9話 とりあえず一件落着ですね
無事に事が済んだのを見届けてから、服を正した瑞兎が慌てて倒れている少女を抱き上げて旦那たちの元へ戻った。
「千代、お前いつ戻ってきていたんだ! 田舎に戻っていたはずなのに……。それにさっきのは何なんですか、あんなものがうちにいたなんてとても……」
丁稚たちに少女を渡し、庭で大はしゃぎしている陽之衛を横目に見ながら瑞兎が肩を落とす。
「あれは葦と呼ばれる、なんといえばいいか、神の依り代です。それが悪い行いをするとあのように真っ黒になり〝枯れ葦〟となるんです」
「あ、葦? 枯れ? 神?」
困惑して当然だ。ほとんどの葦たちは自分がそうだとも気付かぬまま人間に紛れて暮らしている。
けれどなにかをきっかけに性質が善から悪に反転してしまうのだという。
そうすると今回のように、人に執着したり、暴力をふるったり、厄介な事件を起こす。
成し遂げたいことが強く表れてしまった結果だと、瑞兎は教えられていた。
「ですから剪定を行うのです。悪いものを刈り取れば状態は良くなりますから。お千代さんも時期に目を覚まします。枯れていたことは覚えていないと思うので、お咎めにならないようお願いします」
「え、えぇ。わかりました……」
「さて、それではあのキサガイヒメの葦が現れた原因ですね。とあることを伝え忘れていたようです。旦那様」
「は、はい」
「おめでとうございます、奥様がご懐妊です」
千代という手伝いの娘は出かける前にその兆候を気づいていたのにもかかわらず、うっかりしていたのだ。
すぐに戻れるほど家が近いわけでもなかったからなんとか伝えるべきだと手紙を書いたりしたのだが、やはり帰ってから直接言う方が良いと判断した。
そこまではよかった。
けれど思い悩みすぎて暴走してしまった。
結局枯れ葦となり、元々キサガイヒメも祀られていたことのある社が使われたこの家に帰ってきて奥方にささやき続けた。
そうしているうちに寝込ませて大ごとになった、というのが顛末だ。
「では、あなたもそうなので……?」
「え? ──はい。私も葦です。枯れ葦を対処するよう、神から遣わされております」
旦那は妊娠を聞いた以上に驚愕し、ひっくり返って言葉を失った。
でしょうねと苦笑しつつまじないを書いた札を旦那に渡す。
これを全員に配り、家のあちこちに張っておけば記憶はあいまいになる。
ここまで自分たちのことを話したのもどうせ忘れさせられるからだ。
記憶を消すのは神との大事な約束だった。
はしゃぎつかれたのか、陽之衛が戻ってきて瑞兎に思いっきり寄りかかってくる。
どうやらもう眠いのかごにゃごにゃ鳴き始めた。
「彼も葦なのですか。刀でバッサリ切っていてすさまじかったのですが」
「いえいえ、陽之衛様は貴方がたと同じく人間でいらっしゃいます」
「その。えぇ?」
「私にもよくわからないと言いますか。とにかくもう夜も遅いですし、奥様もすぐに体調が回復されますよ。その札は魔除けも兼ねていますから、念のため皆さんに渡しておいてください。それと今日のことはご内密に」
頷いたのを確認してからほっと安堵する。
懐に札を仕舞ったのをしっかり確認した。
「神様と関わりを持つとろくなことがありませんから。なるべく忘れてしまった方がいいのです」




