小さな事から…
三叉路に出会い、地図を開いていた時だった。
「なんだい、お嬢ちゃん、一人旅かい?」
闘神茉莉に話しかけてきたのは、丸っとした感じの、人の好さそうな、おばさんだった。
「あ、いえ、この妖精さんと一緒です」
茉莉は、ポケットから、グッタリしたリリーが顔を覗かせているのを指差してみせた。
おばさんは茉莉に近寄って、しげしげと灯明妖精を見ると、リリーの様子を見て心配そうに言った。
「なんだい、この子ずいぶん元気がないじゃないか、何か病気かい?」
「ご心配ありがとうございますマダム、私、ちょっと乗り物酔いしただけですので、大丈夫です」
リリーがそう答えると、
「乗り物?あんたたち何かに乗ってきたのかい?見えないけど」
おばさんは辺りをキョロキョロと見回して不振がった。
「その乗り物って、私です。えへへ」
茉莉は今度は自分の顔を指差した。
「あはは、そうかい。お嬢ちゃん元気そうだもんねえ」
「えへへ、元気すぎて走りすぎちゃったみたいです」
アハアハとひとしきり笑いあった後、
「あのう、すみません。この三叉路、こっちと」
茉莉は今来た道から、向かって右を指差す。
「こっち」
今度は左。おばさんは、そちらから現れた。
「どっちがアマダラ村に向かう道なんですかね?」
本日の最終目的地、都から一番近いパワースポットの名を告げると、おばさんはちょっと驚いた顔をした。
「アマダラはそっちの方だけど、あそこに何の用なんだい?兵舎とジャガイモ農家位しかないよ?」
おばさんは右手を指し示しながらも心配そうだ。
「今頃の時間からあんな所に行ったら、着く頃には日が暮れちまうよ、あそこは宿もないんだよ?それにあんた言葉は上手いけど外国の人だろう?うろうろしてたら、兵隊さんに捕まっちまうよ」
それに若い娘さんなんだし。と気遣ってくれる。
外国人だと思っても親切にしてくれるイェシカ国民の人情にふれて、茉莉は『いい国だお仕事がんばろう!』と決意を新たにした。
「あそこの兵隊さん達、柄が悪くておばさん嫌いなのよ」
聞き捨てならない言葉に、礼を言って先を急ごうとした茉莉は思い直した。
「何か、乱暴とかされたんですか?」
「いえね、あそこ何もないでしょう?だからうちの町によく来るんだけど、酒場であばれたり、町の人に因縁つけて喧嘩するもんだから、嫌ってるのは私だけじゃないのよ。兵隊さんってのは、私達を護ってくれるもんだと思ってたけど、あれじゃ何のためにいるんだかわかんないね」
おばさんは、憤懣やるかたない様子で茉莉に訴える。
「今度の闘神様も女の子だっていう話だし、この国はどうなっちゃうんだろうねえ」
やれやれ、とおばさんは、茉莉が本人とは思わず言った。
「女の子だと、何かまずいんですか?」
益々聞き捨てならない話に、思わす聞き返してしまう。
「だって、闘神だよ?闘う神様なんだから。
女の子は喧嘩する時に拳で言わしたりしないもんだろう?」
た、確かに!茉莉は心の中で頷いた。
「国攻めなんかで、闘神同士の勝負になったら、すごい事になるらしいじゃないか。あたしゃ心配だよ。兵士もあんなだしねぇ、今は平和でも世の中何があるかわからないしね」
この国のセコムはおばさんに不評らしい。茉莉は、どこかで聞いた『小さい事からコツコツと』というフレーズを頭の中でリフレインさせながら、おばさんに言い切った。
「おばさん、あのね、今度の闘神は、女の子でも、言わしてやるからね!
よその国の闘神が来てパンチくれたって、怖くなんかないんだから。逆にフルボッコにしてやる覚悟もあるから!
全力でおばさん達を護るからね!」
「そうですわ、マダム!マリ様は誠実で責任感のある方です。ご心配には及びませんよ」
鼻息荒く茉莉とリリーに言われたおばさんは、何の事だかわからなかったが、その勢いに押されて。
「そ、そうなのかい。そりゃよかったよ」
と、頷いてしまった。
「うんうん。私急ぐんで、じゃあね!」
「さようなら、マダム~ってまたこれですかああああ」
茉莉はリリーの挨拶が終わらないうちに、再び尋常ならざるスピードで走り去った。
おばさんはたっぷり1分程、土煙を残して、茉莉の姿があっという間に遠ざかるまで見送ると、やっと思い至った。
「やだよう、今のもしかして闘神様だったの?やだやだ、失礼な事言っちゃったよう」
その後、アマダラ村で、茉莉が風紀の乱れた兵士を、『キュッ』といわしたという噂をおばさんは聞いて、会う人事に、三叉路で茉莉に会った話を自慢する事になったのだった。




