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第12話 幻覚

「よっこらしょ…姉さーん!何処にいるの!」


 あれから無事に地下についたが、暗すぎて何処にいるのか分からない。

 声が響いている事から考えると、ある程度の広さはあるようだ。


「ちょっと………どいて………」


「え…?ああ、ごめん!気づかなかった」


 俺は堂々と藤原の背中に乗っていた。あれ?俺、藤原よりも早く中へと落ちていったよな…?まあいいか。


「姉さんのこと、見える?単に暗いのか、調律のせいで黒く見えるのかわからなくて…」


「これは…単純に光が届いていないね。私も見えないもん」


 壁を手探りで行くしかないか…

 姉さんは光を放つ魔術だかなんだかを使って突破したんだろうけど、俺たちはそんなものを持っていなかった。

 当然、姉さんに置いて行かれてしまうわけだ。


「街の地下に、こんな空洞ができるなんて………今までの人生でも聞いたことない」


「残響も進化していっているのかもしれない。いつの日か、俺の調律も効かなくなるのかな…?」


「それは、確実に無いと思う」


「…………なんで?」


「うーん………勘かな…………あれ、この音って、もしかして」


 近くから、魔術を使う際の独特の音が聞こえてきた。

 地下にいる魔術師なんて、こんな状況では1人しか考えられない。姉さんだ…!


「多分、姉さんだ。やっぱり先に行ってたんだ……」


「それじゃあ、早く合流しよう!この暗いままでいるなんて嫌だ!」


 藤原は一気に走り出した。おい、前も見えないのに走り出したら…

 ゴン!走り出して数秒で、藤原は壁に当たって後ろに倒れる。すぐ後ろに俺がいたからまだ良かったけど、いなかったら頭を打ってたぞ?


「ほら、言わんこっちゃ無い………」


「………ねえ、なに?騒がしいんだけど」


 俺たちの喧騒を聞きつけて、姉さんが道の奥からひょこっと首を出してきた。

 どうやら、俺が思っていたよりも近くにいたらしい。


「俺と藤原、光を出す魔術が使えないから周りが見えなくて…」


「そうだった!ごめん、2人とも!」


「あやまらなくてらいじょうぶれす、真依さん………わらしは無事れす………」


「………頭をやっちゃったみたいだ。ちょっと横にならせておこう」






「これで、これくらい?」


「ええ。計算結果だとそれくらいのはず。あとは、上手い感じに…」


「こうか!!」


 パチン!!

 俺は姉さんに言われた通り、全く違う方法で残響の調律を始めた。

 すると今回は前回と違って、威力が暴走せずにすんなりと残響へ向かっていくのがわかった。


「おお〜〜……。流石姉さん、習得が早い!元々の持ち主の俺より早いなんて!」


「まあ、演算能力に関してはいいからね。これで多分対処できただろうけど……彼女、どうする?」


『藤原はスパイだ。危険が大きい、おいていくべきだ。』そういう声が聞こえた気がした。だけど…


「もう少し、様子を見てからでもいいんじゃないか?まだ危害を加えてくる素振りは見せていないし」


「そうね……」


 俺と姉さんは、壁にぶつかって気絶した藤原の元へと歩み寄った。

 彼女はまだ動かず、壁に寄りかかるようにして横たわっている。頭を打ったせいか、少し苦しげに眉を寄せていた。


「大丈夫かな……」


「頭を打っただけなら、すぐに起きるはず。ただ、念のため少し様子を見ておいた方がいいかも」


 俺たちは藤原の少し離れた場所にしゃがみ込み、彼女が目を覚ますのを待った。

 地下は相変わらず暗く、姉さんが小さく灯した光だけが頼りだった。

 藤原の息遣いは規則的で、少なくとも命に別状はないようだ。やがて、藤原の指先がぴくりと動いた。


「……ん……」


 藤原はゆっくりとまぶたを開け、ぼんやりとした目で天井を見つめる。

 俺は安堵して立ち上がり、彼女の近くにしゃがみ込んだ。


「藤原、大丈夫か?さっき壁にぶつかって……」


 藤原はゆっくりと上体を起こそうとした。俺は手を差し伸べて支えようと、彼女の肩に触れかけた。

     その瞬間————————


「カズ! 避けて!!」


 姉さんの鋭い声が、暗い空間に響いた。え?俺は驚いて、思わず振り返る。

 姉さんの顔が、珍しく本気の焦りで歪んでいたのが見えた。彼女の右手から、すでに魔術の光が形成されかけている。

 ——ドンッ!!次の瞬間、俺の頭からは鈍い音が出た。残響の破片が、俺の頭に当たった…



「グアッ………!!!」


「大丈夫、風月!!?!」


「カズ!!」


 痛い……目が焼けるように熱い。俺は顔を手で押さえ、悶絶する。








 それから数分。俺は痛みが引いたのを感じて、顔を上げた。


「よし……大丈夫だ。二人とも、ごめん」


「2人…?何を言っているんだ、お前は………これほどの被害を出しておいて、『ごめん』だと…?」


 俺が顔をあげると、そこにはさっきまでの世界はなかった。紅い、荒れ果てた世界が眼下に広がっている…なんだここは…しかも、右腕がない?

 俺は頭を回転させて、直感で理解した。おそらくここは、曜玄将軍が言っていた千秋籌策でみた世界なのだろう。


「あれ、みんな……2人は……?」


「みんな、だと……みんな、お前が殺した!残った2人も、お前が…!!!」


 そう叫ぶと、1人の男が剣を振り翳し、俺に切り掛かってきた。

 うわっ…俺は咄嗟に左手で指を鳴らし、自らを剣をすり抜ける体へと作り変えることでなんとか切り抜ける。


「返せ……返せ!!みんなを返せ!!!」


〔なんだ?!急に攻撃してきて……お前はなんなんだ!!〕


 そう言おうとしたが、その思いとは裏腹に口が勝手に動く。


「邪魔だ。消えろ」


 俺、今なんて言った??「消えろ」って…案の定、それを聞いた彼はさらにスピードを上げて切り掛かってくる。

 彼の顔が、一瞬見えた。…………は、え??それに呼応するように、俺の体は勝手に右腕を再生する。

 その手には、謎の禍々しい剣が握られていた。それは彼の持つ剣とは対照的に、暗黒の気配を醸し出している。

 

「おらあぁぁぁぁぁ!!!!死ね!死ね!!!」


「お前も惨めだな。言葉では威勢がいいが、実力が伴っていない。もう1人の俺。お前は……もっと強くならなければならない」


 彼の顔は、俺にそっくりだった。いや、全く同じと言った方が正しいのかもしれない。

 ただ、予想外の連続が、俺の鼓動の音を激しくさせていった。

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