34話 一触即発
うつむいていた四人は同時に顔をあげた。
全員が聞こえたということは幻聴ではない。
しかしさっき見回りしていたときは誰もいなかったのは確認した。
発せずともその疑問が行き交い、最終的に陽之衛へと視線が集まった。
「俺の勘はよく当たるんだ。ほら、なにか起こっただろ」
「八重さん、人払いはしているんですよね」
瑞兎からの問いに八重はためらいつつうなずく。
「したよ。皆に帰ってもらってる。それに聞こえた声だと年頃は十歳よりも下かな、この村にはそんな多くはいない。親たちからここに来るのは禁止されてるし、絶対にいないはず……」
だとするならば、と瑞兎が神妙な面持ちでうなじの下を撫でた。
埋め込んでいる刀はまだ何も反応を示しておらず、静かなままだ。
嫌な緊張感だけが神経を張り詰めさせた。
「あやかし、もしくは物の怪の類でしょうか。これまでもキツネが化かしていたとしたら、」
「だったらいなくなった人たちは森でキツネと遊んでいるとでも?」
遮ってきた陽之衛の反論に押し黙った。
異様な雰囲気は夏が間近にもかかわらず辺りに冷気を吹かせ、ぶる、と体が震えた。
将志郎も唾を飲み、木刀を握りしめていた。八重が不安そうに瑞兎へ引っ付く。
焦りを含んだ汗が陽之衛の額に大量に浮かばせている。
もう一度この神社の力を調べるよう指示を飛ばされ、瑞兎も慌てて鳥居や社を支える柱に手を当てたが、その触り心地は来た当初とは全く異なっていた。
伝わってきたのは溢れる力だった。
長い冬で乾いた地面に、梅雨がもたらした恵みが注がれ力が増しているのに似ている。
「分霊はいないのに、こんなの変です!」
「チッ、思ってたよりも動き出すのが早かったか。──残念だけど、ここはもう俺たちが住んでいたところじゃなくなってる」
陽之衛は辺りを見回してから肩をすくめた。
見せてやると言わんばかりに鳥居の外に向かって歩き出すが、足を外に出した瞬間、元の位置に戻ってきていた。
全員が言葉を失う。
指を鳴らした陽之衛が口角をゆるく上げた。
「諸君、面白くなってきたね。さて、それじゃ神隠しの犯人を捜そうか」
騒然とする一同の前で、陽之衛は手をこすり合わせた。
やる気がなさそうだった先ほどとは打って変わり物憂げな表情で考え事をしている。
「面白くなった」と言ったわりには乗り気には見えなかった。
瑞兎も八重と一緒に鳥居の方へ行き、手を外に出す。
波紋が立ったあとに手の先は消えてしまった。
慌てて引き抜いてみたが、無事に先がついていて安堵した。
感触から明らかにまじないだと判断できるか、解を試みるもビクともせず無駄だった。
「さすがに冗談、ではなさそうだな……、オカルトって本当にあったんだ……」
将志郎が脂汗をかきながらこぼす。
一連の行動をゆっくりと咀嚼することにしたようだ。
きっとオカルト調査と聞いていたから、ある程度の覚悟や予測はしていたのだろう。
それにしても、陽之衛と瑞兎があまりにも冷静にしている方が気になると言いたげだ。
「まさかいつもこんな感じなのか?」
「半々ってとこ。将志郎、なにか急に思い出した記憶とかある?」
「いや、とくにはないが、俺がなんかしちまったの?」
陽之衛はかぶりを振って、親友の肩を軽く叩く。
取り乱さなかったのをほめているつもりだったが、将志郎の目にあった疑いと困惑の色が強くなっただけで気づいてもらえなかった。
それから喧嘩していたのが嘘のように瑞兎と頭をくっつけて、またこそこそと相談を始める。
「あやかしの線は」と陽之衛に問われ、瑞兎は気配を探ってみる。
シンと静まり返っているのになにも感じ取れず、身を縮こませた。
何もないのがおかしいと陽之衛が指摘していたのをいまさらその通りだったと痛感する。
「最初から気づいていたから将志郎さんを帰さないって言い張ったんですか。そもそも異界に来ているから引き戻せなかったと」
「いや、もし葦じゃなかったら将志郎に戦ってもらおうと思ってただけ」
絶句しかけたのをこらえ、瑞兎は深呼吸をしてから胸もとを撫でた。
考えてみれば自分たちは葦だけを切る刀以外対抗手段を持っていなかった。
いままでよく無事に済んでいたなと改めて感心する。
今後は将志郎のように木力くらいは持っていた方がいいかもしれない。
「若でも予想外とは、とんだやり手がいたものですね」
「それに関しては面白くない。だからとっとと解決して団子でも食べに行こう」
うなずくと、陽之衛が咳払いをして呆然としている者たちへ振り返って手を叩いた。




