第十一話 幸せな想い
ようやく目的地に着き、車から降りると華子は早速背伸びをした。
「うわぁ、変わってないなぁ~っ」
「行きましょうか。」
「待って待って待って。」
「はい?」
「御畑くん。」
と言いつつ、華子は右目にかけられているモノクルを指差す。今の格好に似合わない。
そして、約束した。
「かしこまりました。」
カチャリとモノクルが外され、京介は車の中にあるケースにしまった。そのまま扉を閉める。
「…行くか。」
「うんっ…!」
初デートだ。
「いろんなお店見て良い?」
「いいけど、あんまり買い込みすぎるとお父さんに叱られるぞ。」
平日にも関わらず、ショッピングモールはそれなりの賑わいを見せていた。不意に手が取られ、何かに包み込まれる。
「…なに?」
「お母さんとこうしてたんだよな。」
「そう、だけど…」
「嫌なら離すけど。」
「嫌じゃないっ」
「じゃあ何も問題ないだろ?」
遠くまで来た特権だ。人前で手を繋いでも良いなんて、華子にとっては嬉しくて仕方がなかった。
「あ、可愛い雑貨屋さん…見て良い?」
「良いよ。あ、華。これ華みたい。」
「どれ?…いや全然似てないっ。」
京介はマグカップに書いてあったイラストを指差してクスクス笑う。頭からお花を生やした女の子がポカーンとしている絵だ。
まったくもって失礼である。
「こんな能天気な顔してないでしょっ。」
「怒るポイントそこじゃねぇよ。」
「え?」
「頭からお花生えてるって相当馬鹿にしてると思うけど。」
「あっ、そうじゃん、何っ、私こんなお花生えてないよ!」
「…馬鹿には何もいう事がない。」
「???」
全く分からなくなってしまったので、一年に一度も使わないほどの頭の回転フルスピードを起動させ、ようやく分かった。ちなみにその後、大いに馬鹿にされた。
「あ、このブックスタンド可愛い。」
「本なんて読まないだろ。」
「うるさいなぁ、読むよ私だって。シェイクスピアとか。」
「今絶対知ってる作家の名前挙げただけだろ。」
「…そんなことない。」
「嘘つき。」
「っ」
核心を突かれて俯いていると、その顔を京介がのぞき込んでくる。距離が近く、思わず胸が高鳴ってしまう。
「なぁに顔赤くしてんだよ。」
「してないっ…」
「言っとくけど、ここでキスは駄目だからな?」
「わ、分かって、んっ…」
え?
「でも俺の気分によっては分からない。」
キスされた。
普通に。ちゅっと。
華子は慌てて辺りを見回すが、幸い店員も客もいなかった。まぁそんなミスをするほど京介も馬鹿ではないと思うので、今は火照りを抑えることだけに専念した。
「…どうしたの、急に…」
「…今、すげぇキスしたくなった。」
「きょ、今日はなんなの、そんなにいろいろ言うなんて、」
「恋人っぽくさせろよ、こういうところでくらい。」
恋人
家では出来ない、手を繋いだり、こんなにドキドキするキスをしたり。
「…彼氏になりたいんだよ。俺だって。」
そんなこと言わなくても
充分彼氏だよ。
そんな事を感じた華子とは裏腹に、京介は内心どうにもできない何かを感じていた。
どんなに愛し合おうと、好きでいようと
執事と主であることに変わりはない。
それがどうしようもなく虚しく、切なかった。
「京介?どうしたの?」
「え?何が。」
「ボーッとしてる。」
「華はアホな顔してる。あ、いつもか。」
殴られたことは言うまでもない。
そのうち十二時を回り、お腹も空いて来たので二人はフードコートに入ることにした。
「何食べる?」
「華は何が食べたいんだ?」
「京介が食べたいもの。」
「……じゃあ、たこ焼き。」
「大阪出身だっけ?」
「あのなぁ、食べたいものがたこ焼きってだけで大阪府民だと思うなよ?」
「大阪府民…?」
嘘だろ。
「大阪県じゃないの?」
「アホ。」
「いったぁ…なによ。」
あまりの馬鹿さに呆れかえる。京介は一発デコピンをかまし、そそくさと華子の手を引いて列に並んだ。かなりの行列だ。
「華。先に座って待ってて。」
「え?やだ。」
「は?」
「一緒に並ぶ。」
「…………」
可愛いから許したいけど
「この人だと、席座るのも難しいだろ?先に席取っておいて、俺が持って行ってっての方が効率良い。」
「効率とかどうでも良い。…手離したくないもん。」
本当に
「…本当馬鹿だな。」
さらりと可愛いことを言う。
言葉遣い以上に実は華子にゾッコンな、そんな京介くんとの休日は、まだ始まったばかり。




