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31話 イケメンには勝てません

「神社の調査依頼ということでよろしいですね。妹さんから頼まれたんですか?」


「鋭い。妹は八重といいます。神社は村の人たちがだれも寄せ付けないように見張ってるので八重と一緒に行ってください。明日迎えに来させます」


 契約は成立だ。


 サカキを受け取り、花瓶に挿す。


 あとは簡単な事務手続きと、調査に必要なものを洗い出しをしたいのだが、ふとその場にいたもう一人が思い出したように手を挙げた。


 その手を見て三人が固まる。すっかり彼の存在を忘れていたとはひどい話だ。


「あの」と困惑したまま将志郎が困り顔でこちらを見つめてきた。


 生温い風が窓から入ってきて、四人の隙間に吹き抜けていく。


 先ほどうまく誤魔化した手柄を立てた瑞兎の背中に冷汗と脂汗が噴き出した。


 今度も同じように誤魔化すのは厳しい状況だ。


「別の場所に行く隙を見失っていて。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、一つ質問しても?」


「な、なんでしょう」


「さっきから気になるんだけど、神様と親しげすぎないか?」


 ぎょっと驚いたあと、数秒してから瑞兎が叫んだせいで陽之衛がまたソファから落ちた。


「そんな驚くようなこと言ったかな……」とさすがに将志郎も引いている。


 けれどその反応にまだ正体を隠すのに十分間に合うと気づき、慌てて大袈裟にうなずいた。


 ぎこちなく笑顔をつくり動揺を胸にしまい込む。


「私たち、その、こ、古事記の読解をよくやっているものですから……?」


 苦々しい味が口の中に広がったのを我慢して話題をズラしてみた。


 将志郎が一瞬さらなる困惑を見せたが、瑞兎が応えてくれたのがうれしかったのか鞄の中から本を一冊取り出す。


「そうなのか! 実は俺もかまいたち事件の後からなぜか妙に興味がわいてきて、いろいろ調べてる最中なんだよ。さすがオカルト事務所」


 え、と舌を噛みそうになった。


 興味が湧いてきたって、もしかしてまじないを間違えていたのだろうかと瑞兎はバタバタと服を叩いて札を探し、作ったものを確認する。


 間違ってはいない。


 もしくは彼に使ったものが不完全だったのか。


 思い出してみるが、やはりおかしなところはなかったはずだ。


 いやいや気にしすぎるのはダメだと小さくため息を吐く。


 瑞兎はあの事件から将志郎に対して敏感になりすぎるところがあった。


 そのことを陽之衛にも指摘されたばかりだったから、余計に考えすぎてしまっているのかもしれない。


 また怒られるのは勘弁願いたいので依頼に戻ろうと口を開く。


 しかし割り込んできた陽之衛に邪魔をされた。


「将志郎、なにか気になることがあるんだろ? そうじゃなきゃ、歴史が嫌いなお前が調べるはずないもんな」


 驚いてしゃっくりをした瑞兎に陽之衛はほくそ笑んだ。


 瑞兎は眉間にしわを寄せる。


 まるで将志郎にどんなことが起こっているのかわかっているから訊いてようとしているのでは。


 ふと記憶が奥底から蘇る。


(そういえばあのとき札を渡してきたのは若だったな。ま、まさか細工をしたんじゃ?)


 冷汗が頬に垂れた。だとしたらとんだお遊びにもほどがある。


 記憶を消すのに失敗した、それどころか蘇ってしまったらと思うとゾゾゾと体の血の気が引いた。


 神様にバレてお仕置されたらどうしようと焦燥感に駆られる。


 けれどその疑いを陽之衛に問うのも怖い。


 もし違っていたら彼からも折檻を食らう可能性があるからだ。


 この前もお皿を割って尻を叩かれたばかりで、うっかり痛みを思い出した。


 証拠が提示できない以上は問い詰めることは難しい。


 さて、陽之衛の親友は言葉を言いよどんでいる。


 逡巡のあと、「どう?」と畳み掛けた陽之衛が放つ光にあてられたみたいに、好奇心をうずかせた声で「そうだ」とうなずいた。


「だったら俺たちと一緒に調べに行こうよ。こんな退屈な場所で議論するより、道すがらにいっぱい話した方が楽しいじゃん。腕に覚えがあるんだから用心棒にでもなってくれ」


「お前がそう言うなら俺は構わんが」とちらっと視線が瑞兎へ向けられた。


 まるで子犬がおやつをもとめてさびしがっているような雰囲気に、瑞兎は彼の頭に垂れさがった耳、それから尻尾も見えた気がした。


 ダメだと言いたいが、こちらも主人がそうしろと命令しているのなら従わなければいけない。肩をすくませる。


「無理は承知だが、二人の役にも立ちたいんだ。だめかな」


 切ないお願いを至近距離で受けた瑞兎の膝の力が抜けた。


 美丈夫が間近で囁いてくるのはいつだって反則だ。

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