁の方を見た。そっちには何もない。
「……どうかした?ドアはこっちだよ?」
「いや、なんでもないわ。それとカズ、あなたはこれから敬語を使うことになるかもしれない。きちんと出来る?」
「急にどうしたの?出来るつもりだけど…」
「それならよかった。そういえば、さっき…」
姉さんが何かを喋りかけた時にドアがノックされ、再び案内人が現れた。
「準備が整いました。どうぞ、こちらへ」
案内された先は、予想外の場所だった。写真でしか見たことがなかった将軍宮殿:星枢府の内部、将軍が使う紫幸の間。案内人が、案内する部屋を間違えたのか…?
天井は星図を模したホログラムが美しく輝き、中央には重厚な長机が置かれている。その数ある席の下座に、一人の男が座っていた。
一眼見て将軍だと分かったが、何故か敬語が浮かんでこない。俺はどう足掻いても、普通に話すことしかできなかった。
「こんにちは、将軍」
言い終えた瞬間、部屋の空気が一変した。天井で輝いていた星図のホログラムが、一瞬で光量を落とす。
「初めまして、風月殿。私の名は曜玄だ。それから…」
将軍は、俺の隣にいる姉さんを見た。姉さんは腕を組んで、俺から一歩離れる。
「私のことはいいわよ。話したいことがあるなら、さっさと話してくれない?」
「ああ、そうさせてもらう。では風月殿、早速だがそこに座っていただけるかな?」
将軍はそう言って、将軍の向かいの席に案内された。
「真衣殿はどうするかい?参加しても、しなくても…」
「私は外で待ってる」
怒ったような、蔑むような声で返事をして、姉さんは部屋を後にした。まさか、将軍と何か喧嘩でもしたのだろうか…?
「将軍。姉さんとは、どういう…?何か喧嘩でもあったんですか?」
「ああ、真衣殿か。彼女とは何もトラブルは起きていないんだが、これから君が会う人と少し揉めたことがあるようでね…」
「これから会う人?俺は、将軍と話すんじゃないんですか?」
「いや、私だけではない……おや。ちょうど、彼らも準備が整ったようだ」
将軍がそう言い終わると、部屋は一斉に暗くなった。俺は驚いて目を瞑るが、瞼の裏から何やら青白い光が届いてくる…
恐る恐る目を開けると、そこには長机から切り替わり、光っている丸い円卓に照らされた将軍が対面の椅子に座っていた。
違和感を感じて左右を見てみると、2つの謎の模様をしたホログラムが椅子の上に光っている。
「君が、曜玄の言っていた妙手?随分とかっこいいじゃない」
「…………」
「おや、てっきり1人くればいい方だと思っていたのだが…紹介するよ、風月殿。こちらが、歳星殿と北辰殿だ。知っての通り、彼女らはそれぞれ太歳と玄極を治めている。北辰殿の無口は許してくれ」
「………その言い方は…やめてくれ…」
本当に、今日の俺はどうしたんだろうか…?縛られていた数時間後には星系の最高権力者3人と話し合うことになるなんて…
驚きすぎて固まっている俺を尻目に、曜玄将軍は本題に入った。
「では、早速本題に入ろう。我が星は、あなた方の同盟に入ることを所望する。そちらで、この件についての審議を願いたい」
「あら。何を言い出すかと思えば…あれだけ拒んできた曜玄さんが何故、今になって態度を変えたのかしら?あ、別に嫌味を言っているわけじゃないのよ、単純に興味が湧いただけ」
「……我が星でも、残響の侵食が始まった。それの第一発見者にして、処理をしたのは、この場に連れてきた彼だ」
その声で、一斉に俺へと視線が集まった…ような気がした。
「彼が1人でやったの?」
「ああ。威力は申し分ないが、力が分散してしまっているとその姉から報告を受けた。おそらく事実だろう」
「………ねえ、そこの君。名はなんていうの?」
「俺ですか…?俺は渓凛璽風月です」
「渓凛璽…ああ、姉って彼女のことね!それなら、その報告は真実で合っているわね。姉弟揃って異能だなんて、憧れちゃう…」
「歳星殿……」
あれ、もしかして将軍たちって意外と緩い?会う前までに想像していた印象とは全然違ったせいで、俺は拍子抜けしてしまった。
「こほん、失礼。本題に戻すけど、同盟の件はあなたも分かっている通り私と彼女だけじゃ決められない。そっちの状況も踏まえてできるだけ早急に議論はするけど、時間にそこまで期待はしないでね」
「ああ、助かる。よろしく頼む」
「あと、風月さん。一つ聞きたいのだけれど、あなたは自分自身の価値をわかっているの?」
「俺自身の価値…ですか?えーと…街で好きなことやってる人くらいしか…」
俺の返事に、歳星将軍は呆れたため息をついた。俺、何か変なこと言ったか?
「曜玄。あなた、彼に直接言ったほうがいいわよ。その時は、彼のお姉さんも連れてね……そうだ。私から彼女に、「いつでも帰ってきてね、と言っていた」って言っておいてくれないかしら?」
「……あなたは相変わらず、真依殿に固執する」
「当たり前じゃない。心配なのよ……それじゃあ、私はこれで。北辰、あなたは何かないの?」
「私は……何もない。では、さらばだ………」
あっという間に、2つの星の最高権力者は去っていった。残された俺と将軍は向き合って、先ほどの長机に再び座った。
「会合への参加、ありがとう。風月殿のお姉さんも、お呼びしたほうがいいかな?」
「あ〜…多分姉さんは、そろそろ帰ってくるんじゃないですか?姉さんは、毎回いいタイミングでいいことをしてくれるので、あらかた心配いらないと思いますよ」
「そうか……では、忘れないうちに君のことについて話すとしよう。風月殿は街に出現した残響を消そうと技を放った。ここまでは合っているかい?」
「はい。ですけど、配合量の調整にミスったのか、俺自身までダメージを追ってしまって…いや、恥ずかしい。」
「そこなんだ。風月殿はあの衝撃波の直撃を耐えた。そして、残響の核を消し去ることに成功したんだ。これが意味するところは…」
「……なんですか?」
俺はゴクリと唾を飲み込む。何か、問題でもあったか?やっぱり、多少なりとも街を壊してしまったことで捕まるか…。
「無名の風月殿が、この星系で指折り数えるほどの貴重な人物であったということだ」
え?俺が、姉さんと同等??




