襲撃
--ナギside--
カミラ先生の飛行訓練はかなり厳しいものだった。
「右翼広がりすぎだ!もっと近づけ!」
「まだ近づくん!?」「クッソ!難しすぎだろ!」
「左翼遅いぞ!周りに合わせろ!」
「え~?」「まだ…コントロールが…!」
「後部!左右をよく見ろ!ずれてるぞ!」
「…!」
確かにこれは授業というより訓練、どう考えても授業じゃない!
こんなの…
「飛べれば誰でもできるなんて絶対嘘だー!!」
「先頭、うるさいぞ!速度にブレを出すな!」
「うぐぅ、はいぃ!」
私たちはすでに三往復も森を行ったり来たりしている。
ジグザグに動いたり寄り道もしているのでブレはあるが往復40分。
往路と復路でそれぞれ位置を交代していき、やっと一巡して終わりかと思ったら四往復目という二巡目が始まった。
「いつ終わるのぉ?」
と、文句を言っても怒鳴り返されるだけなのでとにかく集中する。
そうして何とか森の端へと行き、四往復目の往路が終わった。
「5分休憩!ただし高度は落とすな!あぁ、言い忘れていたが三巡はするから覚悟しておけ」
「「ええぇぇぇ~~!?」」
そう言った先生は魔法の糸を私の箒の先に括りつけ、自由落下していき森の中へと入っていった。
休憩のたびにやるからもう見慣れちゃった…。
「えと、三巡ってことは…」
「はぁ…はぁ…あと5.5往復。まだ半分いってない…」
息切れしている渚が答える。
「渚ちゃん~大丈夫~?」
そう言って近づいてくるミーネは思ったよりケロッとしている。
「はぁ…ミーネ…それにみんなも…なんで息切れしない?」
周りを見渡すと私も含め、確かにみんな息切れはしていない。
「これでも結構疲れてはいるねんけどな。多分魔力の過剰出力してるんちゃうかな?」
「過剰出力?」
「えとね!箒って魔力をいっぱい流しても実はあんまり意味ないんだよ。速くしたり上に行くのにはちょっと頑張る必要はあるんだけど、いっぱい流した分は自分に帰ってきてずっと蠢いちゃう。だからそれを最小限にする必要があって…」
私の言葉に渚は頷いて調整し始める。
「あと手とか肩に余分に力入ってんだろ。俺も気を付けてるがこんな長時間飛ぶことねぇからそろそろきつい」
「慣れればできるよ!まぁ私ももうヘロヘロだけど…」
「…」
イリスも疲れているようでうなずく。
「私~平気~」
「その元気、分けてほしいぜ」
「あはは!」
そうして話していると急に箒の先がクンッと下がった。
「ひゃっ!そろそろみたい」
下から糸を括り、先生がそれを頼りにここまで上がって来たのだ。
「よし、5分経過だ。下で魔力回復薬を作ったので戻ったら飲むように!次の先頭は…」
「僕でーす」
ソウマが手をあげる。
「そうか、今そっちに飛び移…っ!?」
「わぶっ!」
急に頭を押さえつけられた。
「先生!何するん…」
直後、パァン!という音。
何か生暖かい液体が背中にかかった。
「がふっ…!!」
「えっ…」
振り返る。
カミラ先生、血を吐いて、箒から落ち…
何が…起こって…?
景色がスローモーションに見える。
「なんや!?どうしたん!?」
「先生っ…!血が~!」
「が…構うな!!逃げろ!逃げて戻っ…!!ちぃっ!!」
上空から何か降ってきて先生にまとわりつく。
よく見ると2体の真っ黒な獣で先生の首に噛みついていた。
「先生!」
森の中へ落ちていき姿が見えなくなる。
「おい!なんだあいつ!」
テオが指さす先を見てみると、上空にボロボロの包帯をまとった男がそこにいた。
「あぁ、まさか苦しませてしまうとは!全ては私が未熟故!ええ、そうですね、この先は眷属にお任せしましょう。私はこれからやることがあるので!」
「先生が…カミラ先生が」
あの人がやった?どうしよう!先生は逃げろって…でもあのままにしておくわけには。
「おお!先ほどの方はカミラというのですか!ええ!ええ!いい名前です!彼女の名は私の体の傷としてしっかりと刻みつけます!」
包帯だらけの男は急にナイフを取り出し、自分の左腕をゆっくりと切りつけた。
「ひっ!」
「狂ってる…!」
渚が青ざめる。
この場にいる全員が目の前の光景に混乱し、硬直していた。
「ああ失礼、まずは自己紹介からですね。申し遅れました、わたくしネメシウス・キリシルと申します」
そう言いながら丁寧に礼をした。
「カミラという女性は私のお話に邪魔となる可能性が高いため排除させていただきました。これも必要なことだったのです」
「ひ、必要…?そんな…」
「ええ、わかりますよ!私も無駄な殺生は好みません!しかしいち早く私に気づき、さらには攻撃魔法を繰り出そうとしていた!対抗手段として殺してしまうのも致し方ありません」
ネメシウスは懐から何か黒いものを取り出す。
「それ…拳銃…!」
渚が反応する。
「ほう、あなたはこれを知っていると。興味深い、私が探していたのはもしかしたらあなたかもしれませんね」
気づけばネメシウスは渚の真後ろに移動していた。
「渚!レクト…えっ?」
腰につけた杖を取ろうとしてそこに何もないことに気づく。
修理中だった!
「あ…」
ネメシウスの手が渚に迫っていく。
「なっ!」「おい!」
「アロ・サンダー」
バチン!と音がしてネメシウスの手が後方へ弾ける。
「…っ!」
「ほう」
ギンッ!という音がして誰かが割り込んだ。
「みんな…逃げて…。僕が…時間稼ぐ」
見るとイリスが杖を構えて間に立っている。
いや、それより…
「イリス君…その手!」
イリスの手の先が金属バットのように変形していた。
「見せるつもり…なかった…それより早く!」
「アロ・フレア!ファイアナックル!」
「ふむ」
手に炎をまとったテオが追撃するとネメシウスはさらに下がる。
「こっち~。アロ・ウォーターショット!」
「アロ・ウィングカッター!」
「…」
ミーネとソウマが追撃をするが片手でいなされる。
「渚!こっち、下がって!」
私は渚の手を取ってさらに下がらせた。
「ナギ…。私も戦う」
渚も杖を構えだした。
「みんな…どうして…?」
イリスが驚愕の目を浮かべている。
「え?なんでって…一人置いて逃げれないよ!」
「うん、見捨てることできない」
「先生も拾わなあかんしな。絶対かすり傷とか言ってここに戻ってくんで」
「当然~」
「あ!それとてめぇその姿後で詳しく聞かせてもらうぞ!」
そして全員がネメシウスと対峙する。
そんな私たちの姿を見ながらネメシウスは両手を広げる。
「ああ!素晴らしい!このようなことができる方がいるとは!感動しました!実に興味深い!あなた方全員を調べさせていただきましょう。しかしこの状況、どういたしましょう?いえ!悩むことはありません。こうしましょう」
そう言いながら木の棒を取り出した。
「アスレクト・ストーム」
「…っ!」「きゃあ」「あっ!」「うおっ!」「あかん!」「~あっ!」
一帯に台風のような突風が吹き荒れた。




