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8章 王国潜伏編 28話 再会と別れ①

アクセスありがとうございます


(痒い!・・痒過ぎる!!)


 突然襲われる感覚に意識が強制的に覚醒され、身体の筋肉が反応し上半身を起こし左手が右半身の痒い部位を目指し動くが、あと少しのところで何者かの手に捕まれ制止された。


「にぃに!ダメだよ、我慢して!」


 俺の左手を掴んだのは、俺に治癒魔法をかけている美音だった。


「美音・・我慢できないくらい痒い・・」


「それでもダメだよ、にぃに!・・やっと治ってきたから我慢して」


 美音の制止を振り切ろうと左手に力を入れるが、今の俺の腕力では美音に勝てなかった。


「くっ・・わかったよ・・」


 諦めた俺は左手の力を抜き痒さを我慢するため、目を瞑り食いしばることにした。


「ハル・・」


 目を瞑り、右半身の痒さを我慢しているとアイナの声がして目を開ける。


「・・アイナ」


 アイナは、俺を見て視線を少しズラし右半身を見た後に俺を優しい瞳で見つめ口を開く。


「・・生きててよかった・・もう逢えないと思っていたんだ・・」


「ゴメンな・・アイナ、このシャツはたしか・・」


「うん、ハルが着ていたシャツ・・」


 この世界には存在しないマークが胸の位置に描かれたワンポイントの白シャツをアイナが大事そうに着ている。


「やっぱりそうだよな」


「か・・返さないぞ。これは、私の大事な物だからな」


 少し顔を赤くし恥ずかしそうに顔を逸らすアイナの右肩に左手を置き抱き寄せると、アイナは俺の右半身に触れないよう抱き締めてきた。


「ハル・・」


「こんな再会になっちまったな・・しかも、屋敷を壊してゴメンな」


「家なんて、どうでもいい。ハルが生きていてくれるなら」


 アイナと抱き締め合い離れた後に美音に気になることを聞いた。


「美音、俺の傷は美音が治してくれ他のか?」


「にぃに、違うよ。にぃにの傷はマリアさんが治してくれたの」


「マリアが?でも、この部屋にいないけど・・」


 部屋を見渡す俺の視界には、美音と琴音とアイナとリンしかいない。


「マリアさん、にぃにの治癒中に突然倒れたから他の部屋で休んでるよ」


「そうか、無理させたんだな・・そういえばリル達は?」


「リルちゃん達も違う部屋にいると思う」


「思う?」


 美音のはっきりしない答えにもう一度聞いた。


「美音、思うってそういうこと?」


「・・それは、ナトリアさんがリルちゃんとクウコちゃんを連れて行ったから・・」


「ナトリアが?・・・・」


 俺は立ち上がりベッドから降りる。


「ハル、どこへ行く気だ?」


 アイナの問いに俺は告げる。


「リル達を探してくる」


 この部屋にいるアイナ達は視線を逸らし誰も俺を止める気配がなかったためそのまま部屋を出ると、廊下で気配探知スキルを発動し2人を探す。


「ここか・・」


 少し離れた場所で2人にお気配を捉え移動する。そして、2人がいる部屋のドアノブに手をかけた時にナトリアに声をかけられ振り向く。


「ハル・・」


「ナトリア・・」


「ハル、あの2人はこれからも必要か?」


「リルとクウコのことか?」


 俺は、ナトリの質問を質問で返す。


「そうだ・・」


「もちろん必要さ・・これからもずっとな・・」


 ナトアリアの表情は少し嫌悪感を出している。


「ハルの危機的状況に気付かずにいた2人を?」


「絶望の淵にいた俺を救ってくれたのは、あの2人だ。だから俺は、あの2人が必要なんだ」


「・・そうか」


 ナトリアは踵を返し俺から離れて行く。その背を見送った後にドアを開けて中に入ると、1つの小さなベッドにリルとクウコが寝ている。


 俺は、2人の寝顔を見ながら部屋に入りドアを静かに閉める。


「リル、クウコ」


 自然と2人の名前を口にして近づき、ベッドに腰掛け頭を撫でいると、2人の寝顔がいつもと違うことに気付く。


「リル・・クウコ?」


 2人の顔がいつもと違い、少し白く感じる。まるで血の気が引いているような表情だ。


「おーい、リル・・クウコ・・」


 そっと2人の頬に手を触れると、ひんやりと冷たい感触が伝わる。


「・・おい・・ウソ・・だろ・・」


 まるで死人のような冷たさを感じ、急激に鼓動が高まり2人に触れた手が震える。


「リル!クウコ!!」


 俺の問い掛けに、2人のケモミミが一切反応しない。


「寝たフリならもういいぞ!・・・俺は動けるようになったからさ、起きてくれよ」


 2人の寝顔から視線が外せないまま、どうしていいかわからなくなる俺は、無意識に布団を剥ぎリルとクウの胸に耳を当てて鼓動を確かめた。




「お前ら・・こんな芸当もできるのか?」



 感じるはずの鼓動が一切感じれない。いつも抱っこしていた時に感じていた2人の鼓動を・・・・。


「うそ・・だよな・・夢だよな・・コレ・・」



「夢ではない・・現実だ・・」


 背後からラトニアの声がして振り向くと、彼女は感情の無い表情で俺を見ている。




「おい、ナトリア・・わかるように説明しろ・・」


「・・・・・・」


「黙秘か?・・2人をこうしたのは、お前か?」


「・・・・・・」


「無言の肯定なんだな?」


「・・・・・・」


「そうか、わかった・・」


 俺は立ち上がり、仲良く寝ているリルとクウコを優しく抱き上げ部屋を出る。


「ハル、その2人をどうするつもりだ?」


「・・・・・・」


 俺は振り向き、無言でナトリアを見つめる。感情の無い視線で。しばらくナトリアと見つめた後、最後まで何も言わず部屋を出てドアを閉める。


「こんな世界なんて消えちまえ・・」


 そう呟きながら廊下を歩き隠密スキルを発動し地下から地上へと出る。


「寝ちゃうと、いつもより少し重く感じるな・・」


 リルとクウコを肩に担いだままの俺は呟き目的も無く湖畔を歩く。陽が傾き遠くの山に陽が隠れようとしているのを見ながら歩く俺の視界が、急に滲みはじめ両頬に伝わる涙を拭うことなく歩き続ける。


 空が完全に暗くなった頃には、森の中を歩く俺がいた。俺に担がれた2人は、まだ起きようとしない。頭では理解しているが、心が認めようとしない。


 また2人の笑顔が見れると希望を持ち続けて・・。


 

 アイテムボックスから毛布を出して2人をその上に寝かせる。その横で野営用のテントを1人で設営し、リルとクウコをテントの中へと入れる。


 隠密スキルを解除し、そのまま2の間で横になり、今夜は3人一緒に寝ることにして目を瞑る。



「ハル・・ハル・・」


「ん?・・リル?」


 目を開けると、銀髪銀目のリルが笑顔で俺を呼ぶ。そして、その後ろには金髪金目のクウコが笑顔で俺の名を呼ぶ。


「ハル・・ハルー!」


「クウコ・・そんな声出さなくても、ココにいるよ」


「「 ハル・・ 」」


「どうした2人とも?」


「「 ハル大好きだよ! ずっと大好き!! 」」


「俺も大好きだよ・・リル、クウコ」


「「 ありがとう・・ 」」


 俺は2人を抱き締めて、頭を撫でてやるとリルとクウコは幸せそうな表情になりケモミミがピコピコ動き、そのケモミミも優しく撫でてやる。


「「 もう行くね・・ 」」


「どこに?」


「ちょっと遠いところ・・」

 

「遠いところ?なんで行くんだ、リル?」


 リルの銀色の瞳がキラキラと輝き出し涙目になる。


「そ、それは・・」


「ハル、リルとクウコは遠いところに行かなきゃダみたいなの」


 喋れないリルの代わりにウウコが告げる。


「はぁ?意味わかんないんだけど・・俺はどうしたらいいんだ?」


「ハルなら大丈夫だよ・・ミオ達もいるし琴音達もいるから」


「・・クウコ、ちょっと待て。言っている意味がわからん」


「ゴメンね、ハル」


 リルの瞳から涙が、とめどなく溢れ声が震えている。


「リル・・」


「ハル・・もう行くね」


 クウコも瞳から涙を溢れさせながら口を開く。


「なぁ、行くなよ・・俺を置いて行くなよ」


「「ゴメンね・・ハル 」」


 リルとクウコが俺に強く抱き締め、俺が2人を抱きしめようとしたらスッと2人が離れる。


「えっ・・・・」


 リルとクウコは、俺を見つめながら後退り離れて行く。


「待てよ・・どこ行くんだよ・・」


 俺は2人を捕まえるため足を動かそうとした瞬間に、誰かに両足を掴まれた感触があり足元に視線を向けるが誰にも捕まれていないため、再びリルとクウコの方へ視線を向けるとそこには2人の姿は無かった。


「リル!!クウコ!!」


 大声で2人の名前を呼び手を伸ばすと、薄暗いテントの中で上半身を起こし右手を伸ばす俺がいた。


「はぁ・・・・なんだ、夢か・・」


 リルとクウコとの別れが夢だったことに安堵し、隣にいる2人に視線を向けるといるはずの2人の姿は無く着ていた服だけがその場に持ち主を失ったように置かれてある光景が視界に入る。


「嘘だろ・・リル!クウコ!」


 1人テントで叫ぶ声に2人の返事は無く、ただ無音の時間が流れるだけだった。




 





 




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