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能力学院のなんでも屋!  作者: 日の太郎
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第9話

ボランティア部は、基本的に暇だ。

それもそのはず、依頼が来ない限りは特にやることがない。

だから放課後の部室は、今日ものんびりとした空気に包まれている――。


「ねえ、勧誘活動くらいしたらどうなのかしら?」


ジト目の会長が、俺の目の前で腕を組んでいた。

なぜこいつが部室にいるのかはさておき、言っていることは至極もっともだ。


「やっても望みが薄いことはやらない主義でね」


「ただの面倒くさがりじゃない」


 会長は呆れたようにため息をつくと、紙コップのコーヒーを一口すする。


「……不味い」


「あのな、人が淹れたコーヒーに“まずい”はないだろ」


「淹れたも何も、インスタントコーヒーでしょ?」


「お湯沸かして、コップに粉入れて、お湯注ぐのも面倒なんだぞ」


「そのレベルで面倒なら、勧誘なんて無理ね」


「お前な〜……。ていうか、なんでここにいるんだよ。生徒会、暇なのか?」


「暇なわけないでしょ。大忙しよ」


「ならここにいるのはおかしいだろ」


「大丈夫。生徒会のメンバーは皆優秀だから。私が少しくらいいなくても問題ないわ」


「つまりサボりってことだな」


「人聞きが悪いわね。私にだって休息が必要なの」


そう言って会長は再びコーヒーを口に運び、顔をしかめた。

やっぱり不味かったらしい。……もう二度とコーヒーは淹れないと心に決めたその時、ガラッとドアが開く。


「あら、無限くん。お邪魔してるわよ」


「会長。お元気そうで何よりです。でも、なぜここに?」


「休息中なの」


「こいつサボってるんだよ。お前からも何か言ってやれ」


「まあ、会長も忙しいでしょうし。少し息抜きが必要なんじゃないですか」


無限はソファの空いた場所にドカッと座り、深く息を吐いた。

どこか疲れたような表情をしている。


「やっぱり無限くんは私のことわかってる〜。旭も見習いなさい」


会長がしたり顔で笑う。

頬をつねってやりたい衝動に駆られるが、なんとか自制した。――まあ、そのうちやるとして。


「で、無限。お前、なんか元気ないな。どうした?」


先ほどのため息もそうだが、目がどこか虚ろだ。明らかに何かあった顔つきだ。


「そう見えるかな」


無限は力なく笑い、言葉を続けた。


「実は、自分のクラスに時雨さんがいてね」


「時雨って、あの時雨か?」


「そう。風紀委員の銀髪で強い人」


「なんだよ、もっとヤバいことかと思った。元々同じ部活だったんだろ?なら顔見知りじゃないか」


「そういうことじゃないんだよ。これは僕の……心の問題というか、何というか」


「心の問題?」


「とにかく僕にとっては、あまり良くない状況ってこと」


曖昧な言い方に、俺は肩をすくめた。

まあ、無限にもいろいろあるんだろう。


「ふーん。まあ頑張れ。俺は何もできないし、何もしないぞ」


「知ってる」


乾いた笑いが漏れる。

どうやら本当に何かあるらしいが、踏み込みすぎるのも面倒だ。

……そう、こういうのは放っておくに限る。

と、そんな風に思っていた矢先――


「ああ、そうそう。時雨さんとは別に、面白い子ともクラスメイトになったんだ」


無限が少し顔を明るくしながら言った。

その変化に、俺もなんとなく安心する。


「面白い子?」


「うん。あの――イリス・グレイスフォードさんだよ」


「あら、無限くん。イリスさんと一緒のクラスになったのね」


「驚いたよ。まさか同じクラスになるとはね。でも、もっと驚いたことがあって――」


しかし、無限が言い終わるよりも早く、会長が軽く指を立てて口を挟む。


「それって、神狩翼くんのこと?」


「あれ、会長? 知ってるんですか?」


「ええ、もちろん。私も見てたもの」


「へえ~。やっぱりすごかった?」


「イリスさんはもちろんだけど、翼くんも逸材ね。普通ランクFの能力者が、ランクAに勝つなんてありえないわ」


「ですよね。どうやったんでしょう」


「見た感じだと、たぶんオーラを使ってたのよ。無限くんも使うでしょ?」


「まあ、能力が弱い人にはそれしか戦闘手段がありませんから。でも、翼ってもともと一般人ですよね? どこでそんな能力を?」


「さあね。でも、オーラだけでランクAに勝つのはちょっと信じがたいわ」


二人の会話を聞きながら、俺は頭の中に「?」を浮かべていた。

まず誰だ、神狩翼って。

しかも話の流れ的に、そいつはあのイリス・グレイスフォードに勝ったってことか?


「待て待て、俺を置いてくな!」


「あら、ごめんなさい。興味ないかと思って」


「興味がないのと、話の輪に入れないのは別問題だ。寂しいだろ」


「それもそうね」


会長は苦笑しながら、話の流れを整理するように言葉を続けた。


「神狩って名前は知ってる?」


「馬鹿にするな。次元戦争を終結に導いた“能力の名家”だろ」


「さすがにそれは知ってるか。授業でも習うしね。で、その翼くんは神狩家の直系なのよ。でも、なぜか今まで一般人として過ごしていたの」


「一般人? 能力者は学院に入る決まりだろ? なんでだ」


「能力発現が遅い子もいるけど、高校まで発現しないなんて聞いたことないわ。おそらく家ぐるみで隠してたのね」


「隠してた? なんでそんなことを」


「翼くんの能力ランクが“F”だからよ。名家としては認められなかったの。それに――神狩(かがり)桜子(さくらこ)の存在も大きいわね」


「その人は知ってる。日本最強の能力者だ」


「よかった。それ知らなかったら、基礎概論からやり直しさせるところだったわ」


「やめろって。で、その最強がどうした」


「桜子さんは翼くんの姉なの。神狩家は代々男系当主なんだけど、跡継ぎがいない場合は女性が継ぐの。つまり、これまでは桜子さんが次期当主だった。けど翼くんの存在が明るみに出たせいで――大混乱よ」


会長の話す調子は軽いが、内容はなかなか重い。

無限も苦笑している。俺はもう、ついていくのに必死だ。


「はあ……なんか面倒くさそうってことだけは分かった」


「桜子さんは当主の座を失う可能性が出てきたの。でもそれは、翼くんが“能力者として認められたら”の話。この学院を卒業できなければ、能力者としても認められないわ」


「ちょっと待て。卒業できないって……そんなことあるのか?」


「普通はない。でも神狩家ならやりかねないわ。彼を卒業させないためなら、どんな手でも使うでしょうね。で、その第一弾が入学試験での“対イリス戦”。勝てなければ入学不可って条件よ」


「性格悪すぎだろ……普通勝てないって」


「私も学院長も反対したのよ。でもあの家が相手じゃね。――けど、彼は勝ったの。理不尽をひっくり返してね。イリスさんが油断してたとはいえ、勝ちは勝ち。神狩家も入学を認めざるを得なかったの。……これが、神狩翼くんの事情ってわけ」


会長は満足げに微笑んだ。

人の人生をここまで軽やかに語るのもどうかと思うが、確かにその男――神狩翼、というのは気になる存在だ。


「無限は、知ってたのか?」


「いや、知らなかった。でも、なんとなくそんな気はしてたんだ。……読み通りだったよ」


無限が小さく笑う。その表情には、どこか期待と警戒が入り混じっていた。


すると突然、コンコンとドアをノックする音が響いた。

部室にいた全員の視線が、同時に入口へ向く。


「どうぞ」


俺が返事をすると、ガチャリと音を立ててドアが開く。入ってきたのは、一人の女生徒。姿勢の良さと凛とした空気が、第一印象からしてただ者ではなかった。


「失礼します。こちらに会長、来ていませんか?」


「――あら、立花ちゃん」


会長が驚いたように声を上げた。


「やっぱり、ここにいましたか。何してるんですか」


立花と呼ばれた女生徒は、ため息混じりにツカツカと歩み寄ると、容赦なく会長の肩を掴んだ。


「さあ、帰りますよ。このあと会議があるの、忘れたんですか?」


「え〜、大丈夫よ。立花ちゃんがいれば」


会長は悪びれもせず笑ってみせる。


「そういうわけにもいきません」


立花はピシャリと言い放ち、すぐさま会長を立たせる。手際のよさが、まるで小言に慣れきった家庭教師のようだ。


「と、いうわけで――日暮くんに刃渡くん。会長の面倒ありがとうございます。連れて行きますので、悪しからず」


「おう、頼む。副会長も大変だな」


俺が苦笑混じりに言うと、立花は「まったくです」と肩をすくめる。


そのまま彼女は会長の腕を引き、出口へ向かった。

会長は「いやだー!」と子どものように抵抗していたが、最後には観念したようにおずおずと立花の背中についていく。


ドアが閉まると、静けさが戻った。

さっきまでの喧騒が嘘のように、部室には穏やかな空気が流れる。


高等部二年生、生徒会副会長・立花恭子。

型にはまったような“ザ・優等生”という言葉がぴったりの人物だ。

シュッとした顔立ちに、肩までの黒髪。キリッとした目つきからは、揺るぎない芯の強さを感じさせる。

まさに――イケメン女子、というやつだ。


男子よりも女子人気が高く、教師の中にも彼女のファンがいるとかいないとか。

(以上、無限談)


「……会長、連れてかれちゃいましたね」

 

無限が小さく呟いた。

その声には、どこか名残惜しさのようなものが混じっていた。


俺としては厄介払いできて嬉しい限りなのだが、確かに面白い話も聞けた。


――神狩翼。

名家の落ちこぼれにして、入学試験で奇跡を起こした男。

さて、次はその“逸材”がどんな風に学院をかき回してくれるのか――少しだけ、興味が湧いてきた。

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