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28話 疑問は残るけど

 数日後、無事に将志郎は釈放されたと連絡が入った。


「時間がかかりすぎ!」と陽之衛は憤っていたが、どうやら夢子が目を覚まして証言を聞くまで警察が待たせてしまったらしい。


 ようやく夢子が自ら事件のあらましを語ったおかげですべての疑いが晴れたそうだ。


 きっかけは友人であるチエ子の告白を将志郎が断ったせいだった。


 大事な友達が振られたとなり将志郎へ対する怒りが暴走した。


 恨みのまま彼に好意を寄せた者たちを襲い続けていた。


 最初に通報した際には自分で足を切ったという。


 将志郎に罪を擦り付けるために奔走したのは天晴ではあったが、人を傷つけたせいで枯れ葦に変容していった。


 だが葦の力に目覚めたのが突然すぎる気がして、検討する余地はまだまだある。


 ハンカチの件も自ら用意したと自白した。


「まじないを使った。夢の中でだれかが教えてくれた」と彼女は言うが、詳しいやり方は忘れており、やはりこちらも疑問が残る。


 そして陽之衛たちが事情を聞きに来たせいで計画が危ういと気づいてしまったのだ。


 だからなにかしらの手を使って少女たちに「犯人は将志郎だ」と証言させて逮捕を早めさせた。


「そのなにかしら、ってのがわからないんだよ」


「ハンカチを複製したのと同じく、おそらくだれかからまじないを与えられたと思うのですが……」


「もやがかかってて見えないんだっけ。正直すっごくまずい状況だよねぇ」


 何度も話し合ってきたが真相は暗闇から出てきてくれない。


 盛大なため息を零した陽之衛の肩を揉んだ。


 そのとき事務所の扉が開き、カランと来客の合図が鳴る。


 慌てて姿勢を正せばよく知った快活な声が先に部屋に入ってきた。


 まるで岩戸が開いた気分に瑞兎の胸が高揚した。


「よぉ、お二人さん。いま大丈夫か?」


「将志郎! 遅かったじゃん、すぐお礼言いに来いよ!」


「悪い、手続きと親父への報告が手間取っちまって」


 頭をぶつけながらこの度お騒がせの中心にいた青年が姿を見せてくれたのだ。


 元気な様子に二人は心配はいったんよそに、抱き着く勢いで駆け寄った。


 よかったよかった、と将志郎を囲んで回る。


「相談してよかったと心の底から感謝しているよ、本当にありがとうな」


「どういたしまして、親友くん。今回は偽物だったけど無事かまいたちも見つけたわけだし、俺たちの功績も大々的に新聞にとり上げられるよね」


「あぁ、そのことなんだがひとつ警察から言伝を預かっていてさ。悪いが、今回は全部秘匿にするそうだ」


「ハ?」と親友からの伝言に陽之衛が素っ頓狂な声をあげた。


 喜びで温かくなっていた部屋が急激に冷えていく。


「そりゃ、いまの日本を支える官僚のご令嬢なんだからもみ消すに決まってるだろ。俺が人身御供にならずに済んでよかったじゃないか」


「いや、でも、依頼がわんさか来るはずなんだけど!?」


 調査事務所の二人は顔を見合わせてからすがるように将志郎の服を掴んだ。


 しかし彼がそれ以上の事情を知るわけもなく、同情のこもった手に肩を撫でられるだけで終わった。


 まだまだ地道な宣伝活動が必要らしい。


 ごろん、と陽之衛は床に寝転がって「つまんない!」と叫んだ。


 それを面白がって将志郎が陽之衛を転がしていくものだから、瑞兎が慌てて止めに入る。


 けれど主人に噛みつかれそうになったので「こらっ」と叱りつつ頬をぎゅうっとつまんだ。


 結局はしばらくは二人で陽之衛を転がし続けた。


 これではさっさと人気事務所になってもらわないと若様が凶行に及ぶかもしれない。


 心配は湧いてくるものの、日常が帰ってきたとようやく瑞兎も肩の荷が下りた。


 陽之衛も満足したのか、瑞兎の肩を小突いた。


 一枚の紙が渡され、そうか、と胸が締まる。


 葦が関わっていた以上は将志郎の記憶を消さなければならない。


 警察が夢子を隠ぺいしたのもこちらが本当の理由だろう。


 まじないを書き、遊んで息の上がっている友人へ手渡した。


(告白はなかったことにできる。でも、いつまでこんなのを続けるんだろう)


 疑問を腹の奥に仕舞いこみ、ふっと彼の額に息をかけた。


 ほどなくこの事件のことはあいまいな記憶となり、世間からも消えていく。


 そうしなければ葦は人間とは暮らせない。


 けれどそうしてでも神は葦と人間をこの葦原中津国に一緒に住まわせたいと考えている。


(神様はなにを望まれてるのかしら──)


 しょせん人間と神の間を取り次ぐだけの葦にはいくら考えても、答えはわからないのだった。

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