第4話 予想外の事故
「起きて。もう9時だよ!」
俺は、姉さんが呼ぶ声によって目が覚めた。あれ、ソファで眠ってる?俺は昨日、ベッドで寝たはずだけど…
「おはよ〜…なんで俺、ソファなんかで寝てたんだ…?」
「覚えてないの?昨日の夜、2人とも起きちゃったから一緒にゲームをしたじゃない?その時に2人とも寝落ちして、そのまま朝になっちゃったのよ」
「昨日、ゲームなんでしたっけ…?」
言われてみればしたような気がする。俺は、いまだに寝ぼけている体を起こして朝食を作りに行く。
「今日は、何時から行けばいいんだっけ?確か…」
「残響の現状視察が、11:30からあるわよ。全く…私がいない時、きちんと生活できてるの?」
「俺よりも寝ていない人には、言われなくないなぁ」
俺は適当に作り置きしていた朝食を取り出す。爆速で食べ終わると、俺はまず店を開きに行った。
「あんた、日曜日も店を開くの?勤勉…というか、カズに似合わず真面目だね」
「姉さんも昨日見てたでしょ?正直この仕事は遊びみたいなものだよ。時々来るお客さんを相手にして、その人が持ってきた異常のあるものを調律して、元の持ち主へ返す。簡単だし、そんなに気を張らなくてもいい。こんな店を、日曜にも営業しないわけがないでしょ?」
「確かに…そうやって聞くと、カズがうらやましくなってきたわ。こっちなんて、興味もない研究に付き合わされて、名前を勝手に使われて…めんどくさいし面白くないのよ?」
「それならいっそのこと、学会を抜けちゃえばいいんじゃない?まぁ俺は、そこら辺のぐだぐだは全く知らないけど」
「そんなに簡単に話が進むものじゃないのよね…」
「まぁそっか。姉さんだもんね」
「あんた、今悪い意味で言ったでしょ」
「そんな。まさか」
姉さんとカウンターに座りながらゆったり話をしていると、後ろからドアが開く音がした。振り返ると、相当焦った様子のあの工具を持ってきた男性が、息を切らしながら店に入ってきている。
「眞衣さん、それから風月さん!大変だ…!朝、現場に行ってみたら、おかしなことになってる…!」
「?何がどうなってるの?」
「なんだか言葉に表しづらいけど…黒と茶色の汚染みたいなやつがどんどん広がっていってるんです!」
え、それってまさか…!
「残響の侵食が、どんどん拡大してってる…?」
「ええ。これは今すぐ見に行ったほうがよさそう…あんた、昨日ここに来た人よね。名前は?」
「はい、タバカールって言います!街の役所に言いに行ったら、ここの人に言えって言われて…」
「タバって呼ばせてもらうわよ。タバ、あんたは念の為現場にいる人を避難させて。私とカズはできるだけ早く、そっちに向かうわ。それと、学会と街の行政にはこのことを一切教えないでね」
「え…?役所にも、ですか?」
「そりゃそうでしょ。彼らのせいで私の魔術が使いにくくなるなんてこと、誰も望んでいないでしょう?さ、早く行って!」
「は、はい!」
姉さんにせかされたタバカールは、急いで店を出て行った。それを見届けた姉さんは振り返り、こっちを見つめてくる。
「どうやら、思ったよりも大変なことになってるみたいね。私はすぐにでも行けるけど、どう?」
「ちょっと待ってて。姉さんと街を歩くんだから、さすがにこういう服じゃダメでしょ。着替えてくる」
「そんなのいいから。そこ以外なら準備はできてるの?」
「いや、まぁできてるけど…」
「それなら問題ない。よし、彼を追いかけて行くわよ!」
ほんと、周りの目を気にしないんだから…姉さんの立場なら、ちょっとしたことでも民衆から言われかねないのにな。
俺は少し意気込んだ様子の姉さんの背中を小走りで追いかけ始めた。
「ここ?というか、ものすごいことになってるわね…まるでここだけ、他の星みたい」
侵食が拡大しているところを見ると、もはやそこ一帯が通行止めになっていた。
「そうかな?前に姉さんに見せてくれた写真よりは、穏やかに見えるけど…」
「この星にしては、ってことよ。タバ、避難は終わった?」
「はい!それで…本当に、役所に言わなくていいんですか?今からでも…」
「やめて。絶対に対処が遅れる原因になる。これは地味に、時間との戦いなの。ミスったりしたら、取り返しがつかない…ましてやこの星なんて、残響の侵食に対抗する手段を持っていないんだから」
そう言いながら、姉さんはサッと数個の鏡を出現させた。それぞれが俺を捉えている。何かしたか、俺…?
「それじゃあカズ、まずは調律を実践してくれない?実は私も今まで調律をしたことがなくて…この際、習得しちゃおうって思って!」
「そうか…意外。それならまかせて、やってみる。だけど、俺もこれだけ規模の大きい残響には使ったことがないから…上手くできるかはわからないよ?」
「そんなの、なんだってそうでしょ。さあ、こうやって喋っている間にもどんどん広がっていってるよ…?」
「はいはい、わかったよ。あんまり急かさないで」
俺は一歩前に出て、本を出す。確か、ここら辺のページに書いてあった気がする…やっぱりそうだ。
本には、12型と2型と4型を同時に放つと書いてあった。確か2と4は増幅剤だから、これくらいでいけるか?
「みんな。離れたか?」
「ええ。やっていいわよ、カズ」
「よし、わかったよ。」
俺は深呼吸をして右手を軽く掲げ、残響の方へと向ける。
「よし……さあ、行けっ!!」
パチンッ。指を鳴らしたその瞬間、残響の中心から透明な波紋が広がり、地面を這うように広がっていった。しかし次の瞬間、波紋が何かに弾かれたように大きく跳ね返り、天に向かって収束していく。
そして…… その光が天に届いた瞬間、空気が重く歪んだ。
ドンッ!
空から一筋の白い衝撃波が、真っ直ぐに俺たち目がけて落ちてきた。その波の衝撃波は絶大で、俺は一瞬にして血を吐き、前に倒れる。胸の奥が熱く、呼吸が上手くできない。
「カハッ…ゴホッゴホッ……」
何が起こった?まさか、入れる量をミスったのか?あの極少量で、これだけの威力か…!
いや、そんなことは問題じゃない。一番近くにいたとはいえ俺がこれだけのダメージなら、姉さんや他の人は…!!
俺は顔を上げて周囲を見回そうとするが、力が入らない。視界が揺れて、地面が近づいてくる。
まさか、頭もやられたか…?徐々に痛み始める頭を抑え、それでもなんとか顔を上げると……そこには衝撃的な光景が広がっていた。
今までどんなものでも直してきた調律が、完全に通用しなかったのだ。
あれだけの威力の衝撃波を叩きつけても、侵食は一切止まっていない。黒い靄は、まるで何事もなかったかのように、ゆっくりと広がり続けていた。
(マジかよ…店ではあれだけ簡単に対処できたのに…!!)
俺は膝をついて、立ちあがろうとする。だが力が抜けて、正座して首を前にうなだれた。
「………だいじょ……!!……まっ……から…!」
姉さん…の、声…?怪我はなかったみたいだ…よかった。俺が再び立ちあがってそれを確認しようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。




