37話 なんでこんなことに…
そうして長く感じた道のりが終わり、やっと神社の前へとたどり着くが、まず目に飛び込んできたのは、陽之衛が真横に吹っ飛んでいく最中だった。
「陽之衛──!?」
叫んだのは将志郎だ。
ドン、と社殿の壁にぶつかった陽之衛は頭から血を流して痛みにもだえ苦しんでいる。
悲鳴に近い声をあげて瑞兎が駆け寄り、抱きかかえて血が付いた主の髪を掻きわけると深い傷ができていた。
血が止まる気配はない。
動転しながらも布を当てて社の方へ下がる。
将志郎も手伝い、ようやく周囲に気をやれるようになった二人の眼前には凄惨たる光景が広がっていた。
来たときは静かすぎるほどだった参道の石畳は叩き壊され、鳥居も半分が瓦解している。
むき出しになった木の破片が痛々しい。
狛犬たちも粉々に砕け散り、そして周りには血のような赤いもので濡れていた。
真ん中。それらの間に黒い塊がたたずんでいる。
よく目を凝らしてみると人の形をしており、地面から生えた黒い触手のようなものがまとわりついているのがわかった。
足下は塊に覆われておらず、着物の少女が飲み込まれていた。
ぶつぶつと言葉を吐き捨てながら茫然と立ち尽くしている。
塊が一度膨らむと、少女の体の形にピッタリとくっついた。
あのときの夢子と似た姿に瑞兎が陽之衛を抱きしめる力を強くした。
「なんだあの化け物は……」
「八重、あれは八重です、将志郎さんは早く逃げてください!」
「い、いや二人を残して逃げるだなんてできるわけないだろう!」
説明ができないのがもどかしい。
将志郎は守れと言われた約束のために木刀を構えているが、戸惑いからか剣先は震えていた。
本当なら気絶してもおかしくないだろうに、元来の気丈さがなんとか精神状態を踏みとどませている。
それに逃げろと言われてもどこに行けばいいというのだ。
水気を含んだ泥が彼女の頭上から滴り始めた。
ぽたぽたと垂れて地面が汚れていく。
黒ずんでいく八重がゆっくりと一歩を踏み出し、苦しみながら自分の胸を抱きしめた。
それが合図だったのか鞭が振るわれたのと似た動きで触手がしなり、地面を叩くと石がさらに深く割れた。
どうやら陽之衛はあれにぶつかって吹き飛んだらしい。
ビュン、と風を切る音が聞こえた瞬間には触手が三人の目のまえに振り下ろされた。
しかし将志郎が瞬時に木刀で薙ぎ払う。
続けてきた二撃めも叩き落とし、「拝殿の中へ!」と陽之衛をかついで扉を蹴飛ばして開けた。
そのまま滑り込み、扉を閉めると木刀を使って固定した。
なおも触手が襲撃しているのか、鈍い音とともに社殿が揺れる。
なんとかしのげているが、崩れるのも時間の問題だろう。
「若、陽之衛様、そんな、うそ、嘘だ」
拭っていた血は止まったが、陽之衛はまだ続く痛みに苦悶しながら身もだえている。
呼吸も荒い。心拍数も早く不安定になっていく。
瑞兎は手を強く握って呼びかけるが、反応することはなく唸り声が室内に響くだけだ。
将志郎もやっと傷の具合を見るが、えぐられた皮膚に勝色の目を震わせた。
「し、死ぬな、陽之衛、起きろ」
揺さぶり始めたので瑞兎が止めた。
子どもを包み込むように陽之衛を抱きしめて、泣きそうに顔をひしゃげながら瑞兎は「お願い」と繰り返し始める。
「まだ出ていてはいけません! お願い、陽之衛様を人間のままでいさせて……!」
「瑞兎──……」
普段冷静に物事をこなす瑞兎が動揺している姿に、将志郎が落ち着きを取り戻した。
大きな手で瑞兎は肩を掴まれ、名前を呼んできた声にハ、と瑞兎が顔を上げて深呼吸をした。
「さっきのあれは、なんなんだ。一体何がどうなってる。答えられるか?」
「う、」と言葉が詰まった。
しかしあれはどう考えても枯れかけている葦に間違いなく、瑞兎は観念して「枯れ葦です」と答えた。
「葦は神の使い、人間ではありません。私と八重は葦です。本来なら悪事を働いたことで枯れるはずが、彼女は、」




