ネメシウスの脅威
「こらすごいな…」
眼前が泥の海となって広がっている。
前の洞窟の時のようにナギ自身が巻き込まれることもなくこちら側には何も影響はない。
「はぁ…はぁ…」
「ナギ!大丈夫?」
ふらふらと倒れそうになっているところを私は支える。
「だ、大丈夫、魔力がなくなっただけ。それよりみんな…みんなは?」
足取りが不安定のままイリスとミーネのところへ向かう。
「はぁ…イリス君!平気?さっきみたいに治癒できる?」
ナギか聞くとイリスは苦しそうに答える。
「ぐ…治療に…1時間…欲しい。それより…ミーネが…足を…」
「え?」
ミーネの方を見ると血が止まらず流れ続けていてずっとそこを押さえている。
「ミーネ!」
「ミーネちゃん!」
「いっ…!だ、大丈…夫~」
ミーネは汗をだらだらとかきながらぎこちなく笑っている。
「止血する!」
私はハンカチを出して足に巻き、ギュッと絞る。
「あっ!ぐぅ…」
そうとう痛むのか立つのも厳しそうだ
するとテオを見ていたソウマが叫んだ。
「あかん!テオ君ほっといたらマズいわ!早く治療せな!」
「な…!どうしよう、移動するにも…」
怪我人だらけで動けない。
それにどこまで続くのかわからない谷の底を歩き続けるのは無理だ。
「うぅ…」
私が迷っているとナギは意を決したように口を開く。
「私…残る。渚、行って」
「で、でもナギ…!」
「魔力がなくて動くのがしんどくて…。二人を見てるから…テオ君を」
その時、泥の方からザザッと音がする。
「何…あっ…!」
急に大量の包帯が泥の方から伸びてきて私とナギ、ソウマの首に巻き付く。
「あかん!アロ・フレ…ぐく…!」
首を絞められて魔法は発動しなかった。
生き物のような動きで両手足にも包帯が巻かれていき、あっという間に拘束される。
「直撃していれば危なかったですね。よくぞここまで大きな魔法を使えました!称賛に値します!」
ゆっくりと泥にまみれて出てきたのはネメシウスだった。
私たちの拘束で全身の包帯が半分ほど取れている。
その隙間から見える肌は顔や手足、見えるところ全身が火傷や切り傷などで肌がただれてめちゃくちゃな状態となっていた。
「ひっ…ぐ…!」
恐怖で涙がこぼれる。
それを察知したのかこちらに目を向けてきた。
「はて、あなたは何をそのような…おぉ!そうですか、この傷が気になるのですか!これは私が今まで殺した方々を忘れないようにつけているのです」
「名…前?」
「そうです!この傷はアンディ、この火傷はロッド、へボンド、リーク、トロンド…」
一つ一つ傷を見せつけながら名前を言う。
「そして…カミラ」
最後に一番新しい腕の傷をこちらに見せつける。
「先生は…まだ…生きて…」
「いいえ死にました!あの傷!そして私の下部が喉を嚙み切った者がまだ生きているということは万に一つもありません!そしてそれを証拠に私の下部はもうすぐここへ戻ろうとしています!」
「ぅ…く…」
反論をしたいのに声が出ない。
強引に杖に手を伸ばそうとするがすぐに拘束が強くなりピクリとも動かせなくなる。
「あなたはひとまず置いておきましょう、どのような答えであろうと役立ってくれることは変わりありません。その前に…泥の魔法を唱えたあなたです」
そう言ってナギのところへ歩いていく。
「ぁ…」
見ると魔力を絞り切った後で力が入らないのかほとんど抵抗がない。
「ふむ、やはりこの魔力、知っていますね。思い出すのも忌々しいですが…」
「な…にを…?」
「そう!あの方は大罪を犯したのです!いいえ、今も犯し続けていると言っても過言ではないでしょう!私達の邪魔をし、あまつさえ自らひずみを閉じようとしたのです!」
1人でネメシウスはしゃべり続ける。
「あなたは血縁者なのでしょう。存在するだけで私たちの目的の邪魔をする。ですが怒りなどはありません!脅威となる前に私が楽にして差し上げますから!」
「み…みんな…こんな目…かはっ!」
「この場にいる方々でしょうか?何も心配はいりません!あなたの後に対処させていただきます。そう!問題はありません!すぐに私も向かいますから!」
そう言ってネメシウスは左手を出すと、手の先が光り出して矢のようなものが現れる。
「今日は良き日です!脅威を取り除き!さらに目的に近づける人物を手に入れることができたのですから!」
「ナ…ギ……!ぁ…ぎ…!ナギ…!」
杖にさえ手が届けば…!
渾身の力を振り絞るがビクともしない。
ソウマを見るが同じ状況だ。
倒れているみんなもいつの間にか包帯で抑えられている。
私達の力ではどうにもならない。
「ぁ…やめ…!」
「それではお嬢さん、さようなら」
そしてその矢が発射され、ナギの胸に突き刺さろうという時、
「お前がな」
ドゴン!という音が聞こえて急に拘束が解ける。
「げほっ!げほっ!」
息をして暗転しかかっていた脳に酸素をいきわたらせる。
「ナギ!」
顔をあげ一体どうなったのか確認すると、ナギの包帯も私と同じく外れているようで一緒に顔をあげて目が合う。
「渚…」
よかった、無事のようだ。
「随分と好き勝手していたようだな」
聞き覚えのある声に振り返り、目を見開く。
「あなたは…死んだはずですよ!」
茶色い長髪。
服は血で汚れているが見間違うはずがない。
「カミラ…先生…?」
「あー、全員まだ生きてるな」
大きな杖を持ちながらいつものやる気のない目ではなくギラギラと目を細めてネメシウスを見ていた。




