第14話 乗っ取り
「準備、できた!入っていいよ!」
「言われなくても…っ!」
「早くしてくれ!避けるのも、もう限界だ!!」
後ろには、無数の残響が迫っていた。あと少しで、再び俺に届く……というところで藤原の退避が完了し、俺も滑り込んでそのワープホールへと飛び込む。
視界が激しく歪み、一瞬の浮遊感のあとに強烈な重力が襲ってきた。
「きゃっ!?」
「クソッ!」
先に飛び込んだ藤原は、待ち構えていた姉さんに綺麗に受け止められた。一方で誰も受け止めてくれない俺は、必死に体を捻ってなんとか両足で地面掴む。
いってぇ…!!!
降りた先は、見慣れた地上の街の穴の近くだった。
俺たちが飛び出してきたあの大穴からは、残響の破片は少しずつ見えてきそうになっている……
俺は大声で、姉さんに呼びかけた。
「姉さん!早く対処したほうがいいんじゃ?!」
「わかってる………よし、できた!!『星鎖・閉塞空間』!!」
姉さんが即座に杖を掲げ、光の結界を路地裏の地面へと展開した。眩い光の壁が大穴の出口を覆い尽くし、地下からの残響の圧力を力技で抑え込む。
なんとか抑えきったのを確認すると、姉さんは何やら小声でどこかに連絡し始めた。入れ替わるように、藤原が俺の近くに来る。
「風月、着地は大丈夫だった…?なんか、うずくまってたけど」
「ああ、足が折れたように痛いこと以外は大丈夫だ…」
「え、大丈夫?!どうしよう、どうしよう…」
「大丈夫だ、冗談だよ」
俺の声に、藤原は絵に描いたようなため息をついた。そんなに、驚くことか…?
「よかった……風月が気絶した時は、死んだかと思ったよ。あれ、そういえば…真依さんはどこへ?」
確かに結界を展開したあとからは、姉さんを見かけていない。
ここから離れたということはないだろうが……もしかして、穴に落ちたとか?いや、姉さんに限ってそんなことは…
俺は少し焦りながら、入った大穴へと向かって戻っていった。
「曜玄?今いいかしら。……………言われて、現場に行ったんだけど…うん。とにかく、一旦こっちに来て欲しい。詳しいのは、後から言うから………わかった。じゃあ」
「姉さん……よかった」
姉さんは片手をその穴へと向けながら、曜玄将軍と連絡を取っていた。流石に、落ちているわけではなかったか…よかった。
通信を終えてから、それほど時間はかからなかった。将軍は例の如く爆速で現れ、俺たちの前に降り立つ。
「やあ、3人とも。さっそくだが、何があったんだい?以前よりも厳しい状況のようだが」
「曜玄、ごめんね。前回と同様に、カズの調律で排除しようとしたんだけど……」
そう言って、姉さんは大穴の中で起きたことを一通り説明し始めた。調律が効かなかったこと、核を斬っても増殖したこと、そしてカズを執拗に狙っていたこと…
将軍は静かに姉さんの話を聞いたのち、やがてその視線を俺へと向けた。
「……なるほど。それほどのことがあってこの被害…むしろ抑えてくれたことに感謝するよ。そして風月、気絶している間、何か見たかい?そうであるとしたら、残響が執拗にお前を狙ったことと何か関係があるのかもしれない」
「確かに。あの時あんた、少し考えてるようなそぶりも見せていたわね」
「俺が、見たもの……」
将軍の問いに、俺は口を開こうとした。未だに脳裏に残っているあの紅い世界と、もう一人の自分。俺は、その世界で……
答えようとしたその瞬間、俺の静止する意思を完全に無視して、右手が勝手に前へと突き出されたのがわかった。
手には気絶した時に見たあの禍々しい剣が握られ、それが将軍へと振り下ろされる……
(なっ――!?)
さっき地下で握ったあの無骨な鉄の剣とは明らかに違う。これは、この世に存在していいもんじゃない…!
「「「「「殺せ。」」」」」
その声が聞こえた瞬間、風月の意識はガクンと落ちた。そのまま、その体は前の方へと斬りかかる。ターゲットは……目の前にいる曜玄将軍、そして隣にいる真依だ。
その禍々しい剣は、凶悪な速度で振り下ろされる。
「カズ!?」
「風月っ!」
ガギィィィィィィンッ!!!!
鼓膜を震わせる金属音が路地裏に轟いた。
間一髪、将軍が引き抜いた大太刀と、姉さんが咄嗟に展開した高密度の魔術障壁、そして横から飛び込んできた藤原の武器が重なり合い、俺の一振りを三人がかりでどうにか受け止めていた。
「が……はっ!?」
強烈な衝撃の反動と共に、俺は目が覚めた。
手のひらから禍々しい剣が消え去ると同時に、目の前には、信じられないものを見る目で俺を凝視する3人の姿があった。




