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25話 一発勝負

 暗い夜道を一人で歩く。


 あえて隙を作り、後ろを気にする素振りをしながら川に近づいた。


 せせらぎが聞こえるほど静かな夜だ。


 体を張ることは何度もしてきた。


 それこそ熊と相対したり、妖怪が出ると噂の寺に一人で置いていかれたりと陽之衛の無茶はとどまることを知らない。


 けれど今回は訳が違う。


 手汗を拭うために服を撫でた。


 正体不明なものを追うよりもずっと緊張している。


 唾を飲み、〝真犯人〟が現れるのをいまかいまかと待つ。


 このままなにも出てこないで夜が明けたら将志郎は犯罪者としての烙印を完全に押されてしまう。


 そうなれば将来が絶望的だ。


 緊張で詰まっていた息を吐き、瑞兎は足を止めた。


 月の光が嫌に明るくて不安が押し寄せてくる。


(もしかしたら犯人はもうとっくに自分たちの計画を知っていて、正体が暴かれるのを恐れて身を隠しているんじゃ)


 あの絵は間違いなく枯れ葦を描いたのものだった。


 人間の体の上に浮かんだ影のせいで背が大きい男性に見えていたのだろう。


 だったらかもしれないという予想はたくさん増えていく。


 ガチ、と背骨に埋め込んだ刀が震えた気がした。


 もっと集中しろと忠告されている気がして、首筋を撫でる。


 刀がさらに音を激しくした瞬間、ひやりと冷たい風が頬を撫でた。


 冷気は頬だけでなく、足元にもうっすらと膜を張りだしたように感じた。


 決して心地いい物とは言えずに恐怖心がどっと沸きだし、口から声が漏れそうになる。


 そうだ、逃げなければ。


 急ぎ足で歩き始めたとき、なにかが足首に絡みついた感触があった。


 あ、と足元に目をやれば黒い手のようなものがまとわりついていた。


 振ってもどうにも剥がれない。


 冷えた感触は瑞兎の体温をどんどん奪い始めていて、それがさらに恐怖心へと変貌していく。


 このままでは命も危ないと瞬時に判断した瑞兎は走って引きちぎろうと一歩を踏み出した。


 しかし思い切り後ろに引っ張られ、体が地面に叩きつけられ痛みに呻く。


 そこでようやく背後を確認した。


「絵は間違ってなかった……!」


 それの身の丈は六尺以上あった。


 四肢は生えているが、上半身から頭にかけてくびれがなく、大きな丸だ。


 一目見て異様だとわかる。


 背後に月が昇っているため、表情や服装、外見のなにもかもが陰で黒くなっていて詳細がつかめない。


 叩きつけられた痛みをなんとか堪え、瑞兎は足に付いた黒い手を解こうと引っ掻いた。


 その手はあの異形から伸びており、段々と力が入ってきている。


 ミシ、と嫌な音が足から聞こえた。


「痛、は、離せ、あっ!」


 反応するのが一瞬だけ遅かった。


 絡みついた手を取る前に別の手が瑞兎の頭上に振りかかってくる。


 その手には小刀が握られていて、まっすぐに瑞兎の脳天を突き刺さんと降りてきているのをゆっくりと認識した。


 まずい、と地面を引っ掴んで力を込める。


 勢いをつけて体を横に弾き飛ばした。


 川の傍にある転落防止用の柵に肢体を強く打ち付けてしまったが、小刀からは逃げられた。


 異形は、ためらいもせずなんとか一撃をくわえようと腕を振り回し続ける。


 川べりに飛んでしまったせいでこれ以上の逃げ場を失った瑞兎もどうするべきか頭を大回転させていた。


 あれは枯れ葦だ。間違いないのだが、足に絡みついたものを取らなければ儀式を行えない。


 外そうにもがっちりと食い込むほど掴んでいる。


 さらにギリギリと力を強めてくるから、これ以上力が加わったら折れてしまうかもしれない。


 冷や汗と脂汗で髪が濡れた。


(どうする、危ないからまだ若は呼べないぞ……。なにか状況を変える一手があれば!)


 ──そのときだった。


 一発の銃声が響き、飛んできた小さな弾が黒い手と腕の間を貫く。

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