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第13話 トドメ、させてない

 俺の体は、俺と同一の人物を見下していた。なぜ、俺が2人…?


「たとえ無理でも!!俺は、お前を止める!お前だけが、唯一の希望だ!!それを敵に奪われてなるものか!!!」


「ククク………ハハハハハハ!!!!貴様はまだ、あいつが生きていると思っているのか!!風月は死んだ。今や、彼こそが俺だ!!


「…………………そうか。それなら、手加減する理由も無くなったな!!」


 そう言うともう1人の俺は、地面を踏み込んで爆速で俺へと向かってきた。彼の刃が、俺の目へと到達しそうになる……

 だが、その瞬間に俺は元の世界へと引き戻された。徐々に頭が痛くなっていく感覚のあとに、姉さんと藤原の後ろ姿が視界に入ってくる。




「カズ……カズ!大丈夫?!」


「あれ…?姉さん…あの男は?俺は…どこにいった?」


「何言ってるの、あの男って……。しっかりして、まだ敵が残ってるわよ!」


 姉さんはすぐさま俺を背に隠すようにして前に出た。手にした杖から、激しい魔術の光が障壁となって展開される。

 姉さんの視線を追って前を見るとそこには、俺がさっき「調律」したはずの残響の残骸がいまだに消えずに不気味に蠢いていた。

 ドンッ!という重い衝撃音。目の前で不気味に形を変えた残響の触手が、姉さんの張った障壁に叩きつけられている。


「風月!起きたなら早く立って!真依さん一人じゃ、もう限界!」


 あ、そうか。俺、さっき頭を打たれて気絶して……

 頭の痛みはだんだん引いてきた。だけど、脳裏に焼き付いている紅い世界と、あの俺と同じ顔をした男、それにあの禍々しい剣がどうにも忘れられない…

 それに、二人の様子を見てすぐに察した。俺が意識を失っている間、姉さんと藤原は二人きりで動けない俺を囲んで必死に守り続けてくれていたのか。


「ごめん、2人とも…!」


 姉さんが結界を展開すると同時に俺は腕を構え、出来るだけ正確に調律の光線を放った。その光は2人を通り越して、残響へ一直線に向かって…当たった!

 だが、その破片が飛び散るだけで全体の動きは止まらない。むしろ、その部分を修復するような動きさえ見せ始めていた。


「まさか。弱点があるのか…?」


 もしあるならどこに…?適当に乱射するしかないか?どうしよう…

 こう考えている間にも、姉さんは必死に障壁を張り直して残響の猛攻を食い止めている。

 藤原も息を切らせながら、姉さんの横で武器を振るい続けていた。二人の呼吸はすでにボロボロで、いつ限界を迎えてもおかしくない。

 どうする…どうする!




「【お前は……もっと強くならなければならない】」


 その声が再び聞こえたとき、俺は衝撃を受けた。俺の手には見たこともない。剣が握られている。

 だが、直感でわかった。これは、残響断ち切るために生まれたものだと……


「おらあぁぁぁぁぁぁ!」


「カズ?!」


 俺は姉さんの結界の内側から飛び出し、迫り来る触手に切り掛かった。

   ザクッ!!ガギギギギ……

 藤原の手刀でも切れなかったそれは容易く切れていき、ついに………その核を斬るに至った。


「え、風月……風月って、そんなに動けたの…?」


 藤原が目を見開いたまま、唖然とした声を漏らす。

 残響の核を両断した瞬間、あれだけ再生を繰り返していた体が嘘のように硬直した。

 それと同時に、俺の手にあったはずの無骨な鉄の剣が、煙のように跡形もなく消え去っていく…


「はぁ、はぁ……っ」


 急激に右腕が冷たくなっていくのが感じた。自分の意思とは無関係に動かされたような感覚と、手の裏側にべっとりと張り付く静かな余韻。

 俺は、ただただ自分の右手をただ見つめることしかできなかった。


「カズ!急に飛び出して……死ぬかと思った……!」


「ごめん……でも、倒せたから。大丈夫だよ」


「倒せたから大丈夫ってカズ、あんたね…!まあ、今は無事であることをかみしめておくとするわ」


「ごめんよ……」


 俺のか弱い謝罪のあと姉さんは残響に向き直り、何か始めたようだった。

 まあ、倒せたし…結果オーライだろう。




 姉さんは残響の残骸に向き直り、杖の先を軽く突き出して何かを調べるように呟いた。


「なんで急に動き出したんだろう………核を撃ち抜いたはずなのに、まだあんなに動けるなんて」


 藤原も、こちらをみながら考えていた。


「始めだって、風月の顔を狙ってたし……何か、残響に恨まれることでもしたのかな?」


「俺?別に、他の残響を消した以外にはそんなこと…」


「まあ、今それを考えても意味ないかもね。さあ、地上に戻るわよ。ふたりとも、帰る方法は持ってる?」


 あ。飛び降りたけど、登る方法は持ってないことに気がついた俺と藤原は、共に顔を見合わせた。

 こうなることを予測していたのか、姉さんは先に魔術でワープ装置のようなものを作っている。


「ここに入って。上手いこと着地しなきゃいけないけど………登るよりはマシでしょ?」


「「着地?!」」


 まさか、あの時みたいなスピードで落ちるのか…?


「慣れないとキツイけど、頑張って。私は先に行って、万が一に備えておくわよ」


 そう言って、姉さんは先に歩き出した。藤原が続き、俺も右腕の冷たさを気にしながら二人の後ろについて、残響に背を向ける。


 そのときだった。 

     ドゴォォォンッ!!

 地響きのような重い音が背後から響いた。

 俺は反射的に体を横に飛ばし、ギリギリのところで触手の先端をかわしていく。振り返った瞬間、俺は目を疑った。

 さっきとは比べものにならないほど巨大化した残響が、地面を這いずりながら再び俺だけを狙っていたのだ。体は倍以上に膨れ上がり、無数の触手が天井にまで届きそうな勢いになっている。


「こんな量…一気に処分するのは無理じゃないか……?」


 俺が呟くと、姉さんが素早く振り返り、声を張り上げた。


「藤原!カズ!一旦、地上に戻るわよ!!そのあとは私の魔術でなんとかするから、早く!!!」

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