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20話 驚天動地

 突然のことは重なる。


 将志郎が返答を言い終わる前に、ピーッと笛の音がけたたましく辺りに響いた。


 そしてどこに潜んでいたのか、黒い制服の警官たちが一斉に三人を囲んでいた。


 チ、と陽之衛が舌打ちをして警察官たちをにらみつける。


 呆れと怒りが含んだ視線に引き釣り出されるように、彼らの間から女が一人出てきて陽之衛の前に立った。


「取り押さえろ」と彼女の低い声で合図が飛ぶ。


 警察官たちが将志郎を掴んだ。


 瑞兎が動揺しながらも引きはがそうとしたが、ほかの者に「危ない!」と保護され距離を離されてしまった。


 将志郎は数人にがんじがらめにされ、茫然自失のまま陽之衛たちの方に視線をやっていた。


 だれも状況が把握できていない。突然の逮捕劇に空気が止まる。


「連行しろ」


「ハッ!」と敬礼した警察官たちが将志郎を連れて女警官の後ろへ下がっていった。


 伸ばした瑞兎の手が彷徨い、力なくしな垂れた。


 女は切れ長の目で陽之衛を一瞥する。


 背は将志郎よりも高く六尺ほどあり、皺ひとつない制服からは冷気が漂っているかのようにも感じられる。


「ケガはありませんか。ないのなら早く家に帰りなさい。不問とします」


「八咫……。こんなこと鹿島が許すとは思えないんだけど。だれが逮捕を強行したの」


 失礼な物言いに女が鼻を鳴らした。


 軽蔑の色を浮かべ、陽之衛と目線を合わせるために身をかがめる。


 親が子供に言いつけをするときのようだ。


「あの昼行燈にはずいぶんと困らされたものです。今度はどんな餌をもらったんでしょう? たかが庶民がなにを嗅ぎまわっているんだか」


「餌を欲しがってるのはあんたたちだろ。かわいい愛弟子にそんな敵対心丸出しにして恥ずかしくないわけ?」


「不出来な弟子をしかりつけるのだって骨が折れるのです」


 女警官は陽之衛の反論に呆れてからひとつうなずき、合図を送り瑞兎を解放した。


 陽之衛もすぐに瑞兎へ駆け寄り着物を整えて無事か確かめる。ケガもなにも見当たらない。


 安堵したのか強張っていた力が少し抜けたらしく、表情が柔らかくなった。


 ただ陽之衛が声をかけるも、瑞兎は小さく震えたまま目の前で起こったことが信じられないのか茫然としている。


「若、」とようやく瑞兎が陽之衛にすがりついた。


 優しく抱き留めてやった陽之衛が背中を撫でるが、どんどん体温が冷たくなっているのに気づく。


 腹の底が煮える感覚がした。


 ギリ、と歯を食いしばり、八重歯で唇を噛んだ。


 女をもう一度にらんでからピュイ、と口笛を吹くと音もなく影から顔を隠した者たちが出てきて瑞兎を抱えた。


 逃げるのは癪だが、引き際はわきまえているつもりだ。


 これ以上もめても悪い方向に進むだけだとわかっている。


「夜道にはお気をつけて」


 女が軽く礼をして身をひるがえす。


 まるで光が消えたように一瞬だけ大量の烏に月が覆われて辺りが暗くなった。


 その場にはもうだれひとりいなかった。

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