7章 王国マリア編 21話 最終地の王都へ・・②
リル達、獣人シスターズが勇者のところへ帰った後に俺達は王都へ向け馬車を走り出す。今日の御者1番手は俺が担当する。
道中は気配探知スキルを発動し周囲の魔物達の動きを把握し、襲いかかりそうな魔物だけをアルシアとマリアが交互に討伐し、たまにシェルが嫌々ながら魔物を瞬殺している。
一方で俺は馬の尻とその先の景色を見ながら時間を潰している。今ではマリアの気配探知スキル能力が向上してきたため、俺の出番は少なくなってきた。
「はぁ〜なんだかなぁ〜」
そう呟きながら昼飯には少し早い時間だったけど、小腹がすいた俺はアイテムボックスの在庫が一気に減った肉串を1本取り出して、つまみ食いをする。
口に運ぶ途中に一瞬抵抗を腕に感じたが、気にせず口元に肉串を運び一口食べる。
モグモグ・・
「やっぱ、うめぇ〜な」
「おいしいね」
「だな。タレがいいのかって・・リル?」
「うん。おいしいね」
「はい?ってクウコ?」
左にリル。右にクウコが座り口の周りにタレがついている。
「いつの間に来たんだよ?」
「「 さっきだよね〜!! 」」
「そ、そうか。それで、あの勇者は?」
「まだあの街にいると思うよ」
クウコが勇者には興味が無いような感情で答える。
「いいのか?ここに来て」
「いいの。もう、アイツと居る理由が無くなったから」
「リルちゃん、それはまだだよ。リサとカラの事があるから」
「むぅ・・そうだった」
背後から新たな声がして振り向くと、荷台に黒髪のミオと茶髪のミリナがいて手を振っている。
「・・4人とも、どうして俺達の居場所がわかるんだよ」
「それは、リルちゃんのおかげかな」
黒髪のミオが告げる。
「リルのおかげ?」
「そうだよハル。このリルの探知能力は、この国の全土も捜索対象範囲内だからね。どこに居てもすぐにわかるんだよ」
「マジか・・」
「うん。マジマジ」
自慢げな顔をするリルの頭を撫でると、ニコッと無垢に笑う顔に幼さを感じケモミミも撫でてやるとコテッと体をを俺に委ねてきた。
「なんなんでしょう・・この2人の自然の流れは。最近出会ったとは思えないぐらいの親近感ではありませんか」
荷台からマリアの声が聞こえたけど、嫌悪感は無いように感じた。
「当然ですよ、王女様。ご主人さまとは長い付き合いです」
「長い付き合い?」
黒髪のミオの言葉に困惑するマリアは、どう返したら良いかわからない感じだった。すると、両隣に居たリルとクウコがスッと荷台に移動しマリア達と何か話し始める。
荷台で時々上がる驚きの声のせいで、何を話しているか気になって御者の務めに集中できない。しばらくしてからマリアが隣りに座りギュッと俺に抱き付きながら顔を見上げ口を開く。
「ハル・・」
「どうしたマリア?」
「あなたって・・もう」
「俺がどうした?」
「本当に独り占めできない存在なのね・・ライバルが多過ぎるわ」
「何言ってんだよマリア」
「だって、あんなに貴方を愛する人がいるとは・・想像を遥かに超えていたんだもの」
「そんなにいたかな?」
濡れた瞳で見つめるマリアの頭を優しく撫でて怪していると、マリアが目を瞑る。しばらく瞑っていた目をゆっくり開けるマリアは、俺の膝の上に座り見つめ合う姿勢になり口を開く。
「ハル、私は絶対に諦めないわよ。1番が良いけど無理強いはしない。あなたの側から離れたくは無いから。だから・・ずっと貴方のそばに居させて」
御者の俺を最低限度妨げないよう配慮したマリアが、正面から抱き付き口付けをして甘い時間を過ごした俺は適度な場所に馬車を止めて昼食にすることを皆に告げた。
王都まで10日程の道のりがあり、期日に間に合わない旅になったためのんびり行くことに方針を変えた俺は、マリアのさらなる戦力化を企み昼食後の昼寝タイムに突入した時間にマリアを呼ぶ。
「どうしたのハル?」
「ふっふっふっふっ・・久しぶりに鍛錬しようか?」
「えっ?」
驚くマリアに考慮せず話を続ける。
「さらなるチート・プリンセス化をゲフンゲフン、さらなる高みへと極めるんだ」
「チートプリっていったい何をする気なの?」
「まぁ、冗談はさておき今日は支援魔法の能力を鍛錬しよう」
「支援魔法?」
「あぁ、マリアは治癒魔法使えるんだっけ?」
「うん。ヒールなら習得してるわ」
「それなら基礎はできているね。上位治癒魔法の習得を目標にしよう」
そう話していると、マリアは俺の膝の上に自然と座り背中を預けてくる。
「それじゃ、はじめよう」
「うん、いいよ」
手を握り呼吸をピッタリ合わせて互いの存在を確かめ合う。
「良い感じだ、マリア」
「んぁ・・だめぇ・・」
俺との魔力を繋ぎ混ぜ合わせ、そのままマリアが持つスローイングナイフを1本抜き取り俺の左腕に切り傷をつける。
「いってぇ・・」
痛いものは痛いため、思わず声を出してしまった。
「ハ、ハルなにをしているの?」
「この方が習得時間が短く済むからさ・・とりあえずヒールをかけてみて」
「うん。すぐ治すからね」
マリアが傷口に手をかざし、薄緑色の淡い光が傷口を包み込む。通常ならこれで傷は治る。
「あれ・・なんで傷口が塞がらないの?・・血も止まらない・・」
「マリア・・はやく・・」
「うん。すぐだから・・すぐ・・」
焦るマリアを横目に見ながら思惑通りに進んでいることに満足する。なぜなら、阻害魔法でマリアの治癒魔法を無効化しているからだ。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
全身が汗ばんで呼吸が乱れるマリアは、一向に治癒されない状況にパニックに陥り始める。
「どど、どうしよう。ヒールは、ちゃんと習得したのに・・なんでよ・・。ハル、死なないで」
「大丈夫だよ。こっからは、前みたいに魔力の流し方教えるからさ」
マリアのかざしている手に右手を添え、俺とマリアの魔力をさらに混ぜ合わせ続ける。
「く、苦しいわ・・」
「頑張れ、マリア」
俺の魔力を受け渡し始めてからずっと治癒魔法を中断させないマリアの精神力は凄いと思う。
「ここから集中していくよ」
「・・うん・・きて」
俺は傷の修復イメージをマリアに言葉で細かく伝えて、傷の治す順序を説明していく。マリアは俺の言葉を信じ自分なりに理解しようと集中している。
そしてマリアの努力は、すぐに結果としてあらわれてくる。
「あっ・・治ってきた!・・あっ・・そんな」
治り始めた切り傷は、途中で修復が止まる。今のレベルは治癒魔法ハイヒールと同等の治癒力だ。
「マリア、まだ完治してないよ」
「どうして完治しないの?変だよこの傷」
不安がるマリアを落ち着かせるため言葉をかける。
「治し方は間違ってないよ。もっと魔力を加えて傷口が残らないイメージを脳内に浮かばせながらやってみて」
「わかった」
この言葉を聞いた後のマリアの集中力は驚くほどだった。ヒールからハイヒールまで要した時間の半分程で、エクストラヒールを安定して使えるほどまで一気に成長したのだ。
「はぁ、はぁ・・魔力欠乏症になりそうだわ」
「マリアはなったことあるの?
「さすがにないわ。そこまで魔力を使い切る場面なんてなかったから。今も、こんなに消費したことなんて1度も無いもん」
「そうか、欠乏症は未経験なんだ・・なら感じてみる?」
「えっ?もう傷は治ってるわよ」
「・・・・」
俺は、マリアの両手を握り彼女の残存魔力量を感じとる。
「うん。ちょうど1回分の魔力が余っているね」
「1回分?どういうことなの?」
不安がるマリアの表情を見て、ただ俺を信じてと告げるとマリアは頷いてくれた。
「気配探知スキルを目に見える範囲に絞って発動してみて」
「わかったわ・・アルシアとシェル・・あとは、あの獣人の子達を捉えたよ」
「早いね、上出来だ。そのまま全員の位置を把握したまま各人の状態を確認できるかな?」
「状態を?・・」
「そうだね、寝てるとか起きているとか疲れているとかだよ。1人1人を順々に観察するとわかりやすいと思うよ」
「・・やってみるね」
目を閉じたマリアが、自分に問いかけるよう小さく呟き周囲のみんなの状態を探っている。
「そういうことね・・なんとなくだけど、わかったわ」
「よし、準備万端だね。それじゃ、今から教える魔法を詠唱してね」
マリアの耳元でゆっくり告げる。
「え?私は、ヒールしか習得してないのよ」
マリアは振り向き俺を見つめている。
「大丈夫だよ。この治癒魔法を発動できるレベルに引き上げているから」
「・・もう、また私をチート?化させたのね?」
マリアの両頬が僅かに膨らんでいるように見える。可愛い子だ。
「まぁね。マリアが大事だからさ」
「大事なら、ハルが私を守ってくれたらいいじゃない」
微笑んでいるマリアが訴えてくる。
「もちろん守るさ。もしもの時に必要だからね」
前を向くマリアは返事をする様子がなかったため、続けることにする。
「マリア、始める前に1つ。魔力欠乏症の初期症状は?」
「頭痛、目眩と全身の倦怠感の自覚症状」
「重症化すると?」
「自覚症状無く意識を失い死ぬ・・だったかな」
「正解だよ。今回は俺がマリアの魔力量を監視しているし、1回しか行使しないから初期症状だけで済むから」
「大丈夫。信じてるから」
「ありがとう」
「それじゃ、やってみるね」
「あぁ」
マリアが右手を高く上げて詠唱した。
「治癒魔法エリアヒール!」
マリアが指定した対象者のみが薄緑色の淡い光に包まれているのが視界に入り、十数秒維持された後に消えていく。
「痛い・・この痛みが欠乏症の痛みなのね」
「そうだよ・・その痛みを絶対に忘れないでね」
「・・うん」
欠乏症の初期症状の痛みを覚えたマリアに魔力回復ポーションを渡し飲ませると、痛みが緩和されて言ったようだ。
「そろそろ昼寝タイムを終わりにして出発するかな?マリア・・みんなを起こして準備させてくれ」
「わかったわ」
俺から立ち上がるマリアは、野外イスや荷台で寝ているみんなをお越しに回っている。その姿を見ながら俺は彼女にバレないよう魔力回復ポーション3本を一気に飲みほして難を逃れることができた。
「今回はヤバかったな・・もう少しで意識が飛ぶとこだった・・」
そう呟き、いまだに立ち上がることができない俺は、みんなが起きるのを笑顔で座って待つことにする。
マリアとアルシアがテキパキと片付けを済ませ、俺が収納しやすいようにと1ヶ所に集積してくれている。
(参ったなぁ〜そろそろ片付けが終わるけど、まだ立ち上がれないんだよな〜)
そう思っていると片付けが終わってしまい馬車を動かす準備も終わってしまった。マリアが遠くで未だに俺が野外イスに座って眺めていることに不思議そうな表情で真っ直ぐ近づいてくる。
「・・ハル?もう片付け終わったからいけるわよ」
「あぁ、そうだね」
「・・・・」
「・・・・」
俺とマリアとの空間に気まずい空気が漂う。
「どうしたの?」
「なんか、今日は座っていたい気分なんだよね」
「珍しいわね・・じゃないでしょ!」
マリアが手を差し出し、握れと笑顔で無言の催促をしている。
「いやぁ、でも・・」
「いいから、はやく!」
「・・はい」
マリアの高貴的なオーラに屈した俺は、マリアの手を掴んだ瞬間にグイッと引っ張られてしまう。
「うわぁっと」
少し強引に立たされた俺は、力が入らない両足に気合を入れて数歩だけ歩いたところで欠乏症の影響でフラつき力無く地面い体が吸い寄せられ倒れていく途中で受け止められ地面とのキスから逃れられた。
「もう、ハルが無理しているの知ってたんだからね」
「・・いつから?」
「私がハルから離れるときよ・・貴方の瞳を見ればなんでも分かるようになったの」
「そっか・・マリアには隠し事はできないね」
「ふふっ・・覚悟してなさい」
マリアに支えられながら馬車の方へ移動していると、俺の異変に気付いた黒髪のミオと茶髪のミリナが慌ててやってくる。
「「 ご主人さま!! 」」
ミオとミリナの手伝いにより集積された荷物をアイテムボックスに収納し、俺は荷台に乗りことができた。
「ミオ、ミリナありがとうな」
「ご主人さまを支えるのが務めですから・・それとリルちゃん、まだ一緒には行けませんよ」
「ヤダ・・もうアイツらの所に戻りたくない。ここが私たち本来の居場所なの」
「それは、ミオとミリナも同じよ」
「ならば答えは決まっている」
「それでも、勇者様との契約が残っているの。だから王都へ戻るまで耐えて」
「リル達・・勇者達も王都へ行くのか?」
「はいご主人さま。今回の都市ニシバルへの魔物襲撃は、王族専属の予言者のお告げにより判明し対処するため勇者様が急遽派遣されたのです」
「そうか・・なら、魔王について何か情報は?」
「魔王・・ですか?魔王について詳しい情報は聞いてないです」
「そうか、ありがとう」
黒髪のミオは一礼して、嫌がるリルとクウコを連れて俺たちの前から姿を消した。
「行ってしまいましたね・・」
隣にいるマリアが呟く。
「あぁ、本当に飯だけ食って帰っちまったな・・さぁ、俺達も出発しよう」
俺が荷台に寝転んだまま馬車が出発する。なんとも情けないことだろうと思いながらも馬車はいつも通り進んで行ったのだった。




