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23話 たぬき親父ふたたび

 二人はかまいたちが出たすべての現場に行き隅々まで調べた。


 少女たちの血痕が痛ましく残っているだけでめぼしいものは警察がすべて押収しているようだ。


 昨晩のハンカチも見つからず調査はさっそく行き詰った。


 もう夕方も近い。


 鹿島から面会が可能になった連絡も来ないし現状をまとめる方が早いだろう、と開店準備をしているたぬきのうどん屋を借りた。


 気前のいい親父は二人に茶を出してくれた。


「犯人は将志郎を恨んでいる、なら罪をかぶせるように仕組んでいたと俺たちは考えていた。だから将志郎が逮捕された時点で目的は達成されているはず。問題なのは俺たちはこの結果を覆さなきゃいけないってこと」


 瑞兎も記録を取っていた手帳から顔を上げた。


「証拠も不十分なのにどうして慌ただしく逮捕に踏み出したのかがわからない」


「将士郎さんは本来こんなに早く逮捕される予定はなかったと?」


「だって素人の俺たちだって不自然に感じてるじゃん。急転直下すぎるし、もっと慎重に事を運ぶつもりだったんじゃないかな」


「本人に追っているのがバレたからだったりして」


 起きてしまったことをひっくり返すには過去に行くのが手っ取り早い。


 残念ながらそんな力はだれも持ちえていないし、現実的ではない。


 それではどうやって犯人を探せばいい?


 捕まえるにはなにから探すべきだ?


 うーん、と瑞兎は首をひねった。


 このまま迷宮入りしてしまうかもという焦りで思考もぐちゃぐちゃに混ざりかける。


 しかし出汁の良い匂いがしてきたことで脳が刺激されたらしく、ある考えがひとつ浮かんだ。


「そもそも若は将志郎さんが持っていた方のハンカチが偽物だといつ気づいたんですか?」


 告白現場にいきなり突撃してきた理由はまだ判明していなかった。


 瑞兎からの問いに陽之衛は一度ぎょっと目を丸くしたが、すぐにそれを半目にして言いたくないのかそっぽを向こうとする。


 急いで彼の頬を両手ではさんで「若!」とうながせば、口がとがった。


「ねずみ……。将志郎の部屋に忍ばせてた一匹が教えてくれたんだよ、持ってるハンカチが違うこと」


 瑞兎は絶句して体を強張らせた。


 自分に黙ってまさかねずみを親友の部屋へ送っていたなんて夢にも思うはずがない。


 なぜたかが小動物がそんな優秀なことができるんだ、そもそもやっぱり将志郎を疑っていたな、とかいろいろ言いたいことが山ほど頭の中に浮かび爆発した。


「う、ぐ、そのねずみさんはいまどうしているんですか」


「食べられた」


「は!?」と大きな声が出る。


 陽之衛は面倒くさそうにため息を吐き、懐から変化をかけられていた元ハンカチの葉を出した。


「報告を受けたときに一瞬目を離したんだ。そしたら何かに食われてたんだよ。残ってたのは尻尾だけだった。きっと事件を探ってたから裏にいる黒幕に消されちゃったんだな」


「だからハメられた、と叫んだんですね。ではあの場に犯人がいた可能性もある、と。そしてその人が警察に通報したのかもしれません」


「そうだね」と陽之衛が葉をくるくる回す。


 だが話はちっとも進展せず、このやり取りも結局はいま判明していることの確認事項のみで終わってしまった。


 もう一度瑞兎は自分の脳内をまさぐって、おて思い出したのは、些細なことだからすっかり話題に上げるのも忘れていたことだ。


 陽之衛にどうでもいいと突っぱねられるのも嫌だったからすっかり抜け落ちていた。


 しかしいまとなっては関係がないとは言い切れなくなってしまった。


 被害者の一人である夢子と話したときに覚えた違和感がよみがえる。


 そして彼女は自分が将志郎と落ち合うときになぜか〝彼のそば〟に来ていた。


「夢子が? 歩くのは問題なさそうだったけど、襲われたならアイツの近くにいくのはたしかに違和感があるかも」


「そう、それにもたれかかったんです。ねぇ、これってなにかつながりがあると思いませんか?」


 陽之衛がうつむいて顎に手を添えた。


 うーん、と考え込み、ぶつぶつと独り言を始める。


 手伝いたい気持ちはやまやまだが、きっかけとして言えたとしてもこれ以上のことは思考が回らない。


 あとは陽之衛にひらめきが訪れるのを待つだけなのだが、お腹がぐぅ、と同時に鳴った。


 親父が出来上がったうどんを出してくれた。


 ちょうど空腹で頭の切れも悪くなっていたところだった二人はありがたく腹を満たすことにする。


 温かい汁にほっと一息吐いた。


 相変わらずうまいうどんに舌鼓を打っていると、横にだれかが座ってきていた。

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