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第2章:境界のほころび②

空間のひびは、音を立てない。


それが逆に異様だった。

壊れているのに、壊れる音がしない。


ユウは一歩、踏み込もうとして止まる。


「触れるな」


ガイの声が短く飛ぶ。


「これは“触れるもの”じゃない」


「じゃあ何だよ」


ユウの問いに、ガイは答えない。

代わりに剣の柄に手をかけた。


その動きだけで分かる。

これは“戦闘”の準備じゃない。


判断だ。



ミアが目を細める。


その視線は、いつもより深く“奥”を見ていた。


「……これ、もう一回増える」


「何が?」


ユウが聞いた瞬間だった。


空間の“欠け”が、もう一つ生まれる。


今度は少し離れた場所。

まるで現実が“呼吸を忘れた瞬間”みたいに、ぽっかりと抜け落ちた。


そしてその欠けは、ゆっくりと“繋がり始める”。


何かが出てくる。


ただし“出てくる”という表現は正しくない。


元からそこにいたものが、思い出されたように現れている。



「来る」


ミアの声が低くなる。


その瞬間、ユウの視界が一瞬だけ“ずれる”。


地面が上に見えた気がした。

空が横に流れた気がした。


戻る。


だが“何か”は確実に変わっている。



現れたそれは、形を持っていなかった。


人でも、獣でもない。

ただ“意味の欠けた影”のようなもの。


近づいてくるだけで、周囲の色が薄くなる。


「残滓じゃない」


ガイがもう一度言う。


「これは……前段階だ」


「前段階って何だよ」


ユウの声に、ガイはようやく答えた。


「“壊れる前の世界の癖”みたいなもんだ」



その瞬間だった。


ミアの呼吸が止まる。


視線が一点に固定される。


「ユウ」


その声は、さっきまでと違う。


確定してしまったものを見た声。


「それ、触れたら……」


言葉が途切れる。


代わりに、未来が“流れ込む”。


ミアの視界の中で、無数の可能性が一瞬だけ重なる。


* ユウが触れる未来

* ガイが止める未来

* 何も起きない未来

* そして、どれでもない未来


その全部が一度に崩れかける。



「……どれも、途中で“ズレる”」


ミアの声が震える。


「結末が固定されない」



その言葉の意味を理解する前に。


ユウの足が、一歩だけ前に出ていた。


意識ではない。

反射でもない。


ただ“見たくなった”。


その瞬間。


世界が、ほんのわずかに“ユウに向き直る”。



ガイが動く。


止めるためじゃない。


守るために。



そしてユウの手が――


その“欠け”に触れようとした瞬間。

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