イリスの秘密
目の前の光景がわからない。
長い髪の毛、つぶらな瞳、幼い顔立ち、しなやかな体。
つまり…つまり…!
「イリス君はイリスちゃんだったってこと!?」
「ぶふっ!」
ソウマが吹きだした。
「な、なんで笑うの?だってイリス君のこの姿…」
どう見ても女性に見える。
「ちっげーだろ!俺は見たぞ、更衣室で!イリスが女なわけねぇ!」
「ごふっ!ひひひっ…くくっ!」
「…」
ソウマがさらに笑いだし、サッとイリスが体を隠した。
「…?テオ君、見たって何を?」
「ナギ、それ以上はいけない」
私の疑問に渚が慌てて止めだした。
「は?何言ってんだ。ただイリスが男子更衣室で着替えて…あっ、ちげぇからな!こっちで着替えたこと自体をって意味で直接見ては…つかソウマ笑いすぎだ!」
「くくくっ…!やってわらかしにきてるやん!」
ソウマは笑いころげている。
何が違うんだろう?
「えーっと…それじゃあ結局なんでこんな姿に?」
「そうだな…。あれだ、姿がちげぇからイリスの姉とかだろ。なんでここにいるかはわからねぇが…」
「えー?どっちかと言うと妹っぽくない?」
「んなわけねぇだろ。よく見ろこの…」
議論が白熱していると耐えかねたミーネが口を開いた。
「二人とも~。そろそろイリスちゃんにしゃべらせてあげて~?」
「…」
喋っていないのに疲れたようにイリスはこちらを見ていた。
「ごごごごめん!イリス君…ちゃん?もう喋っていいから」
「あー悪かった。勝手なこと言っちまったな」
素直に謝るとイリスはため息を一つつく。
そしてやっとといった感じでしゃべり始めた。
「僕は…君たちの知るイリスで合ってる…。これには…事情がある」
「事情…」
ゴクリと喉を鳴らす。
「…僕は……シェイプシフターっていう…種族」
「は?シェイプ…?」
聞いたこともない言葉にテオと私は首をかしげる。
しかし当然といったように言葉を続けた。
「変身の種族…。性別もない。特定の形もない。姿も…ない。それが僕」
「変身…。姿が…ない?」
渚、ソウマ、ミーネを改めて見る。
「僕らもさっき初めて知ってん」
「変身するところも見た」
「びっくりした~」
軽く言っているがその目は真剣だ。
「あまり…打ち明けたくはなかった…」
少しうつむいている。
「っつうことは…なんだ?その姿も変身で女に化けたってことか?なんでそんな真似…」
「傷を治した…副作用…」
「あ?」
「自己治癒。代謝を促進させて…傷を治す。すると…髪の毛が伸びる…。女性型になったのは…その方がやりやすいから…」
「えっ、じゃあやっぱり怪我して!?大丈夫なの?」
「問題ない…。疲れたから休んでるけど…怪我は治っている」
そんな短時間で…?
「そう…なんだ…」
何か言おうとして目を合わせるがそらされる。
「こんなところ…。僕自身本来の姿なんて…ない。だからその時によって…性別…姿が違う」
「…!」
思ったよりとんでもないことを聞いた気がする。
「そういえばイリス、朝に更衣室の前で立ち止まってた。あれってもしかして」
渚が聞く。
「性別…ない。みんなから見てどっちの性別に見えてるか…わからなかった…。だから…どっち行けばいいか…わからなくて…」
「そういやこっち来いっつったとたんに男子更衣室に来たな。そういうことかよ」
「…」
何とも言えない沈黙が流れる。
「はい、じゃあイリス君、もう一個ええ?」
ソウマが手をあげる。
「…いい」
「上で戦ってた時やねんけど、腕が金属みたいになったんも変身の能力?変身って言ってもやってることかけ離れてる気がしてんけど」
「…」
「ソウマ…君?」
「それに僕らが風に飛ばされて目も開けるのもしんどいほどになったとき、うっすらとでっかい鳥みたいなんが見えてん。どうみても人間とは思えん姿しててんけど…あれもイリス君?」
「おいソウマ!」
「テオ君は黙ってて!大事なことや!」
「…っ!」
ソウマの一喝にみんなが黙る。
「…軽蔑してくれても…いい」
「…そうなんや、わかった。じゃあ僕が言いたいのは一つや」
少しの静寂が流れる。
「ありがとうな。いやぁ、あれなかったら僕ら死んでたわ。ほんまに命の恩人やで」
「……え?」
「はぁ…。お前マジかよ、ソウマ。ビビったぜ…」
「確かにそうだった、ちゃんとお礼言わなきゃだよね!ありがとうイリス君!」
「うん、ありがとう」
「ん~?よくわからないけど~みんな仲良し~」
「え…あの…僕は…姿がなくて…」
イリスは目を丸くしてわけがわからないという顔をしている。
「あーあー。ええって、そういうのめんどくさいし。みんな仲間でF組のメンバーってだけやから」
「そう…か……ありがとう」
そう言ったイリスは少し目に涙を浮かべていた。




