32話 花いちもんめ
翌日、迎えに来た八重と一緒に三人はさっそく村へと向かった。
道中で陽之衛が葦や神のことについてバラすかもと瑞兎は気が気ではなかったが、意外にも陽之衛は当たり障りのない内容だけを話していた。
むしろ研究者のようにお互いに盛り上がっていて瑞兎も驚いて聴き入っていたほどだ。
まさか将志郎がそこまで詳しく調べているとは想像もしてなかったし、八重も同じ感想なのか「若様の親友は変わった人間ですね」と耳打ちしてきた。
向こうにも聞こえたようで前を歩いていた青年たちが振り向く。
「もともと武士の家柄だから、神道とは身近だったんだよ。そういえばよく知らないなと思って調べ始めたらこれが面白くて! とくに好きなのは須佐之男が八岐大蛇を退治した話だ」
「へぇ、さすが見る目があるじゃん。やっぱり刀とか好きだもんね」
「十束剣とか見てみたいよな。草薙剣は実際にあるんだっけか」
「そうだよ。今も近くにあるかもね」
すかさず瑞兎が二人の間に入ってぎこちない笑顔を作った。
これ以上は勘が鋭い将志郎がなにかしら察してしまいかねないし、陽之衛も面白がって煽り始めている。
どちらにせよそろそろ目的地も近いおかげで研究発表会は中断してくれた。
村までは最寄りの駅からだいぶ歩いてきたので、少々体が熱い。
まずは八重が世話になっている農家で茶を飲んでから、千代から聞いた話の詳細をまとめる。
「うちのせがれが消えたんですよ。ほら、お兄さんたちに教えてあげなさい」
父親が呆れたように言うと、隣にいた少年が申し訳なさそうにうなずいた。
「あのね、ずっと神社にいたんだよ。本当だよ。帰る時間になったからみんなのとこに行こうと思ったんだ。でもすごく眠くなっちゃって、そしたら、なんか変なところにいた気がするの」
「変なところ?」
「なにかがいたんだけど、白くてわかんなかった! それでみんなの声で起きたら夜になってたよ」
陽之衛と瑞兎が顔を見合わせた。
少年はいたって真面目に答えているのは見ただけでもわかる。
からかうような素振りや声色はしていない。
父親たちも困惑したまま息子の頭を撫でながら「その」と声を潜めた。
「私たちもこの子が言ってることは嘘じゃないと思っています。子どもの行ける範囲は限られているでしょう? 隅々まで探したんですから。そんなに大きな神社ではありません。それに、うちの子はすぐ見つかりましたが──」
「ほかの子は二日ほど消えていたんですよね」
「えぇ」と父親がうなずいた。
「そのときにせがれは神隠しにあっていたんだ、と信じられたんです。だからすぐに神社に近づいてはいけないと子どもたちと約束をしました。幸いみんな大人しくしてくれましたので、ほかの子は無事です」
「そしたら今度は人が来るようになってしまったと」
「いったいだれが外に漏らしたんだか! 噂を立てられてこっちも迷惑してるんですよ。勝手に来て巻き込まれたうえに、呪われた村だなんて罵倒してきて!」
たしかに父親の言う通り、たった数日間、それもたった二件だけ起こった子どもの神隠しをなぜ部外者が知っていたのか。
そして彼らはどうして帰ってきていないのかは大きな謎だ。
八重の方をチラ、と見た。
外に漏れたとするなら彼女が姉に話したときが一番有力だろう。
疑われたことに気づいたらしく八重が眉間にしわを作る。
いまさらそれを考えても仕方ないと瑞兎は愛想笑いをして流し、まずは神隠しの実態を調べるのが先だと決めた。
「あげくに取材に来たっていう外国人も消えちまって外交問題だとかなんだ……。おかげで村のものはすっかりおびえています」
ため息を吐いた父親に、陽之衛がピクッと眉を跳ねさせる。
外国人ね、とだれにも聞こえないほどの声量で呟いてから顎を擦った。
その様子にまた彼が変なことを考えていると瑞兎は察して裾を引っ張った。
やはり考えに耽っていたようで、誤魔化すように笑ってから「よし」と陽之衛は膝を叩いて立ち上がる。
瑞兎も肩をすくめてから手帳をしまった。
しかし男の子の父親は陽之衛に対して不安そうな態度で「大丈夫ですか」と問うてきた。
学生服を着た童顔の青年、しかも『オカルト調査』ときた。
面白がって厄介ごとを起こす若者たちへの恨みも乗っているのか、簡単に信用はするつもりはないらしい。
八重が連れてきたからわざわざ話してくれただけだろう。
後ろで静かに話を聞いていた将志郎の方がよっぽど頼りになりそうだと言いたげだった。
だが陽之衛は涼しい顔で少年の肩を叩くと笑いかけ、茶を飲み切る。
「まずは現場を見てますか。八重、案内してくれ」
「はい、若様。仰せの通りに」
敬った言い方に父親たちが「えっ」と目を丸くする。
瑞兎は少しだけ得意げになった。
自分の主人はただの若者ではないのだ。




