谷の底
「あ…」
目を開けると薄暗く寝心地が悪い場所。
岩の上に横たわっていた。
「目、覚めたかよ」
「え?」
声の方を向くとテオが隣で座っていた。
それと同時にさっき起こったことが記憶の中で再生される。
「テオ君!ここどこ!?渚やみんなは!?先生は無事かな!それにあの人何!?」
上半身を起こしまくしたてる。
「馬鹿、落ち着け。俺もさっき目が覚めたところだからな。その調子じゃ問題なさそうだが…立てるか?」
「あ、ありがと」
差し出してきた手を取り立ち上がるが特に痛みなども感じない。
辺りを見渡すと左右には岩の壁があり、見上げるほどにかなり高く反り立っていて小さく青い空が見える。
「空…遠いね」
「ああ、多分どっかの崖の下なんだろうよ。最後に覚えてんのは全員がここに落ちたってことだ」
「みんな無事かな…?」
「まぁ俺たちが無事ってことは多分他のやつらも無事なんだろうよ。あんまり心配すんな」
「…」
あの一瞬でいろいろありすぎて頭がパニックだ。
「杖も…箒もない」
途端に不安になりつぶやく。
「あ、そうだった!わりぃ、朝に渡しておくべきだったな」
そう言ってテオが懐から出したものはとても見覚えのあるものだった。
「これ、私の杖!なんでテオ君が?」
「あぁ、昨日親父が張り切って徹夜したらしくてな。すぐ使えるように超特急で終わらせたんだとよ」
恐る恐る取って見てみると割れていた部分に亀裂が入っているのが見える。
「接着をしただけで使えば使うほど割れている部分も繋がって気にならなくなるとか」
「充分だよ!ありがとうテオ君!心強さが全然違う!」
そう言うとテオは少し顔を赤らめた。
「っ!…はぁ、たかが杖一本で何だよ。まぁいい、俺は周りを見てくるつもりだが…ナギ、お前はどうする?」
「私も行く。ジッとなんてしてられない」
そうして私たちは周囲を探索することにした。
「みんなー!どこー!?」
声をあげながら歩いていくが返事はない。
一緒に飛ばされたんだしそんなに遠くにいないと思ってたんだけど…。
「棒切れ一つ見つからねぇな。飛べさえすればこんな場所…」
「ダメだよ。またあいつに見つかっちゃう。見つからずにここから出なきゃ」
上空を飛んでしまえば見つけてくださいと言っているようなものだ。
「んなこと言っても大声出して歩き回ってんのに今更だろ」
「はっ、確かにそうかも。じゃあ小声で叫ぶ」
「意味ねぇだろそれ」
「意味ないかな?」
「…なんでもいい。どっちにしろ動いてあいつらを探すしかねぇんだ。センコーも含めてな」
「…」
ふと立ち止まる。
「あ?どうした?」
「…先生、ほんとに大丈夫かな?」
「…」
「私をかばってやられたんだ。それに狼みたいなの…先生の首に噛みついて…。みんなだって無事かどうか…こんなことになって……うっく…」
次第に涙があふれてきた。
「おいバカ!泣くなよ」
「だってー…」
「あー!テオ君泣かしてるー!」
「えっ」
聞き覚えのある声が辺りに響く。
「あ…ソウマ君!みんなも!」
振り向くとソウマ、渚、2人が立っていた。
「ナギ」
「あう…えと、これは…」
急いで涙をふく。
「かわいそうになぁ!テオ君にいじめられたんやろ」
「ばっ…!」
「ナギを泣かした罪、重い」
「ちがっ!」
勘違いが勘違いを!
「待ってみんな!違うの、これはテオ君のせいじゃなくて私のせいというか…えと、そうじゃなくて」
「知ってる。その辺りからみんなで聞いてた」
「聞いてたの!?」「聞いてんじゃねぇか!」
淡々とした渚の言葉に二人してハモってしまった。
「面白かったからつい。もうちょっと見てようかと思った」
「渚ひどい!」
「そう言う渚ちゃんもすごい取り乱しようやったけどなぁ。ナギちゃんのことずっと心配して…」
「ソウマ、それ以上言ったら口を縫う」
「おっと失敬」
「あぁ…でも二人とも無事でよかった」
「うん」
「おおきに」
ひとまず安堵した後、まだ人数が足りないことに意識が向いてしまう。
「…ミーネちゃんとイリス君は?」
「ん?あぁ大丈夫、二人とも合流済みや。完全に無事…とは言いづらいんやけど」
ソウマは少し目をそらす。
「あ?どういうこったよ。まさかあいつ…」
嫌な予感がよぎる。
「飛ばされて壁に激突する直前、イリスがかばってくれた」
「えっ!じゃあイリス君怪我を!?」
「怪我はもう大丈夫。大丈夫だけど大丈夫じゃない」
「???」
要領を得ない。
どういうことだろう。
「おいなんだよ、はっきり言えよ。無事ではあるんだろ?」
「無事やで。無事なんやけど見た目が…。まぁミーネちゃんも置いてるし見た方が早いわ。ついてき」
そう言って二人は歩き出した。
何なんだろう?
案内された場所は3,4メートルほどの岩で組まれた巣穴のようなところだった。
覗いてみるとミーネが出迎えてくれた。
「二人とも~よかった~。こっち来たんだね~」
「よかった、ミーネちゃん。怪我、ないよね?」
「うん無事~。ただ~…」
ミーネは後ろを見た。
「イリス君、後ろにいるの?えと、大丈夫…ええ!?イリス君!?」
「おい、どうした……なんだお前その見た目!」
イリスの姿を確認すると、紫の髪の毛が腰ほどまで長くなっていて顔だちがより中性的な見た目になっていた。
「あまり…見ないで…ほしい…」




