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第2章:境界のほころび③

ユウの指先が、欠けた空間に触れた瞬間。


世界が「抵抗」をやめた。


正確には、抵抗していたことに今さら気づいたような反応だった。



「……っ」


ガイが踏み込む。


遅い。


間に合うかどうかではなく、“間に合う世界かどうか”が分からない動き。



その瞬間だった。


ユウの視界が、完全に裏返る。



音が消える。


光が遅れる。


自分の手が“自分のものではない場所”にある感覚。



そして――見えた。



そこは、壊れていない。


むしろ整いすぎている。


一本の線で構成されたような空間。


ただしその線は、生きていない。


“決まりきった未来”の残骸だった。



「……これが」


ユウの声が漏れる。


その瞬間、空間が反応する。


まるで“見られたこと”を嫌がるように。



ひび割れが一気に広がる。


欠けていた空間が、逆流するように押し寄せる。



ガイが叫ぶ。


「引け!!」


だがユウの手は、まだそこにある。


抜けない。


というより――


“離れるという概念”が曖昧になっていた。



そのとき。


ミアの視界が一瞬だけ“静止”する。



未来が、全部止まる。


いや、止まったのではない。


“ひとつに収束しかけた”。



「……やめて」


ミアの声は小さい。


でもそれは命令ではなく、理解だった。



「それ、触れたら……」


言い切る前に。


世界が一度だけ“確定しようとする”。



ユウの中に、流れ込む。


情報ではない。


記憶でもない。



「章が……」


誰の声でもない響きが落ちる。



「……ずれてる」



その瞬間、ユウの指がわずかに動く。


離れる。


ではなく、“戻る”。



世界が一気に反発する。



欠けていた空間が、弾けるように閉じる。


色が戻る。


音が戻る。


重さが戻る。



ガイがユウの腕を掴み、引き戻す。


強い力。


でもそれは戦闘の力じゃない。


“現実に戻す力”だった。



ユウは膝をつく。


息が荒い。


ただし痛みはない。


代わりに残っているのは――


説明できない“記録”。



ミアが一歩近づく。


その目は、今までと違う。


怖いわけじゃない。


でも確実に変わっている。



「ユウ」


静かに呼ぶ。


「今の……見えた?」



ユウは答えられない。


ただ、自分の手を見ている。



そこにはもう何もない。


でも確かに、さっきまで“何かに触れていた感覚”だけが残っている。



ガイが低く言う。


「やっぱりな」


「何が」


ユウの問いに、ガイは少しだけ間を置いて答える。



「お前、触れたんだよ」



「世界の“前の形”に」



その言葉で、空気が変わる。



ミアの視線が一瞬だけ揺れる。


未来がまた、分岐する。


でも今度は――さっきより明確に。



「……これ」


ミアが呟く。


「もう“偶然”じゃない」



ユウはまだ理解できていない。


ただ一つだけ分かる。



さっき触れたものは、敵でも現象でもない。



“世界のルールそのものの欠片”だった。



そしてその日から。


ユウの時間は、少しだけズレ始める。

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