18話 女装なんてしたことないから…
腰回りがきつい。思えば女性の着物を着たのは初めてだ。
締め付けで胃が飛びでそうなことに怯える。
早く来て欲しいが来て欲しくもない複雑な心境がさらに胃を苦しめている。
将志郎には事前に『真犯人を捕まえるために芝居を打つ』と伝えた。
伝達は陽之衛が行ったから、この計画を知っているのは三人だけだ。
日も暮れてきたころ、大学の門の横に立ち将志郎を待つ。
教授に呼び出されてずっと手伝っているそうで、真面目な性格が伺える。
そういうところがまた人を惹きつけてやまないのだろう。
道行く人や生徒たちにじろじろと見られて恥ずかしい。
もしかして男だとバレたのだろうかと焦燥感に駆られた。
なんとしてでもほかになにか提案できたらよかったのだが、いや、女装する必要が元よりなかったとしか思えない。
「あら」と女性の声が聞こえ、うつむいていた顔を上げた。
外国人の女性が目の前に立っていた。
翡翠色の目が息をのむほどきれいだ。
「お人形みたいな方。どなたか待ってらっしゃるの?」
返事をしようとしてすぐに口をつぐむ。
所作は誤魔化せても声までは変えるのは難しい。
女性も何か察したのか、声をひそめてから「ごめんなさいね」と謝罪してきた。
「これから大事な用事があるように見えたから。コーディネートはいいけれど、少し物足りないわ。差し上げる」
そう言うと手の上にかんざしが置かれた。椿の枝に蛇が巻き付いている意匠だ。
レディは瑞兎の髪を耳にかけると、そのかんざしをゆっくりと瑞兎の髪に挿した。
レースに包まれた細い指の感触に思わずドキッと心拍数が早くなる。
「似合っているわ。これならどんな殿方でも振り向いてくれそうね。ふふ、聞いていた通りかわいい人だこと」
「え──?」
思わず驚けば、シッと注意を受ける。そのまま頬を撫でられた。
瞬間、頬から痺れるような感覚があり瑞兎が目を見開くと、耳元で「ご主人様によろしくね」とささやかれる。
警戒して一歩さがった。
「目当ての方が来たみたい。健闘を祈っておりますわ」
彼女が微笑むと、背後が少し騒がしくなり門の中をのぞいた。
騒ぎの原因はレディの言う通り将志郎がようやく現れたからだ。女子たちがわっと盛り上がった声だった。
興奮しただれかが彼の体に寄りかかるように倒れている。
(あれ、あの人、夢子さまに似てる……?)
しかし将志郎は女性を支えてから、すぐに起こして周りのことなんてまったく振り返らずにまっすぐこちらへ向かってきた。
瑞兎もややぁっと目的を思い出し、姿勢を正す。
それに先ほどの外国人の彼女に礼を言わねばと辺りを探したが、もう姿はなかった。
「お待たせしました。少し歩きましょうか」
軽くうなずいて歩き出した将志郎のあとに続いた。
後ろから文句が聞こえてきた気がしたが、ちょっとだけ優越感を得たのでまったく耳に入ってこなかった。




