第10話
アビリティアーツ。
それは――能力を用いた次世代型の格闘競技。
東京第一能力学院でも、このアビリティアーツの部活動は数えきれないほど存在しており、その規模も実にさまざまだ。
最低人数の三人から、数十人を超える大所帯まで。
まさに多種多様な集団が、日々技を競い合っている。
そしてもちろん、その中でも“名門”と呼ばれる部は確かに存在する。
その代表格こそ――『ストレンジャー』。
東京能力学院の第一から第四校が合同で行うアビリティアーツ大会、“東王戦”。
その舞台で、彼らは現在三連覇中。
さらに学院対抗の“全王祭”では前回三位という輝かしい実績を誇る。
この東京第一能力学院に通うなら、誰もが一度は憧れる。
そう、誰もが夢見る頂点の部――それが『ストレンジャー』なのだ。
……誰もが、憧れる部なのだが――。
「それで、三人は『ストレンジャー』に入るのよね?」
テーブル越しにそう言ったのは、時雨飛鳥だった。
彼女は当然のように言い放つが、聞かされるこちらとしては少々たまったものじゃない。
今、僕――無限は、時雨、イリス、神狩と一緒に、放課後の学食でダラダラと過ごしている。
本来ならボランティア部の活動に向かいたいところだが、今日は旭の一存で休みになった。
どうやら急にバイトが入ったらしく、そそくさと学院を後にしてしまったのだ。
結果、僕はこうして三人と取り留めのない話をしているというわけである。
「『ストレンジャー』って、アーツ部のチームよね?」
イリスが確認するように時雨へ尋ねた。
「そう。私が所属しているアーツ部」
「学院に来たらアーツ部には入ろうと思ってたけど……そのチーム、強いの?」
「安心しなさい。東京能力学院で“最強”って言われるくらいにはね」
「ふ~ん、なら入ってあげてもいいかしら」
「はぁっ? あんたねぇ、上から目線にもほどがあるでしょ。そんなこと言って、Fランクの能力者に負けたのはどこのどいつだったかしら?」
「模擬戦で私にコテンパンにされた女が何か吠えてるけど? あなたが“エース”を張ってる部なんて、たかが知れてるんじゃない?」
バチバチと、二人の視線がぶつかり合う。
空気がピリつき、見えない火花が散るようだ。
……頼むからやめてくれ。止めるのはいつも僕の役目なんだぞ。
「ほら、二人ともそのへんで。――それより、イリスさんはいいとしてさ。僕と翼が『ストレンジャー』に入るのは難しいんじゃない?能力ランクの制限とかあるでしょ。Cランク以上とか」
「大丈夫。私が翼も無限もまとめて推薦してあげる。推薦ならランクに関係なく、入部試験を受けられるのよ」
「わ~、それは嬉しい限りだね」
思わず乾いた笑いが漏れる。
ひとまず翼へ話題を振ってみる。
「それで、翼はどうするんだい?試験、受けてみる?」
「まあな。俺は少しでも実績を積まないといけない。チャンスがあるなら掴むさ」
その言葉に、僕は思わず笑ってしまう。
しばらく一緒にいて気づいたが、この翼という男は実にカリスマ性に溢れている。
一見するとちょっと頼りなさそうにも見えるのだが、その実、一本芯が通っている。
「君は相変わらずカッコいいね。まあ、翼ならイリスさんにも勝った実績があるし、試験も軽々突破できるんじゃない?それに比べて僕は厳しいだろうな。能力も非戦闘系だし」
「そんなことないでしょ?あなた、中等部の時から“オーラ”を使えてたじゃない」
時雨が当然のように言う。
――こいつは“オーラ”を使うということが、どれほど特異か分かっていない。
通常、能力を使う際は体内の“能力エネルギー”をそのまま能力の発動に用いる。
本来、そのエネルギーは各人の能力特性に沿った形で固定されているため、純粋なエネルギーとして取り出すことはほぼ不可能。
だが、それを可能にしたのが“オーラ”だ。
能力エネルギーを純粋エネルギーとして抽出し、身体強化や推進力として活用する――。
一時的とはいえ、常人の何倍もの身体能力を得ることができる。
非戦闘系能力者が一度は憧れる“力の境地”でもある。
だが、裏を返せばそれは――“能力が弱い”ことの証でもある。
本来の能力が強ければ、そんな外的強化に頼る必要などないのだから。
だから僕は、“オーラ”が嫌いだ。
「買い被りすぎだよ。僕の“オーラ”なんて大したものじゃない。そもそもエネルギーの保有量も少ないし」
「う~ん、そうかなぁ?中等部の時は敵なしだった気がするけど……」
「何年前の話だい。それに、僕はもう別の部活に入ってる」
「えっ!?そうなの?」
「ああ、“ボランティア部”っていうね」
「ボランティア部?」
時雨が眉をひそめる。
無理もない。そんな部、普通は聞いたこともないだろう。
「そう。人が抱える悩みや困りごとを、無償の心で解決する――崇高な部活だよ」
「胡散臭いわね……忙しいの?」
「……まあ、そこそこにね」
「そっかぁ。なら無限は無理か~」
時雨は残念そうに肩を落とす。
――よし。心の中で小さくガッツポーズを決める。
今日ほど、ボランティア部に入っていてよかったと思った日はないね。




