第一章『荒野の少年』②
夕陽が荒野を赤く染める。
風は乾いていて、遠くでは草木が揺れていた。
討伐を終えた俺たちは、いつものように丘へ腰を下ろしていた。
「今日も無茶したね、ユウ。」
呆れたように息を吐くミア。
長い銀髪を揺らしながら、本を閉じる。
その表紙には、見慣れた紋章が刻まれていた。
人生の記録。
章を司る書。
《クロニクル》。
「無茶してねぇよ。ちゃんと勝っただろ?」
「結果論。」
「細けぇなぁ。」
「細かくない。君は昔から無茶ばっかり。」
昔から。
その言葉に思わず笑う。
確かに、物心ついた頃にはもう隣にいた。
泣いてる時も。
笑ってる時も。
怪我した時も。
ミアはいつだってそこにいた。
「お前ら仲良いよな。」
ガハハと笑いながらガイが肩を組んでくる。
重い。
とにかく重い。
「やめろって!暑苦しい!」
「なんだよ、照れてんのか?」
「照れてねぇ!」
「顔赤いぞ。」
「うるせぇ!」
その瞬間だった。
隣で静かに空を見上げていたレオンが、ふと眉をひそめる。
「……静かすぎる。」
空気が変わった。
風が止む。
鳥の声が消える。
荒野全体が、息を潜めたような静寂。
ミアの表情が凍る。
本が、震えていた。
《クロニクル》が。
「……嘘。」
小さく漏れた声。
見たことのない顔だった。
青ざめている。
震えている。
未来視を持つ彼女が。
未来を読む彼女が。
恐怖している。
「ミア?」
問いかける。
だが、返事はなかった。
代わりに。
空が、裂けた。
轟音。
まるで巨大な本のページを無理やり破いたような音が、世界に響き渡る。
空間の裂け目。
そこから現れたのは。
黒い炎を纏う、巨大な狼。
否。
狼の形をした何か。
その身体は無数の破れたページで構成されていた。
燃えているのは炎ではない。
文字だ。
無数の文字が燃えている。
そしてその赤い瞳は。
まるで世界そのものを見下ろすように冷たかった。
ミアが震える声で呟く。
「そんな……記録にない……。」
狼はゆっくりと口を開く。
低く。
重く。
古い鐘のような声が、荒野に響いた。
「……何故だ。」
「何故、貴様の章は読めぬ。」
その視線は。
真っ直ぐに。
俺だけを見ていた。




