9章 イシタ公国編 44話 幼馴染と偽善者?そして信じられる存在達
アクセスありがとうございます。
ちと、長くなりました。
突然、目の前に幼馴染のリサがいる。石原の魔法で黒髪黒目の女性が、金髪碧眼の女性へと姿を変える。最初は他人だと思ったけど、幼馴染ならわかる小さなリサの癖で本人だと脳が認知すると同時にあの光景がよぎる。
あの時の王都南門での光景が強制的にフラッシュバックする。突然握っていた俺の手を振り解き、対峙する真鍋の元へと振り向くことなく走り抱擁するリサの姿が・・。
「ハルっち。この子は、この世界で幼馴染だったんでしょ?真鍋の女だったけど返すから、その2人を返して・・ね?」
俺の目の前に立つリサを見たマリアが、感情を剥き出しに詰め寄ろうとしたところで俺は右手で彼女を制止する。
「マリアッ!落ち着けって!」
「でも!だって! ハルを・・ハルを!」
「わかってる!でも、今はダメだ・・な?」
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・うん」
なんとかマリアを落ち着かせ、乱れた呼吸を整えさせているとアイナがマリアを支えてくれる。
リサが突然目の前に現れたことで、自分の感情は乱れていたのにマリアの対処をしていたためなのか、自然と落ち着いている自分が居て石原に告げる。
「イシちゃんコレは・・かなりダメージがデカいよ・・」
「そうかな?そんなふうには見えないんだけどなぁ〜。それに、他の召喚された櫻田さん達も忽然と姿を消してしまって、かなりの戦力ダウンしているからこっちもダメージがデカいんだよねー」
「・・・・・・」
「ハルっちがまぁ、この中古いらないんじゃ仕方ないよね〜。そうだ!キミ・・幼馴染のハルっちにせっかく会えたんだから、何か言いたいことあるんじゃないかな?」
石原にきっかけをもらったリサは、ここでやっと俺と視線を合わせてくる。
「・・久しぶりだね、リサ」
「・・・・たなんか・・」
「え?なに?」
リサの声を久しぶりに耳にしたけど、小さすぎて聞き取れなかった。
「・・んたなんか・・ハルなんか、好きになるんじゃなかった!」
バチンッ!!
ズサァァ!
リサが俺へと発した言葉を終えた直後に乾いた音がこの場に鳴り響き、彼女は地面へと倒れピクリとも動かない。
俺の心に深く根元まで突き刺さるリサの言葉のナイフが致命傷になり思考回路が停止し視線だけは、いつのまにか右手を振り抜いて止まるマリアの後ろ姿を捉えているけど理解できていなかった。
「あなたって人は!!・・どうして!どうして、そんな言葉をハルに言えるの?ハルが貴方のために尽くしたことを・・したことは、なんだったのよ!!」
「ハル・・ハル?・・ねぇ、ハル!」
「・・・・・・」
「ハル・・お願い、息を・・呼吸をして」
「くっはぁ・・はぁ・・はぁ・・」
「良かった・・」
極度の動揺で、自発呼吸をしていない俺に気付いたアイナが、俺の頬をさすりながら教えてくれたため無意識に止まっていた呼吸を再開すrことができた。
「なんなんだよ、この修羅場は・・昼ドラか?」
沖田は、苦笑いしながら倒れたままのリサを抱き起こし近くにいる騎士にリサを渡し馬車へと運ばせている。
「椎名・・幼馴染?元カノ?さんは、退場したけど怒らないのかな?」
「勇者様!これ以上、何を求めるのですか?」
俺の代わりにマリアが沖田の相手をしてくれる。
「こちらの要望は、なにも変わっていませんよ?マリア様とアイナ副団長のお2人が一緒に王城へと戻ってさえくれればいいんですから」
「・・先程から伝えた通りです。私達は・・」
沖田は不敵な笑みを浮かべながら、アイナの言葉を遮り告げてきた。
「魔族に大事な王国を滅ぼされてもいいんですか?俺達は、召喚者ですよ?勇者の俺の意思で魔族達と戦わず、蹂躙される王国を静観することだってできるんだからな?」
「くっ・・そんなこと・・」
沖田がゆっくりと近づきマリアの肩を掴み抱き寄せようとするところで、俺は現実に戻りギリギリのタイミングで沖田の手を払い飛ばしマリアを俺の胸元へと抱き寄せる。
「ハル・・」
安堵の表情で見上げるマリアと視線を重ねた後に沖田を見つめる。
「沖田、2人の意思は決まっている。このまま帰ってくれ」
「決まっている?マリアの意思がか?」
「当然だろ?」
沖田は、俺から視線を外しマリアを見つめながら俺に問いかけてくる。
「椎名、マリアは念話スキル持っているだろ?」
「・・・・・・」
「黙っていても無駄だぜ・・ステータスは把握済だからな」
その言葉に、一瞬マリアの全身が強張るのを感じた。
「それに、1つ大事なことを思い出させてやるよ」
「何を・・だ?」
「お前さ、マリアを王城から連れ出す前に・・そうだな、夜になるとマリアの念話が届かなかったか?」
「やめて!・・それ以上は!」
マリアの拒絶する声を聞きながら、俺は過去に寝ている夜にマリアの声を聞いたことを覚えている。それに反応しようとした時に、一緒に寝ていたクウコに止められ理由も教えられた。
胸元で抱きしめているマリアの鼓動が一気に早くなっているのが、抱き締めている腕を通して感じてしまった。
「だから、なんだ?」
「俺とマリアはな・・お前が王城へ迎えにくる前にはもう・・・・最後まで言わせるなよ」
ふと沖田の言動を聞いていると、いつのまにかマリアを呼び捨てで呼んでいて、それを拒絶しないマリアも居る。そこで俺は、やっと気付くことができた。
「そっかそっか・・そうだったんだ・・」
今日は2度も強い衝撃を心に受けてしまい、精神的に立っていられるのがやっとの状態だ。鉛のように重く感じる腕を下に下ろしマリアを解放して数歩だけ後退り距離を取る。
「マリア様・・どうして・・貴方様には貫く御意志は・・」
沖田の言葉にアイナも動揺し、手で口を押さえながら問いかけている。
「ち、違うの・・違うのよ。ハル・・・聞いて」
「違わないさマリア!あんなに熱い夜を朝まで共に過ごしたんだ。勇者と王女が関係を持つことは、この世界では常識だろ?」
「ア、アイナ?・・近くにいるか?」
「ハル?」
「マリアの・・マリアの護衛を頼むな」
沖田の言葉に確証が無いことは理解している。けれど、リサの言葉で心が砕け散っていた俺にとっては、絶妙なタイミングであり充分過ぎる程の破壊力があった。
もうこの場から逃げ出したい感情に抗うチカラも無い俺は瞬時に心を支配され、アイナにマリアを任せることを告げていた。
今の俺には、まともにマリアの顔を見る余裕が無い。彼女の訴える瞳を見た瞬間に沖田の発言の真偽を確かめたくなる衝動に駆られるからだ。
そして、必ずマリアは沖田の言葉を涙ながらに必死に否定するはずだ。だけど、今この場でマリアの口から否定の言葉を聞いても、逆に俺の心は疑念が深まり修復できないほどの溝を作り上げてしまう自信があった。
もう、何がなんだかわからなくなってしまった俺は、マリアとアイナから離れて通りの真ん中に立つと視界にはたくさんの野次馬を確認してしまう。
「こんなたくさんいたのか・・それにもう、全部聞かれただろうな」
下を向き、ゆっくりと後退りながらアイテムボックスから愛剣を抜刀し構え、沖田達から充分な距離を稼ぐ。俺が抜刀したことを引き金に、騎士達も抜刀し指揮官の男が陣形を整えさせる命令を下命していた。
「椎名!無駄な争いは避けるべきだ!すぐに剣を収めれば、無かったことにする!」
沖田のそんな一方的な言葉を聞いて、足元を見ていた俺はゆっくりと顔を上げて沖田を見つめ聞く。もちろん殺気を込めることなく穏やかに。
「なぁ、沖田・・」
「なんだ?剣を収めてくれるのか?」
「・・お前は、魔王討伐の実力は持っているのかな?」
「はぁ?いきなり何言ってんだ?・・俺は勇者だぞ?魔王討伐のためにこの世界に召喚されたんだ!」
「そうだったな・・ごめん。でもな・・お前のあの魔法は、魔王直属の部下にも届いていなかったんだ・・」
「なんだって?もう一回言ってみろ!」
「ごめん・・独り言だ・・忘れてくれ」
そう呟いた俺は、不思議と沖田達に対し笑顔を見せてしまったようだ。俺の態度に困惑する勇者パーティーと悲痛な表情を浮かべるアイナを見ながら脳内で魔法の詠唱を完了させ、後は発動させるだけの状態へと仕上げる。
今回は、街中のため周囲の住民への被害を最小限に押さえ込見たい俺は、視線を動かし有効範囲を選定する。無言で視線だけを動かす俺が次に何をするかわからない沖田達は動けないでいる。
このチャンスを無駄にすることなく、俺にしか聞こえないほどの小さな声量で魔法を発動させた。
「阻害魔法マグネティズム・ディスターブル・・」
無風状態だったこの場所に、俺を中心に風が吹き始め渦を巻きながらだんだん風速を増していき暴風へと姿を変え局地的な嵐に巻き込み沖田達の対応を遅らせる。
沖田や騎士の指揮官らしき男が何か指示を飛ばそうとしていたが、黒い砂嵐へと豹変した時点で視覚と聴覚が奪われてしまい、どうしようもできない状態に陥っている。
このまま地面に倒れ抗うこともできず、意識を刈り上げられる僅かな時間は不快な気持ちに支配され自ら死を求めてしまうだろう。
(このへんが限界か・・)
発動した俺は、意識を刈り取られるギリギリのところで有効範囲から転がるように離脱し、外から黒い砂嵐を見上げる。
「兄ちゃん、無事か?」
「・・は、はい。なんとか」
「そうか、それなら良かった」
離脱した場所に野次馬であろう老人に話しかけられ驚いたけど、巻き込まれ逃げ出すことができた役を演じて怪しまれることなく、この場から離れ路地裏へと移動し隠密スキルで姿を晦ますことに成功する。
脳内に2回ほど一瞬だけ反応があったけど、きっとアイナとマリアが念話を試したのだろう。だけど、黒い砂嵐は阻害魔法の特性に特化しているため、それ以降は何もなかった。
逃げ出すように家屋の屋根伝いに移動し、あてもなく行動する。誰かが嫌いになった訳じゃない。ただ、1人に・・孤独になりたい・・しばらく誰も俺に干渉して欲しくない。
そう思いながら足を止めると、この街で1番高い場所にある屋敷の屋根に辿り着いて街並みを見下ろすと、俺が発動した黒い砂嵐はいまだに発動していた・・。
それから何も考えることもなく空を眺め時間を浪費していると、空高く昇っていた陽も山の向こう側へと沈もうとしている。
さすがに黒い砂嵐は魔力を失い飛散して、元の街並みへと戻っているけど衛兵が通りを巡察する規模が増えていたのだった。
「今日はこのまま、ここで寝るかな?」
そう呟きながらアイテムボックスから寝袋と毛布を取り出し潜り込み早めに寝ることにした・・見知らぬ人の屋敷の屋根で・・。
寝始めた頃に、何度も念話スキルを繋ごうとする感覚があったけど全部無視して切断した。宿の夕食時間になり、戻らない俺を心配しての行動だろう。
気持ちはありがたいけど、今の俺はみんなのところに帰っても冷静にいられなし何より1人になりたいのだ。そう思いながら脳内が静かになったところで、いつのまにか意識を手放していた・・。
「ぅん・・・・ん?」
陽の光が俺を照らし、日の出と共に俺は目覚めると同時にモフモフに囲まれているような感覚があり、しかも朝冷えを感じることなく逆に温もりを感じる。
まさかと思いながら寝袋の中を覗くと、腹の上に小さな銀狼が丸くなって寝ている。しかも、俺を挟み込むようにミオとミリナが全裸でスヤスヤと寝ているのだった。
「・・シェル、ミオ、ミリナ・・」
俺の言葉にピコピコッと銀と黒と茶のケモミミが反応し、目を開けて俺を見つめる。
「どうしてココが?」
背伸びした小さな銀狼が、あっという間に人化し全裸のシェルが胸を押しつけながら笑顔で口を開く。
「何処に居ても、ハルの居場所は手に取るようにわかるのじゃよ」
「何があっても、ミオは必ずご主人さまの傍に居ます」
「ご主人様、ミリナもミオお姉ちゃんと一緒だよ」
3人の無垢な笑顔に癒される俺は、3人の頭を撫でながら視界が少し滲んでしまっていた。
「ありがとう・・シェル、ミオ、ミリナ」
ビリビリビリ・・・・。
2人用の寝袋に4人が入っていたため、耐えきれなくなった寝袋が破れてしまった。その音を聞いてなぜか可笑しく感じた俺たちは、小さく笑い声を上げて共に過ごす時間を幸せに感じていたのだった・・・・。
誤字指摘ありがとうございます。




