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8章 王国潜伏編 29話 出会いと別れ②

アクセスありがとうございます


「朝か・・・・」


 テントの入り口幕の隙間から外の陽が差し込み、空気中の埃がキラキラと反射している。1人で過ごすテント内には喪失感に支配され、何か行動を起こす気になれないでいる。


 そのまま隠密スキルを発動し何日かが経った辺りで、空腹になっていることに気付いた俺はアイテムボックスから肉串を取り出し食べようとしたが、あの2人の顔が浮かび食べれなくなる。


「リル、クウコ・・」


 力なく呟き、出した肉串をアイテムボックスへ収納して、ゆっくりと立ち上がりテントから出る。


「眩しいな・・」


 もう陽は空高く上がり、大地を照らしている。何も考えず、ただ野営テントを片付けて収納し水筒の水を一口飲み歩き出す。


「俺って一体なんだったんだろう・・」


 そう呟きながら当てもなく森林を歩き、いつの間にか街道を1人歩く。


 何台か冒険者パーティーが乗る馬車が行き来するが、隠密スキルを発動している俺には誰にも気付かない。


「また1人になっちまったな・・」


 王都南の村で自分の家で生活し1人で薬草採取を繰り返していたあの頃のように、1人で当ても無く歩いている。


「もう、何かに隠れる必要はないか・・」


 ふとそう思い、隠密スキルを解除して街道を歩いていると俺を勢いよく抜き去った馬車が急に止まり、誰かが降りてこっちを見る。


「あなた!ハルなの?」


 豪華なワンピース姿の少女が馬車から降りて近付いてくる。


「ん?・・君はたしか・・ミリア第1王女様?」


「やっぱり、本当にハルなのね・・」


「ミリアお嬢様!その者に近付いてはいけませぬ」


 御者台から執事の男が飛び降り、ミリナの傍へと駆け寄る。


「ギリー!あなたは黙っていなさい!!」


「しかし、お嬢様・・」


「ギリー!!」


「はっ・・失礼しました」


 ミリナは執事のギリーを睨み、彼の言動を支配する。


「ハル・・なぜ、こんなところに?」


「・・・・なんとなく、かな?」


「なんとなく?あの子はどうしたの?」


「置いてきた・・」


「置いてきた?」


「あぁ、何もかも・・全部置いてきたんだ・・」


 孤独な心に支配されている俺は、自分の言葉に自覚し視界が滲み始める。


「ハル、あなた泣いているの?」


「泣いてなんかないさ・・俺は泣いていない・・」


 溢れそうな涙をミリアに見られたくない俺は、彼女から離れるように歩き先へと急ぐ。


「待ちなさい!」


「ぐぅっ」


 ミリアに右腕を掴まれた瞬間に激痛が走り、思わず地面に倒れ込む。


「ゴメンなさい!そんなつもりは・・」


「大丈夫・・わかってるから・・」


 俺は痛みが鎮まったところで立とうとするとミリアが驚いたような声を出す。


「ハルッ!その傷は・・」


 ミリアが近づき、胸元から見えた傷口を凝視している。


「あぁ、この傷か・・沖田と戦った時に受けた傷なんだ・・」


「ちょっと来なさい!」


 ミリアに左手を掴まれ、彼女が乗っていた馬車へと連れ込まれ密室の中で2人きりになる。


「ハル・・脱ぎなさい」


「脱ぐ?ここで?」


「そうよ、傷口を私に見せなさい」


「・・いいよ。もう平気だし」


 ミリアがキッと俺を睨み無言の圧力をかけてくる。


「・・わかったよ。脱ぐから、そんな顔しないでくれ」


 俺は素直に上着を脱ぎ上半身裸になり、右半身の傷が露になってそれをミリアが口に手を抑えて呟く。


「なんて傷なの・・これが本当に勇者様が付けた傷なの?」


「あぁ、聖剣から放たれる攻撃魔法が掠っただけでこの傷なんだ」


「そんなに威力が・・もし、まともに受けたら?」


「間違いなく即死だな・・あの威力なら魔王討伐も可能だと思うよ」


「そう・・」


 何か心配事があるような表情をするミリアは頷き何かを考えているようだ。


「ミリア王女、もう行っていいか?」


「行くってどこに?」


 顔を上げて俺を見つめるミリアは、マリアと違い何か品格のある感じがする。


「どこって・・特に決めてないけど」


「なら一緒に王都へ行かない?」


「・・誘いは嬉しいけど、しばらく1人でいたいんだ」


「そう・・残念ね」


 ミリアは諦めてくれたようで、俺は馬車から降りて離れる。


「じゃ、元気でな」


「あなたもね・・また近いうちに逢いましょう」


「それは無いな・・」


 走り出す馬車を見送り、見えなくなったところで再び歩き出す。


「とりあえず、近くの街を目指すか・・」


 街道を数時間歩いていると、街道脇の大きな石に座る人がいる。


「ソロ冒険者かな・・」


 特に気にすることなく歩き、その人物の脇を通り過ぎようとした瞬間に進路を塞がれる。


「遅いわよ!」


「うわっ・・ってミリア王女様?」


 専用馬車で王都へ帰ったはずのミリアが、俺の前に両手を広げ立っている。


「言ったじゃない!近いうちに逢いましょうって・・」


「言ってたけど、近すぎじゃない?」


「いいの!私が決めたから」


 少し頬を膨らませ、ご立腹な表情をしているミリアは王国の第1王女でも年相応の少女の顔をしている。


「でも、執事とあの馬車はどうしたんだ?」


「ギリーは、私が馬車を降りたことに気付いてないわ・・きっと王城に着くまで気付かないはずよ」


 ミリアの自信に満ち溢れた顔に苦笑いし、俺は歩き始める。


「ちょ・・ちょっと待ちなさいよ!」


 俺に置いていかれるミリアは、慌てて俺の横に並び歩き始める。


「俺と居ていいのか?」


「・・いいんじゃない?あの勇者より、あなたの方がマシだわ・・」


 ミリアは胸の前で腕を組み二の腕をさすり嫌な表情をして告げた。


「おいおい、伝説の召喚勇者様だろ?」


「そう・・だけど、あの性格は最悪だわ・・どんな女性にも手を出して自分のモノにしようとする魂胆が気持ち悪いわ」


「たしか、勇者が魔王を討伐したら王国王女と婚姻の儀をするんだよな?」


「ありえないわ!」


 ミリアは激しく首を振り否定している。


「そんな拒絶しなくても・・勇者が可哀想だろ?」


「嫌なものは嫌よ。そう言ったら、あなたも召喚者なんでしょ?」


「まぁ、正確に言えばそうだな・・俺も過去の勇者召喚で来た異世界人だし」


「なら、私にとっての勇者様は、あなたよ!」


「おいおい、ちょっと待ってく・・」


 真剣な眼差しで俺を見るミリアに圧倒され、言葉を途中でやめる。


「わかってくれたみたいね・・これからよろしく、ハル」


「・・まぁ、よろしくなミリア王女様」


 そのまま2人で街道を歩き近くの街を目指したが、旅の歩きになれていないミリアの歩くペースが上がらず、今夜も野営することになった。


 「ミリア王女様、そっちを頼む!」


 ミリアと2人でテント設営に取り掛かれるが、要領を得ないミリアの手元はぎこちなく、1人で設営した方が短い時間で設営できたがその言葉は胸にしまい取れ消すことにする。


「ミリア王女様、テントで寝てくれな。俺は夜警するから外にいるよ」


「・・・・わかったわ」


 簡単な夕食を食べ終えたミリアは、テントの中へと入っていく。まだ夜が冷えるこの時期に耐えるため毛布を何枚か出し、足元の焚き火の火を絶やさぬように新たな薪を適当に放り投げてから眠りにつく。


「ハル・・ハル」


 肩を揺すられ寝ていた意識が覚醒される。


「ん・・・・ミリア王女様?・・どうした?」


「あのね・・1人じゃ寝れない・・の」


「でも、第1王女様が冒険者の俺と同じテントで寝るのは流石に・・」


「・・いいの。この私が、いいのと言っているんだから来なさい」


 俺の手を握り強引に引っ張るミリアについて行きテントの中へと入る。そこには乱雑に置かれた毛布が数枚置かれていて、隣に立つミリアが俺を黙って見ている。


「しゃーねーな」


 毛布を整理し寝やすいように整えてからミリアを呼ぶ。


「ミリア王女様、ここへどうぞ」


「・・うん。失礼します」


 少し緊張気味な声のミリアが仰向けに寝る俺の横にくる。


「まさか、こんなことになるとはな・・」


 そう呟くと左横にいるミリアが体を横にして俺を見て呟く。


「ねぇ、その言葉・・マリアにも言ったの?」


「マ、マリアに?」


「そうよ」


 視線を一切ずらさないミリアは、俺を見る。


「そうだな・・この言葉を言ったのは、ミリア王女様が初めてだよ」


「・・イジワル」


 そう呟き背中を向けてしまうミリアを見ながら俺は仰向けのまま目を瞑る。


(これから1人ぼっちだと思っていたけど、ミリア第1王女といるなんてな・・」


 そう思っていると、ミリアがゴソゴソ動き始め俺にくっつく。


「やっぱり暖かいな・・・・」


「ミリア王女様?」


「ミリア」


「はい?」


「これからは、ミリアと呼びなさい」


「・・え?でも・・」


「嫌なの?マリアは呼び捨てなんでしょ?」


「なっ・・どうしてそれを」


「やっぱり、そうだったんだ・・悔しいな」


「悔しい?」


「・・なんでもない」


 ギュッと俺に顔を埋めるミリアは、少し離れ口を開く。


「ねぇ・・マリアとは、どこまで言ったの?」


「マリアと?」


「そうよ、正直に答えなさい。私の可愛い妹を連れ去ったんだから」


「そ、それは・・最後までシタよ・・それから魔力融合まで」


「なっ!!そんな先まで?でも、魔力融合って?」


「俺の魔力をマリアの体内に流し込んで彼女の体内で俺の魔力とマリアの魔力を混ぜ合わせて、同調した後に俺の持つスキルを伝授させることさ」


「そんなことができるの?」


 ミリアが信じられないような表情で俺を見る。


「できるよ、互いの信頼関係が深いほどね」


「そう・・なんだ。わかったわ。オヤスミ」


「オヤスミ、ミリア王女様」


「ミリア!もう忘れたの?」


「ゴメン・・オヤスミ、ミリア」


「はい・・よくできました」


 そのまま俺とミリアは、同じテントで一夜を過ごすことになり朝になることを待ち眠りについたのだった・・。









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