第十三話 独占する想い
「次はドレスだな。何色がいい?」
「ん~…いっぱいあって決められないなぁ…」
華子が悩んでる様子だったので、京介は徐に口を開いた。
「じゃあ俺が見立てる。」
京介はスタスタと何の迷いもなく、ドレスが売っている店に入っていった。
「華は緑が一番似合う。でも大抵似合うから…」
カラーコーディネートの勉強もしていた京介にとって、これくらいは容易いことだ。
何着か色もタイプも違うドレスを眺めながら、独り言のように呟く。
「もう二十歳間近なんだから大人目にしとくか…。化粧も変えよう。」
「え?」
「一回化粧落として俺がやる。ちょっとこっち来て。」
突然腕を引かれ、行先も告げられずただ必死に華子は足を動かした。やっとの思いで口を開くころには、店から大分遠ざかってしまっていた。
「な、なに?そんなことも勉強してるの?」
「華がどのメイクが似合うのか、どんな服が似合うのか、そういうことは執事が一番理解しておくのは当然だ。」
毅然とした態度でそれだけ告げると、それ以降京介は口を開かなかった。前を歩いているので顔の見えない彼を軽く見つめた後、華子は唇を尖らせて俯いた。
私の事ばっかり知ってる。
それなのに私は、京介の事何も知らない。
「ここで良いか。」
ピタリと京介が止まり、華子は思わずつんのめりそうになるがギリギリのところでそれだけは回避する。たどり着いたその場所はあまり人気のない場所にある、男女共用トイレだった。その中に入り、鏡の前に華子を立たせる。
「華、メイク道具持ってきてる?」
「持ってきてるけど…、そんな多くないよ?」
「こんだけあれば十分。」
差し出された化粧ポーチをちらりと眺めただけで、京介はスイッチが切り替わったかのように黙りこくり、何の迷いもなく道具を扱い始めた。その後三十分間は一言もしゃべらなかった。
「…できた…」
安堵とも達成感ともとれる溜息をついた京介はトントンと華子の肩を指先でたたく。完成した時の楽しみのために、目を閉じさせていたのだ。
目を開くと、華子の顔には名前の通り華が咲いた。
「すごい…」
「ん。綺麗」
いつもの若いさわやかなメイクではない、少し色っぽさを出した化粧。普段自分では絶対にしない、というかできない仕方だ。
率直に、褒められたことにもテンションが上がる。頬の赤みはチークだけではないはずだ。
「綺麗…?」
「無い色気出すのは大変だけどな。」
「うるっさい」
相変わらず皮肉を飛ばしてくるので頬を抓ってやる。
「痛い」
「…ねぇ京介」
「ん?」
「…その…」
「うん。ってかさ……もしかして緊張してる?」
顔を覗き込まれなぜだかいつもとは違う変な感覚に包まれ、体がこわばる。
「え!?何が、」
「今…俺らしかいないけど。」
「っ……早くいくよ!」
壁に追い詰められ、京介の方に手をかけて押す。それなのに力が入らない。膝も手も、自分のものではないくらいに言うことをきかなかった。
「…変な気分になる……早くどいて…」
「………お前さ。」
ついに両手が壁に押し付けられ、完璧に動きを封じられる。
もう抗えない。
何も知らない彼の中身が見えない目を、華子は見つめ返すことすらできなかった。そっぽを向き、俯く。
「それ、煽るだけだってわかってないだろ。顔真っ赤にして目潤ませて…。俺、男なんだけど。」
「…っだからなに、って…!顔近いっ…嫌っ………」
「それは逆の意味だって捉えていいんだよな?」
「駄目、んっ…んん……」
突然唇を塞がれる。
濡れる唇。
垂れる唾液。
「んぁっ…やっ、んっ……」
「華…舌、出して…」
今にも唇が触れそうな距離でそう呟かれる。京介は少しだけ舌を出して、誘うようにどんどん顔を近づける。
「…華が出すまでしないから」
それは止まらない愛というより
『独占欲の塊』




