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11話 事務所開設しました!

 よろづ事務所からオカルト調査事務所になってから早一週間が経った。


 各新聞社に小さいが広告も載せ、商店街やあの薬屋にもチラシを張ってもらっていたので依頼が引く手あまただろうとタカをくくっていた陽之衛だったが、最初はだれでもつまづくものである。


 いままで来ていた依頼は警察内にいる葦の鹿島が「不可思議な事件」として扱われたものを回してきてくれていたのだ。


 自分たちで民間から依頼を受けようとしているのは初めての試みだったのも相成り、閑古鳥が元気に鳴いていた。


 ソファに横になり、所長である陽之衛はいじけるように雑誌を読みふけっている。


 情報収集なのか民衆への文句を探しているのはわからないが、大人しい分には手がかからないので世話役の瑞兎としては大変助かった。


「暇すぎてぜっんぜん面白くない!」


 やはり文句を探していたようだ。


 机にお茶を置きながら、瑞兎は同調するフリをするためにわざとらしく肩を落とした。


 実際は陽之衛の変わらなさに落胆しているだけである。


「鹿島様からもらった事件もことごとく外れ続きでしたし、次の手を考えませんと」


「とか言いながらうれしそうじゃん。お客さんが来られないようになにかしてないだろうな」


「そんなまさか」と目をそらした。


 指摘された通り、うれしいのは本音だが決して若様の邪魔はしていないとお天道さまに誓う。


 苦渋の決断の上、この事務所の開設を許してもらうためにほかの葦とどれほど交渉したか。


 あんなことはしばらくやりたくない。ふたを開けてみればこの暇さでほっと安堵しているだけである。


 ついに陽之衛が「飽きた!」と雑誌を放り投げたので苦笑しながら雑誌を拾うために立ち上がると、玄関のガラス部分に人影が写った。中腰のまま動きを止める。


(お、お客様だ!)


 急いで拾ってソファの端に置き陽之衛にあたふたした状態で伝えれば、さすがの陽之衛も緊張したのか、目が猫みたいに丸くなっていた。


 おかげで瑞兎は冷静さを取り戻すことができ、主人の乱れた髪を整えることができた。


 チリン、と知らせの鐘が鳴る。


 入ってきたのは身長が高く、はっきりと目鼻立ちが整っている美丈夫だ。


 陽之衛と同じ学生服を着ており、少しかがんで玄関をくぐってきた。


「ごきげんよう、お二人さん」


 麗しい見目によく似合う低音が室内に響く。


 瑞兎がちょっとだけ嬉しそうに床を足で叩いた。


「何しに来たのさ。冷やかし?」と陽之衛が怪訝な態度で青年を迎え入れる。


 がっかりした気持ちをあらわにされたせいで、来客人も困惑したのか入り口で歩みを止めて肩をすくませた。


「親友のお出ましにずいぶんな態度じゃないか」


「ここは調査事務所だぞ。遊びに来るならあっちの玄関から来てよ」


 瑞兎はすぐにその背年のそばに行き、帽子と外套を受け取って中へ招き入れる。


 香ってきた椿の匂いを肺に満たした。


 冷静を装って彼をソファへと案内してすかさずお茶を出す。


 陽之衛の面倒をみているときよりもずっと機敏な動きをしていた。


「ありがとう。今度は調査事務所なんて大変だな。無理はしてない?」


「へっちゃらです。仕事ですから。えへへ」


 優しく声をかけられつい照れてしまう。


 だが陽之衛が咳ばらいをしたので従者であることを思い出し、軽く礼をして一歩下がろうとした。


 だが手を取られた。


 青年の熱い手の温度に肩が跳ねる。


「いつも頑張ってアレの世話をしてる瑞兎にお土産。猛獣に盗られないよう気を付けて、あとで一人に食べるんだよ。あげたらだめだから」


「は、はい、ありがとうございます。将志郎しょうじろうさん」


 小さな包みが手のひらの上にぽんと置かれた。


 淡い色合いの和紙に包まれたかわいらしい菓子だった。


 うさぎの耳を模した包装に頬がほのかに熱くなる。


 なにせうさぎは自分の名前にも入っている動物だから、きっと思い出してくれたんだと嬉しさが込みあがってきた。


 そしてその気持ちを抱きしめながら物欲しそうな猛獣の視線をにらみ返して追い払った。


 なんとも紳士な将志郎は元・土族である由良家のご子息で、あの自由で破天荒な若様と高等学校時代から大変に気が合い仲良く悪友をやっている稀有な人間だ。


 しかしいま手を握っている友人の世話役が実は神様の遣いだということは微塵も知りはしない。


 用が済んだのか手が解放されて離れて行く。


 追いかけそうになり、はしたないと己を律してすまし顔で見送った。


 もう将志郎の目線は陽之衛へと戻っている。


 瑞兎はバレないように気をつけながらきれいに七三に整えられた髪型を上から眺めた。


 椿の匂いは整髪料のおかげだろう。


 この眉目秀麗な男子を一目拝見するたびに甘い気持ちを抱く自分をいつも恥じる。


 その見目の良さ、優しさから女子に驚異的におモテになるほどで、ついでに人以外の者も惹きつけてしまうらしい。


「そんなに見られたら穴が開いてしまうよ。そうだ、瑞兎も聞いてくれるか」


 考えていたことが覗かれたかと思い、スッ転びそうになった。


 体幹が強くて助かった。踏ん張ったせいでくじいた足首をかばいつつ笑顔で返事をする。


「この事務所の最初の仕事になると思うんだが、とある現象について調べて欲しい」


「最初って、ひどいな。別に名前を変えただけで前々から依頼は来てるし」


「ふん? そうだったのか?」と親友からの抗議に将志郎は首を傾げたが、気にせず続けた。


「俺の周りでちょっと見過ごせないことが起きていてな。依頼料はちゃんと払うから安心してくれ」


「金はいいよ、重要なのは内容だから。それで?」


「面白ければ契約成立、その方が現金だな。君たちは婦女切り裂き事件、たしか『かまいたち事件』だったか。知っているか?」


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