隊と課題
~渚 side~
「渚!渚!」
外に出かけていたナギがバタバタと部屋の中に入ってくる。
「な、なに…?ナギ。私、そろそろ限界で…」
「報告書オーケーだって!登校できるよ!」
その言葉に耳を疑う。
「っ!ほんと…!?嘘じゃない?待って…た…」
ガタリと椅子から崩れ落ちる。
「渚…?渚―ー!!」
例の事件から3日後、この時を待っていた。
というのも昨日と一昨日、ネメシウスに襲われたことを報告書でまとめろと言われ、寝る間も惜しんでずっと書いていたのだ。
書ききるまで学校へは来るなとの指示かつ再提出は時間制限付きで、さらに私は字が書けないのでやり直し地獄を食らっていた。
「今日はもう…何もしない…」
その日は泥のように眠った。
翌日
眠ったはいいが疲れは完全に取れておらず眠い目をこすりながら登校する。
「おはよー!」
「…」
ナギは元気よく教室の扉を開けるとすでにみんな揃っていた。
「おはようさん。ナギちゃん元気やなー」
「うん!もう学校休むのしんどくて」
「うっす」「…おはよう」
「テオ君とイリス君もおはよう。あれ?イリス君髪の毛と姿が元に!」
「これが一番…楽…」
「怪我の跡もないしもう大丈夫そうだね」
「二人ともおはよ~。あれ~渚ちゃん~元気ない~?」
ふらふらしている私の方を見る。
「ミーネちゃん。大丈夫だよ、渚は寝不足で疲れてるだけだから」
「寝不足?なんか夜までやってたん?」
「報告書の再提出。渚、字が書けないから。文字の勉強からになって…」
「あぁ、文字…いや、つっても文字と内容は別だろ?そんな難しいとは思えねぇがな」
「ううん、文字間違いとか字が汚くて読めないとかでもやり直し食らってたから…。それになぜか渚だけ添削の量がすごくて」
「カミラ先生を…許さない。50回はやり直しを出した」
「マジか…考えたくねぇな…」
音声言語が同じだから簡単と思っていた文字がここまで大変とは思わなかった。
ひらがな、カタカナ、漢字の3種すべてがアラブ文字のようなミミズで構成されていて、覚えるのも書くのも難しい。
丁寧に書いたつもりだが、字が汚い判定もわかりづらい。
「二人とも~早く座って~」
気が付くとミーネが手招きをしていた。
「うん!渚、朝礼まで寝てなよ。少し前に起こしてあげるから」
「そう…する…」
席に座り、机に突っ伏して軽く眠る。
起こされた時、気が付けば髪の毛が三つ編みになっていた
「F組、全員いるな」
朝礼の鐘が鳴り、カミラ先生とレオナ先生の二人が教室に入ってきた。
「あれ?レオナ先生?」
「ナギ生徒か。いろいろあってな」
「あぁ!レオナ先生いるってことは前の時の説明とかしてくれるんやね!」
ソウマがひらめいたように言うが、先生たちの表情は変わらなかった。
「そのことだが…上からストップがかかった。言えることにいくつか制限がある」
「はぁ!?どういうことだよ!あんなことがあって…俺ら無関係じゃねぇだろ!」
突っかかるテオに対しレオナ先生は少し目を伏せる。
「すまんなテオ生徒。これでもいろいろ手は尽くした。元々ただのアルカディアの生徒である以上、詳細は伏せることで一致されたんだ。とはいえ答えられるものは答える予定だからそれで納得してほしい」
「マジかよ…」
うなだれるようにテオは頭を垂れる。
「F組生徒の今後についてはこれから話す予定だ。それ以外についての質問はひとまず今答えてやる。聞きたいことはあるか?」
するとイリスがそろそろと手をあげる。
「…じゃあ…襲ってきたあいつ…何者…?」
「答えられない」
「私も質問~。襲ってきた目的は~?ひずみって~なに~?」
「それも答えられない」
「あの、報告書にも書いたんですけどネメシウスっていう人、私の魔力を知ってるって…」
「ナギ生徒のそれも…審議中だが、おそらく答えられない」
ミーネ、ナギと続くが肝心なことは何もわからない…。
どうしようと考えていると、ソウマが手をあげる。
「あ、じゃあ僕らを捕まえた人らとあのおじいさんは誰なんです?団体名とか言えんの?」
「ふむ、それは答えられる。彼らは『オルセン管理組合』。この辺りの自治などを行っている。真ん中に座っていた老人がゲオルグ会長だ」
「オルセン管理組合…会長…。隊長とか言われてた気ぃするけど先生たちももともとそこにいたんですか?」
「…そうだ。私とカミラは1年違いの先輩後輩だ」
「ふーん、ありがとうございまーす」
ソウマは納得したようで質問を終える。
「俺も聞きたいことがあった!」
テオも続けて手をあげた。
「俺らが落とした箒ってどうなってんだ?今あの場所立ち入り禁止だろ?探しにも行けねぇんだけど」
「あぁ、箒か。問題ない、こちらで回収して預かっている。ただ、落ちた衝撃で壊れていたので修理中だ。数日以内に返してやるから安心していろ」
「お、マジか。新しく買わなくてよかったぜ」
「…」
私はこれから…。
「おい、どうした?赤月渚」
暗い顔をしていたようでカミラ先生が声をかける。
「あの…」
「赤月生徒、大丈夫だ。言いたいことがあるなら言え」
「…!」
だったら。
「私、ここにいても問題ない?」
「あ?何を…」
「私の存在、異質で自由すぎる気がする。オルセ…何とか組合の会長もおかしな要求してなかった…と思う。私が原因ならこの学校にいても大丈夫かなって」
「それは…」
「大丈夫に決まってるよ!」
ナギの声が響く。
「自由にしていいって当たり前だよ!あの髭の人、急に連れていかれて急にもう会わせないなんて言っててどう考えてもおかしな要求だったよ!そんなところに行かせない!それだったら自由にしてくれる先生たちがいいに決まってるよ!そうですよね、カミラ先生!」
突然のナギの言葉にカミラ先生があっけらかんとしている。
「先生?」
「…あ、あぁ、すまん。どこにも渡さねぇしできる限り自由にさせてやる。そのために先ぱ…レオナ先生や私が駆けずり回ったんだ」
「…」
「今回の報告書の件もそうだ。何枚もやり直しをさせただろう、あれくらいしなければ頭の固い奴らを説得するのは無理だった」
「…そう。わかった、信じる。報告書も…うん。正直あれは嫌がらせと思った」
「そうだろうな。だがちゃんと意味はあった。あのやり直しの束を見せたらゲオルグ会長は手が震えるほどビビってたからな」
「くくっ…」「いい気味や」「お~」
そこかしこから笑い声が聞こえる。
なるほど、だったら胸を張ってこの学校にいよう。
そう決意する。
「さて、じゃあそろそろいいか。今後のF組の話をする」
レオナ先生は手をパンと叩いて話を次に進める。
「俺たちの話って…なんだよ?」
「端的に言うとF組には私の隊に入ってもらう。拒否は認められない」
「…」
あらかじめナギに話を聞いていたから驚きはない。
ただ…。
「そもそも隊って何?オルセ…何とか組合と関係ある?ほかにも隊がいる?」
「待て、赤月生徒。その辺りの私に関する質問は答えられない。契約後のF組は先生と生徒という関係だけでなく、私の部下にもなるといった関係になる。そう思っていればいい」
「部下…」
「…ん?あれ?でもおかしない?ゲオルグ会長さんに言った時はF組はもう隊に入ってるって話やったと思うけど」
「あぁ、あれは嘘だ」
「な…嘘!?」
「だからこれから契約となる。あれを嘘にしないためにもな」
「あ、あれはハッタリなん…?でも確かに僕ら契約とか書いてへんし…」
信じられないような顔でソウマは先生を見る。
「え~?でも~あの時~?」
「…ナギ。懲罰の…命令…」
「??」
それは知らない。
「ん?あぁ、懲罰…口をきけなくした時か。簡単だ、ナギ生徒と赤月生徒は先んじて隊の契約をしている」
「え!?私!?」
「!」
「赤月生徒が来たときに書類に何枚もサインをしただろう、あの中の一枚だ。ナギ生徒も名前を書く欄があったはずだが」
「……あ。あぁ!!あれがそうですか!?ひどいですよ!」
「先手を打つために必要なことだったからな。保険程度で表沙汰にするつもりはなかったがこうなった以上はどうしようもない。諦めるんだな」
「うぅ…」
ナギが机に突っ伏す。
「いや、まぁそれはいいんだけどよ。俺たちはどうなるんだ?隊っつうことはなんかやらなきゃならねぇんじゃねぇか?」
「それも問題ない。隊と言っても半分はお飾りだ。基本的にはアルカディアの学生のうちだけの肩書程度だと思ってもらっていい」
その言葉にみんな安堵する。
「じゃあこのまま…」
「だが私の隊となった以上、怠けるのは許さん。訓練はしっかり行う。指導隊長はカミラに。成果もきっちり出させるからな」
「カミラ先生が?でも隊の一番上はレオナ先生で…」
「私は隊長、先輩は大隊長だ」
「…」
違いが分からない。
「説明が終わったところで大隊長として1つ課題だ。2か月後、アルカディア対抗祭というクラス対抗のスポーツ祭がある。このスポーツ祭、A組からE組全てを出し抜いて優勝しろ。敗北は認めん」
またとんでもないことを言われた予感がした。




